若者世代が牽引するアナログレコード人気再燃と「RECORD STORE DAY」
アナログレコードの人気が再燃している。
日本レコード協会の発表によると、アナログレコードの2022年の年間生産額は43億3600万円。1989年以来33年ぶりに40億円を超え、最も少なかった2010年の1億7千万円に比べて約25倍の数字となった。
アメリカでのレコード人気はさらに鮮明だ。全米レコード協会(RIAA)の発表によると、アナログレコードの売上高は16年連続で増加し、2022年には売上枚数で1987年以来35年ぶりにCDを上回った。
こうしたレコード復権の潮流のきっかけの一つとなったイベントがアナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY(レコード・ストア・デイ)」だ。毎年4月第3土曜日に行われ、ここ数年はコロナ禍の影響で分散開催となっていたが、今年は4月22日に世界同時開催される。
■レコード人気の背景はストリーミング配信の普及を背景にした音楽消費の構造的な変化
RECORD STORE DAYとは、音楽とレコード店の文化を祝い、アナログレコードを手にする喜びや音楽の魅力を共有する祭典。2008年にアメリカで第1回が開催された。当初は世界的な音楽市場縮小の真っ只中でもあり、苦戦を強いられていた独立系や個人経営のレコード店を支援する狙いもあった。
現在では世界20カ国以上に広がり、アメリカ国内の約1400の独立系レコード店と、各国の数千のレコード店、そして日本でも350以上のレコード店が参加。世界最大のレコードイベントとなっている。様々な人気アーティストがイベントに合わせてこの日に店頭でしか買えない限定盤を発売し、DJやミニライブなどの店内イベントも行われる。
日本では「RECORD STORE DAY JAPAN」としてレコ―ドのプレスメーカーである東洋化成がイベントの運営に携わる。「イベントをきっかけにレコードを聴く人を増やしたい」と担当の水口卓哉氏は語る。
レコード人気を支えているのは若い世代だ。「イベントに合わせてレコード店に足を運んでいるのは30代が最も多く、20代が続く。50代以上の世代はそこまで多くない」と水口氏は指摘する。
アメリカでは90年代半ば以降生まれのZ世代にもアナログレコードの支持が広がっている。昨年にアメリカで最も売れたレコードはテイラー・スウィフトのアルバム『Midnights』。テイラー・スウィフトは15周年を迎えた昨年のRECORD STORE DAYのグローバルアンバサダーもつとめた。2位はハリー・スタイルズ『Harry’s House』、3位はオリヴィア・ロドリゴ『SOUR』と、過去の名盤ではなく人気アーティストの新作がランキング上位に並ぶ。
レコード人気は単なる懐古趣味的なブームではなく、その背景にはストリーミング配信の普及による音楽消費の構造的な変化がある。スマートフォンで音楽を聴くことが当たり前になり、聴き放題で様々な音楽にアクセスできるようになった。便利になった一方で「好きな音楽を実際に“所有”している」という感覚は持ちづらくなった。それゆえ若い世代の音楽ファンは、データ化できるCDよりも実際に針を落として再生するレコードで音楽を聴くという選択肢をとり、ジャケットを飾ることで所有欲を満たすようになった。それもあって貴重な限定盤はとりわけ注目を集めている。
RECORD STORE DAYでは、各国の人気アーティストが毎年アンバサダーとしてイベントの旗振り役をつとめている。今年は俳優の満島ひかりがアンバサダーを担当する。水口氏は「音楽ファン以外の幅広い層にもレコードの楽しみ方を伝えたい」と意図を説明する。
満島ひかりは今年2月に自身のレーベル「Rhapsodies」を設立し、初の作品として三浦大知、SOIL&”PIMP”SESSIONSとコラボした楽曲「eden」を3月1日に配信リリースした。現在開催中の展覧会「ルーヴル美術館展 愛を描く」のテーマソングでもあるこの楽曲の限定盤12インチレコードもイベント当日に発売される。
■インバウンド復活とレコード需要
コロナ禍のここ数年も“巣ごもり需要”が追い風となってレコード人気は加速していたが、ここ最近はインバウンド(訪日外国人)の復活が消費を押し上げている。
特に渋谷、新宿などの都内レコード店には、海外から訪れ何十枚もレコードを購入するような外国人観光客の姿も目立つという。円安を背景に、状態のいいレコードが比較的安い値段で買えることがその理由だ。
人気急騰に生産体制が追いつかず「ここ2、3年は工場も対応しきれなかった」と水口氏も振り返るが、ソニー・ミュージックエンタテインメントやPヴァインなどレコード会社各社がプレス工場を設立する動きも進んでいる。
レコード人気の拡大はまだまだ続きそうだ。