プロダクション代表が語るライブエンタメビジネスの未来展望と海外展開の実情
7月5日に開催された「ライブ・エンターテイメントEXPO」で、「ライブエンタメビジネスの未来展望〜国内マーケット再拡大とグローバル展開〜」と題したセミナーのモデレーターを担当した。
登壇したのは、株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長で日本音楽制作者連盟(音制連)理事長の野村達矢氏、株式会社パワープレイミュージック代表取締役で音制連常務理事の鶴田武志氏、株式会社クラウドナイン代表取締役で音制連理事の千木良卓也氏。野村氏はサカナクションなど、鶴田氏はUVERworldなど、千木良氏はAdoなどの所属するプロダクションの代表だ。
まず語られたのは、ライブエンタメビジネスの現状について。ぴあ総研の発表によると、2023年の市場規模は過去最高の6857億円となり、新型コロナウイルス禍の苦境を脱して再び活況を呈している。人件費や資材価格の高騰による経費増を受けてチケット代も上昇している傾向があるが「若い年齢層も含め、お客さんに値上げを受け入れてもらっている印象がある」と野村氏は指摘する。
大規模ライブにおいては音響や演出も観客の満足度を大きく左右する。「スマートフォンが普及したことで音楽コンテンツが気軽に楽しめるようになり、いかに実体験としての価値や喜びを大きくできるかが重要になった」と野村氏は語る。サカナクションは2013年と2017年に世界初となる6.1chサラウンドシステムを用いたライブを開催し、今年のツアーでも音響的な死角を減らす独自のシステム「SPEAKER+(スピーカープラス)」を導入した。ライブ会場での音体験の価値を上げる狙いがあったようだ。
UVERworldは2012年に日本で初めて無線制御型のリストバンドライト「XYLOBAND(ザイロバンド)」を導入したり、昨年の日産スタジアムのライブでは観客参加型のAR空間演出を行うなど先鋭的なテクノロジーをいち早く用いた公演を行っている。「ライブの中身だけでなくその一日をどう楽しんでもらえるか、どう付加価値をつけるかも考えている」と鶴田氏は語る。
Adoは先日に国立競技場でワンマンライブを行った。こちらもドローンや花火などの演出もあったが、千木良氏は「必ずハードより先にソフトを考えるので、大規模になればなるほどシンプルになる」と語った。
海外でのライブやツアーについてもリアルな実情が語られた。Adoは今年アジア、ヨーロッパ、アメリカを回るワールドツアーを開催した。各地では様々な運営トラブルを体験したが、プロモーションに関しては所属レコード会社のユニバーサル・ミュージックとサポートに入ったアニメ配信会社クランチロールによって効果的なアウトプットが得られたという。「海外ツアーをやっているのに日本のためのプロモーションになってしまう例が多い。海外のメディアにちゃんと情報を出すことが重要」と千木良氏は語った。
また野村氏はアメリカのサウス・バイ・サウス・ウエストやイギリスのグレート・エスケープといったイベントに所属アーティストが出演した時の反響をもとに「今まではアニメやシティ・ポップをきっかけに日本の音楽が伝わっていったが、その先で少しずつ日本のアーティスト自体への注目が広まってきている」と指摘した。
「今、J−POPを聴きたい、見たいという人は世界中で増えている」と千木良氏も言う。昨年頃から海外でファンを広げるアーティストが増えているが、その動きを持続的なムーブメントにつなげていくことの必要性を感じた。