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井上尚弥vs.中谷潤人が超大物対決カネロvs.クロフォードを超えるイベントになる予感

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
カネロ・アルバレスvs.エドガー・ベルランガ(写真:PBC)

次はビボルとの再戦か?

 昨夜ラスベガスのT-モバイル・アリーナでスーパーミドル級統一王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)が挑戦者エドガー・ベルランガ(プエルトリコ)に3-0判定勝ちを飾り、WBAスーパー、WBC、WBO3団体統一王座を守った。これがプロ66戦目。築き上げたキャリアとこれまでの対戦相手の力量で大きく勝るカネロのKO勝利が予想された一戦だった。オッズも18-1あるいは16-1で大きくカネロ有利と出ていた。しかし仕留めることはできなかった。最近3試合いずれもノックダウンを奪って勝っているカネロは、このベルランガ戦でも3ラウンドに目に止まらぬ左フックを命中させて倒したが、フルラウンドの戦いを強いられた。

 4試合連続判定勝ちに終わったカネロのパフォーマンスに正直、私は物足りなさを感じたが、総じてメディアはテクニックの未熟さと経験不足を指摘されたベルランガの健闘を称えている。ダウンを奪われたものの、ベルランガはアゴの強さも証明した。そして長身で大柄なベルランガは、来たるべきドミトリー・ビボル(ロシア=WBA世界ライトヘビー級スーパー王者)との再戦を見据えてグローブを交えたのではないかとも思えてくる。

 まずは無難に昨夜の試合をクリアしたカネロは次戦でビボルにリベンジしたい意志を明かしている。もっともビボルは10月12日サウジアラビアのリヤドで予定されるライトヘビー級3団体統一王者アルツール・ベテルビエフ(ロシア/カナダ)との大一番に勝って4団体統一王者に就くことが実現の条件になる。プロデビュー以来20勝20KO無敗のパーフェクトレコードを誇るベテルビエフに対してもビボルは予想オッズでやや有利と出ている。そこが全クラスを通じて屈指のスキルと試合運びの巧さを誇るビボルの高評価を物語る。

会場をハシゴしたクロフォード

 ビボルvs.カネロは実現すれば来年5月頃ではないかと予想される。このカードは昨年中にも実現が噂された。しかしライトヘビー級王者のビボルがスーパーミドル級4団体統一王者(当時)のカネロに挑戦を希望したため流れてしまった。その時ビボルは175ポンドリミットのライトヘビー級から168ポンドが上限のスーパーミドル級へ落とすことは問題ないとアピール。ビボルが欲しかったのはカネロが所有する4本のベルトだった。

 しかし仕切り直しとなると立場は変わる。カネロが欲しているのはビボルがベテルビエフを下して手にするであろうライトヘビー級4本のベルト。スーパーミドル級に続き2階級で4団体統一王者に君臨したい野望がある。

 さて、“ボクシングのアイコン”と呼ばれて久しいカネロにはもう一人、話題を提供する対戦希望者がいる。それは“メキシカン・モンスター”ことデビッド・ベナビデス(米)だと言いたいところだが、残念ながらカネロは相変わらずベナビデスとの対決を遠ざける発言に終始している。ベナビデスもスーパーミドル級に見切りをつけ、ライトヘビー級でキャリアを進める様子なので、現状では見込み薄。代わって以前からラブコールを送るのがウェルター級4団体統一王者だったテレンス・クロフォード(米)だ。クロフォードは8月、イスライル・マドリモフ(ウズベキスタン)を下し、WBA世界スーパーウェルター級王者に就いている。

クロフォード(左)とアラルシャイフ氏(写真:Boxing News)
クロフォード(左)とアラルシャイフ氏(写真:Boxing News)

 ベルランガ戦を会場で観戦したクロフォードはミドル級を飛び越えてスーパーミドル級でカネロに挑戦したい願望を明かす。彼をバックアップするのはサウジアラビアの娯楽庁長官トルキ・アラルシャイフ氏。同氏は昨夜、同じくラスベガスで開催された総合格闘技UFCのイベント「ノーチェUFC306」を観戦。カネロvs.ベルランガとは時間的にズレがあったようで、クロフォードはテオフィモ・ロペス(米=WBO世界スーパーライト級王者)といっしょにアラルシャイフ氏の隣でUFCの試合も観戦した。会場は昨年オープンした球体型の複合アリーナ「ザ・スフィア」。クロフォードとロペスは会場をハシゴしたのだった。

