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「ベンツはNGだが、ロレックスはOK」の不動産業界で進行するロレックス離れ。なぜ?

櫻井幸雄住宅評論家
これまで、ロレックスを愛用する不動産業者は多かったが……。(提供:イメージマート)

 不動産業界で長く言われ続けている言葉に、「ベンツはだめだけど、ロレックスはよい」というのがある。

 高級外車のベンツに乗ってはいけない。なぜなら、「あんな車に乗るとは、よほど儲かっているはず。だったら、高い値段をふっかけてやれ」と取引相手に思われてしまうから、とされる。

 現地まで客を案内するときも、ベンツを持ち出したら、客が気をわるくしそう……そんな印象があるため、ベンツは避けられている。

 今は、国産車でもベンツの多くの車種と変わらないくらい高額のものがある。そんな高級国産車に乗っても、「よほど儲かっているんだろう」とは言われない。ベンツだけがタブーになる理由は納得しかねるのだが、「ベンツNG」は今なお根強く残っている。

 一方で、不動産業界の多くで容認され、また愛用者が多いのがロレックスの腕時計だ。

ロレックスが許容される理由は?

 ロレックスといっても、ゴールドを用いたものではなく、ステンレス素材のものが好まれる。

 モデル名でいえば、サブマリーナ、エクスプローラー、そしてデイトジャストが不動産業界御用達だ。

 といっても、ロレックスをみたら不動産業者と思え、というのではない。不動産業界のなかには、「華美な装飾品は禁止」としている企業があり、その場合はベンツ同様、ロレックスもNGだ。

 また、不動産業界にロレックス愛用者が多いので、あえて他ブランドを選ぶ業界人もいる。その場合、好まれるブランドはオメガ、というのが、私の印象。「分をわきまえているので、そんな高級な腕時計はしません」という姿勢を示したいとき、オメガはセイコーとともに、妥当なブランドになりやすい。

 ロレックス愛用者が多いのは、あくまでも一部の不動産業者の話ではあるのだが……。

 では、なぜ「ベンツはNGだけど、ロレックスはOK」なのか。

 それに対する明確な答えはない。

 18金のケースを備えたゴージャスなロレックスは、質屋に持ち込むことでまとまった額の現金が得やすい。だから、急遽遠くに行かなければならない事情が生じがちな方々に好まれる……というような納得感ある答えはないのだ。

 ひとつ想像されるのは、ロレックスの堅牢なイメージが好ましいと考えられているのではないか、ということ。住宅を扱っている不動産業者の場合、「私が扱う家は、ロレックスのように頑丈です」とアピールしたいのである。

 不動産業界でロレックスが許容されてきた背景に、その「堅牢」なイメージがあるから、というのはまあまあ納得できる回答。が、「堅牢」ならば、ベンツにも備わるイメージなので、「ベンツはNGで、ロレックスはOK」とされてきたことの理由としては弱い気がする。

 と、ここで思い浮かんだのが、もうひとつ隠れた理由というか、不動産業界独自の事情だ。

以前、不動産業者にロレックス愛用者が多かったワケ

 かつて、現在よりもずっと多くの不動産業者がロレックスを愛用していた時期があった。ステンレス製ロレックスが、今ほど高くなかった頃の話だ。

 たとえば、昭和後期、サブマリーナもデイトジャストも中古で30万円程度で購入できた。その価格でも当時は高いとされたのだが、今から考えれば、安い!といえる水準だろう。

 そして、当時の不動産業界には広くインセンティブの制度があった。より多くの物件を販売した社員に報奨金が出たのだ。

 たとえば、1ヶ月に2戸までは報奨金なし。3戸以上売れば、1戸につき10万円から数十万円の報奨金が出る、というような仕組みが不動産会社の大手にもあった。

 その報奨金で、「思い切って買う、自分へのご褒美」の代表格がロレックスの腕時計だった。つまり、「ロレックスOK」の裏には、「仕事を頑張れば、ロレックスが手に入る」という意味も含まれていたわけだ。

 この報奨金は、近年、多くの不動産会社で廃止され、大手ではまず行われていない。だから、自分へのご褒美を買いにくくなってしまった。加えて、ロレックスの価格水準も変わってしまった。

ロレックスが全般的に爆上がりして……

 ロレックスの腕時計には、近年、爆上がりのイメージがある。

 新品の品不足からか、中古価格が大きく上がり、ステンレス製でも新車並の価格で取引されているケースがあるようだ。

 それほど高くなってしまうと、「ロレックスはOK」とされていても、簡単に手が出ない。

 そう思って観察してみると、大手不動産会社の社員の間で、ロレックス着用率が目にみえて減っていた。

 10年くらい前までは、集まった不動産関係者の8割方がロレックスをしていたという、笑い話のような出来事もあった。そのロレックス着用率が下がっていたのである。

 以前からロレックスを持っていた人でも、今は外している。その理由を聞くと、「さすがに、今ははばかられる」との答え。

 「マンション価格が上昇し、バブル期を超えた」とたびたび報道される中、「大きく値上がりしている腕時計」をはめていたら、「儲かっていて、いいよなあ」と言われかねない。

 腕にはめているロレックスが30年前に婚約返しにもらったものであっても、そういわれてしまう。だから、一時休眠させているわけだ。

 不動産業界の若い世代でも「いつかはロレックス」と憧れる人が減っている。購入しても仕事では着用しにくいムードがあるし、なにより高すぎる。

 では、どんな時計を着用するか、というと、今、不動産業界の若い世代で愛用者が多いのがスマートウォッチ。人目をはばからず着用できるし、便利であるから。その傾向は、他の業種と変わらないのではないか。

 報奨金の制度がなくなった不動産業界では、強引な営業が減った。販売方法がスマートになったわけで、その結果、スマートウォッチが広まった……オヤジ世代の筆者として、じつに気持ちのよいまとめとなったのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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