ニンテンドースイッチの後継機「早く発表を」VS「まだまだ」 どっちが妥当?
任天堂の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」が発売7年目に突入しました。同機の年度出荷数は、2021年3月期の約2883万台をピークに2期連続で減少していますが、まだ後継機の発表はありません。「早く発表するべき」「まだまだ後継機の投入は早い」という二つの考えがあるわけですが、どちらが妥当なのでしょうか。背景を考えてみます。
◇スイッチの“現役期間”を超えるゲーム機も
まず、ゲームファンや関係者が、後継機を話題にする理由ですが、時間の経過とともに現行のゲーム機の性能(ロード時間の長さ、グラフィックなど)に不満が出てくることです。同時に、家庭用ゲーム機の“現役期間”を知っているからです。
家庭用ゲーム機は、小さな改良を重ねつつも、性能が大きくアップした後継機が定期的に出てきた歴史があります。概ねですが、発売から3~4年で売り上げのピークを迎え、その後は右肩下がりになるというものです。
しかし7年目を迎えたニンテンドースイッチの後継機について、任天堂は存在こそ否定しないものの、具体的なことには触れていません。
答えられるギリギリのライン……というところでしょうか。ただし、ニンテンドースイッチの後継機は意識していて、かつ「重要な課題」と認識しているのです(当然ではありますが)。
そうなると、そもそもゲーム機の“現役期間”は、どのくらいの長さなのか……ということも振り返っておきましょう。「ゲーム機が生産を終了するまで」「修理受付を終えるまで」「ユーザーが使い続ける限り」など、いくつも考え方があるでしょうが、今回は「発売日から後継機が出るまでの期間」という条件で考えてみます。
任天堂の家庭用ゲーム機で“現役期間”の最長は、ファミリーコンピュータの7年4カ月です。ニンテンドースイッチがその記録を上回るには、まだ約1年あるわけです。ちなみにソニーの家庭用ゲーム機の方がやや長いなど多少の違いはあれど、似た傾向はあります。
“現役期間”ですが、全体で見ると「5年から7年」でしょうし、強化版が出る近年の事情を考えると「6年から7年」としても良いでしょう。
しかしメディアやコアなゲームファンは、情報の感度が高く、新商品を期待するもの。特にニンテンドースイッチは、もともとハイスペックなゲーム機ではなく、PS4のように強化版(PS4 Pro)が出ているわけでもありません。だからこそ、(性能面がアップするであろう)後継機を求める声が強くなる面もあるでしょう。そしてゲーム機の年度出荷数に着目して、後継ゲーム機の投入タイミングを予想するのは、オーソドックスな手法でもあります。
◇スイッチのソフト 売れ行きはまだ好調維持
ですが、ゲーム機の出荷数ではなく、ソフトの出荷数の視点で考えてみると、別の意見も見えてきます。
ニンテンドースイッチのソフトの年度出荷数ですが、ピークを超えた感はあるものの、3期連続で2億本を突破。タイトル数に至っては、直近の2023年3月期が最も多いのです。
そして、スイッチのソフトが、任天堂の期初計画以上に売れ続けていることもポイントでしょう。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり需要」で、ソフトが爆発的に売れたのですが、その勢いを持続させていることもわかります。
このすごさは、約15年前に社会的なブームになった家庭用ゲーム機「Wii」と比較すると、理解しやすいでしょう。
Wiiは発売からわずか3年目でソフトの年度出荷数が2億本を突破したように、当初の勢いだけでいえば、ニンテンドースイッチよりも上でした。しかし、4年目は約3000万本の計画未達で2億本を割り込み、厳しくなっていきます。ソフトの出荷数だけでなく、タイトル数の減少も目につきます。
◇今期のソフト 出荷計画上回るか
つまり、ゲーム機の出荷数減を見ると「早く後継機を発表するべき」となり、ソフトの好調な売れ行きを見ると「時期尚早」となるわけです。
そしてビジネスで考えると、現時点で売れている商品があるのに、見切りをつけて新商品(後継ゲーム機)を出すのは良い方法といえません。そう考えると、任天堂がニンテンドースイッチの“現役期間”を伸ばす戦略も理解できるのではないでしょうか。
既に5月発売の「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」の世界出荷数が3日間で1000万本を突破する好スタートを切っています。今期(2024年3月期)のソフトの出荷数計画は1億8000万本。計画を上回るなど好調に推移するのであれば、業績の好調を意味するわけで企業として喜ばしく、現行機を引き延ばす戦略は「大当たり」となります。
とはいえ、後継機をどうするか?という悩みは続くわけです。そこがビジネスの面白いところです。