情報が溢れすぎていてよく分からない!? 静岡リニア問題を初心者向けにわかりやすく解説
2027年の開業を目指して工事が進められているリニア中央新幹線。しかし、静岡県が静岡工区の着工を認めないことから、JR東海は開業予定を2027年以降に改めた。問題となっている静岡工区は、長さ25kmに及ぶ南アルプストンネル(仮称)のうち静岡市葵区を通過するわずか8.9kmの区間だ。静岡県は、この区間が大井川水系の源流域に当たり、大井川水系の数量が減少することに懸念があるとして、着工を認めていない。
今回、改めて静岡リニア問題について初心者向けに分かりやすく整理した。
発端はJR東海との確執
川勝平太知事がリニア中央新幹線について初めて自身の立場を表明したのは2017年10月の定例記者会見でのことだった。静岡県は同年4月、JR東海に対して静岡工区のトンネル工事で出た湧水全量を大井川に戻すよう求める意見書を提出していた。このときJR東海は、大井川流域の利水者と協定を結ぶための交渉を続けていたが、この時のJR東海の地元利水者に対する態度を聞いた川勝知事は、大井川の水は「一部戻してやるから、ともかく工事をさせろという極めて傲慢な態度で臨んでいる」とJR東海に対して強い不満を述べたことも、その後の「大井川水問題」騒動の発端となった。
川勝知事は、リニア静岡工区の着工を認めない最大の理由を「大井川下流域の利水に支障があり県民の生死にかかわるとし、大井川水系「62万人の『命の水』を守らなければならない」と静岡工区の着工を認めない姿勢を崩さなくなった。しかし、「62万人の『命の水』」については、その後の地元ジャーナリストからの追及で事実ではないことが判明しているが、それでも川勝知事は「水」を理由に着工を認める気配はない。
また、川勝知事が頑なにリニア静岡工区の着工を認めない背景には東海道新幹線静岡空港新駅の問題も背景にあるという話もある。川勝知事はかねてより静岡空港の真下を通る東海道新幹線の新駅設置を求めてきた。静岡空港新駅の設置についてはJR東海がリニア着工の誠意として期待する面もあったそうだが、静岡空港が掛川駅から16kmしか離れていないことを理由に難色を示していることも川勝知事が強硬姿勢を崩さない背景にあるそうだ。
静岡工区の論点は3つ
川勝知事は、静岡工区のトンネル工事での湧水について1滴たりとも静岡県外にだすまいという姿勢を崩さない。この静岡工区の「大井川水問題」の論点を整理すると大きく3つに分けることができる。それは「トンネル湧水の全量戻し」「トンネル工事期間中の山梨県への湧水の流出」「高速長尺先進ボーリングの出水」の3つだ。
1.トンネル湧水の全量戻し
「トンネル湧水の全量戻し」とは、リニアトンネル工事によって湧き出した湧水をすべて大井川に戻せというものだ。リニア静岡工区のある南アルプス山中は、大井川水系の源流域に当たることから、このエリアで湧き出す湧水については、本来は大井川水系の河川、地下水となって、流域を満たすものであるという主張だ。こうしたことから、静岡県はトンネル湧水の全量を大井川水系に戻すことを求めた。
これに対してJR東海はリニアトンネルから導水路トンネルを分岐させて、トンネル湧水を大井川下流域に流すことを静岡県に対して提案した。この提案は当初は静岡県にはすんなりとは受け入れられなかったが、その後の紆余曲折をへて一定の方向性の決着を見せた。
2.トンネル工事期間中の山梨県への湧水の流出
その次に問題となったのは、「トンネル工事期間中の山梨県への湧水の流出」だ。トンネル工事の際には、坑道が湧水で水没することを防ぐため標高の低い側から掘り進めて行くことが通常だ。リニア静岡工区の南アルプストンネルでは、標高の低い山梨県側から掘り進めて行くことから、工事期間中の10か月間はトンネルで発生した湧水はそうしても山梨県側に流れ出てしまう。しかし、静岡県側はこれを「静岡の水を山梨に捨てる」として猛反発した。ちなみに、工事期間中の10か月間で山梨県側に流れ出る水の量は300万~500万立法メートルで、これは大井川の年間流量のわずか0.2%にすぎない。それでも静岡県側は水1滴たりとも逃さない姿勢を崩さなかった。
これに対してJR東海は静岡県に対して「田代ダム案」を提案した。田代ダムは東京電力関連会社の東京電力リニューアルパワー(RP)が保有する発電用のダムだ。リニア静岡工区近くの大井川に隣接したダム湖を持ち、このダム湖は大井川から取水した水をためている。このダム湖の水は南アルプスを貫く導水トンネルを通じて山梨県側の保利沢ダムに導水されていることから、一度取水された水は大井川下流には流されない。保利沢ダムに導水された水は、田代川第一・第二発電所の発電に使われ早川へと流される。
こうしたことからJR東海ではこの田代ダムの大井川からの取水を制限することで、トンネル工事によって山梨県側に流れる水量分を補おうと考えたのだ。しかし、田代ダムは東京電力RPの所有で取水制限を行うと発電量にも影響を及ぼす。このため、JR東海では東京電力RPに対して田代ダムの取水制限を行うことで発電量が減るなどの不利益を被る分を金銭的に保障することで合意にこぎつけた。
3.高速長尺先進ボーリングの出水
そして、現在、川勝知事は、JR東海が行おうとしているボーリング調査に難癖を付けている。これは静岡県と山梨県の県境付近において地質や湧水量を把握するための調査であるとしてJR東海は高速長尺先進ボーリングを計画している。ボーリング調査は、山梨県側から掘削を進め、県境を越えて静岡県側まで約1,000mを掘削調査しようというものだ。
しかし、静岡県は、静岡県側に達したボーリング削孔から静岡県の地下水が山梨県に流出し取り戻せなくなるとして反発している。
このように頑なにリニア静岡工区の着工を認めようとしない川勝知事。果たしてリニア中央新幹線が開業できる日は本当に来るのであろうか。
(了)