メイウェザー以後の王様を決める試合

 早速クロフォードは「次の試合はカネロだとファンに伝えてくれ」とビデオメッセージを発信。これにアラルシャイフ氏も同調し「イエス、レッツゴー・カネロ。カモン、我々は準備オーケー」と呼びかけた。さらにクロフォードは「カネロvs.クロフォードはボクシング界最大のファイト。もう準備を始めなければならない」と語った。

 サウジアラビアで、そして8月には米国(ロサンゼルス)でもイベント「リヤド・シーズン」を開催してボクシング界の寵児となっているアラルシャイフ氏が総合格闘技にも進出しているとは初耳だった。そのビッグイベントにクロフォードが顔を出したのは同氏に直接会いたかったからだろう。それだけ切実にカネロ戦を望んでいる。一説には37歳のクロフォードはカネロ戦が実現すればグローブを吊るすことも頭にあるという。

 カネロのリベンジが懸かるビボル戦も相当大きなイベントになるが、ファンが待望して止まないベナビデス戦同様、クロフォードとの一騎打ちはそれを上回る規模になる。体格差がハンディになると指摘されるクロフォードだが、体のフレーム的には身長はほぼ同じ、リーチはむしろ約9センチ、カネロより長い。これまでライト級、スーパーライト級、ウェルター級そしてスーパーウェルター級を制したクロフォードは階級の壁を気にしない。

 スポーツ専門メディアESPNのインタビューでクロフォードは「(カネロ戦は)誰がナンバーワンかを決める試合になる。メイウェザー以後の時代の本当の王様は誰かと」と高らかに宣言する。

中谷が体得した実戦派スタイル

 クロフォードはヘビー級3団体統一王者オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)、スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)とパウンド・フォー・パウンド(PFP)トップを争う実力者。以前PFPナンバーワンだったカネロは現在、彼ら3人の後につけている。本人は不本意だろうが、これが現実である。

 アラルシャイフ氏がラスベガスに姿を見せたことでカネロvs.クロフォードは実現に一歩前進したという見方ができるかもしれない。他方でまだ具体的な動きはないものの、日本のファンの間では井上尚弥と中谷潤人(M.T=WBC世界バンタム級王者)の対決が日に日に待望されている。

 今のところ、井上vs.中谷は「日本限定」の超ビッグマッチという注釈がつく。しかし今やモンスター井上の知名度は日本の枠をはるかに超え、地球規模の関心を集めている。日本を訪れる外国人旅行者がモンスター観たさに横浜の大橋ジムを観光スポットにしているという話を聞いた。すごいことだと思う。

井上尚弥vs.TJ・ドヘニー
井上尚弥vs.TJ・ドヘニー写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 中谷も負けじとグローバルな存在になりつつある。15歳の時から単身でロサンゼルスに渡り、ハードなトレーニングに打ち込んでいる。インターナショナルな立場では井上の先を行く印象がする。中谷を現地で指導するルディ・エルナンデス・トレーナーに「中谷はアメリカでのトレーニング歴が長いからアメリカンスタイルを身に着けた?」と聞くと「いや、そんなことはない。ジュントには彼自身の長所がある」といわれた。それでもスパーリング中心の合宿で、中谷は日本人選手にはないプラスアルファを体得しているに違いない。それは実戦派スタイルと表現できる。もし井上との対決が締結した場合、それが大舞台で実を結ぶことがあるかもしれない。

ラスベガス、LAも候補に

 この日本人対決のステージは井上vs.ルイス・ネリが挙行された東京ドームが最適だと思われる。同時に井上、中谷両者の米国のプロモーター、トップランクのCEО、ボブ・アラム氏はラスベガス開催の線もあるとほのめかす。また一部ではロサンゼルスのドジャースタジアムというプランもささやかれる。同じLAならダウンタウンの大アリーナ、ステープルズ・センターも候補に挙がるだろう。

ロサンゼルス合宿で汗をかく中谷潤人(写真:筆者)
ロサンゼルス合宿で汗をかく中谷潤人(写真:筆者)

 2つのドリームマッチ。現状では順番はカネロvs.クロフォードが先に実現しそうで、井上vs.中谷はその後という雰囲気が感じられる。これまで井上にしろ、中谷にしろ日本開催の試合は米国では深夜から早朝に中継されている。もし米国開催となれば当然ゴールデンタイムの中継となる。そんなエキサイティングなシーンを頭に浮かべながら僥倖を待つことにしたい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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