トランプ大統領は、なぜロシアに接近しようとしているのか。鍵は中国、EU、イスラエルとスエズ運河か
アメリカが、ロシアに接近しようとしている。ロシアのクリミア併合さえ、承認するかもしれないという。
参照記事:トランプ政権が在独米軍を移転? クリミア併合を承認? 米・露・欧(EU)・中の4つ巴でどうする日本
実際にどうなるかは、2週間後の7月16日にヘルシンキで行われる初めてのプーチン大統領とトランプ大統領の正式会談を待たなくてはいけない。
なぜトランプ大統領は、ロシアに接近しようとするのだろう。
中国に対抗するならば、なぜロシアと結ぶ必要があるのか。様々な視点があると思うが、この稿では、主要なアクターを欧州連合(EU)とイスラエル、そして争いの舞台は地中海に目を向けて、考えていく。
トランプ大統領の意図をさぐるために、EU、中国・ロシアがどのような関係にあるかを見ていきたい。
アメリカの覇権が邪魔な中国
まず中国についてである。
上記の参照記事で述べたように、2014年に習近平主席が欧州(EU)を訪問したとき、欧と米の分断をはかろうとしたと言われていた。
日本では当時、口を開けば「EU崩壊」だったが、中国は全くそんなことを思っていなかった。それどころか、増しに増すEUの強さを正しく認識していた(認識したきっかけは、中国とEUの太陽光パネルのダンピング問題だったという)。
一帯一路の陸と海のルート、両方とも目指す最終地点は欧州である。この点は大変重要である。欧州=EUとなるのだから。
中国はやはり伝統的に大陸国家だなと感じさせる。「海のシルクロード」も提唱しているが、海ならば欧州を目指す必要はないはずだ。結局、歴史的な「陸のルート」を海におきかえ、それを元に発展させて考えている印象だ。
当時、EU駐在の中国使節団は約90人。新華社通信の記者は約50人で、他のどの国よりも多い規模だった。今はもっと増えていることだろう。
中国が欧州(EU)で大きな影響力をもつのには、アメリカの覇権が邪魔だった。だから欧と米を分断しようとしたのだ。
当時、中国人民大学のEU専門家は『環球時報』(共産党機関紙『人民日報』傘下の国際情報紙)に寄せた評論の中で、こう述べていた。
「中国は米国によって国際標準化交渉から排斥されている。中日関係の膠着、中米の互いの猜疑は、中国と欧州の協力を貴重なものにしている。EUも米国の覇権への防御策を講じる必要がある」と。
欧州からアメリカを除きたいロシア
同じようなことはロシアにも言える。
筆者の印象では、最初に「欧と米を分断」を考え出したのは、ロシアだったように思う。ただロシアの場合は、あからさまな分断というよりは、欧州からアメリカの影響を除きたがっていたように見えた。
ロシアがウクライナ東部で本格的な攻撃をしかけなかったのは、EU=ヨーロッパの敵になってしまうのが嫌だったからだと思う。ロシアは、ヨーロッパの一員でいたいのだ。
だからロシアは、常に上手に民主的なフリをしてきたのだと思う。あからさまな「野蛮」をすれば、即座に「非ヨーロッパ」の烙印を押されてしまうからだ(実際、中国よりもずっと洗練されている。やはりヨーロッパだなと思う)。
それにロシアは、欧州はロシアと本気で対決したくないことをわかっているのだ。EU域内全体の天然ガス消費量の約34%はロシアからである(主に暖房に使う)。経済的にも両者のつながりは深い。
でも、かつてソ連の影響下にあった国で、ロシア(や勢力範囲)と国境を接する国々は、ロシアが恐くてたまらない。EUにはEU軍がないので、ウクライナ危機の際はアメリカ軍(NATO・北大西洋条約機構の軍)を頼った。
オバマ大統領は、欧州にもアメリカの覇権にもほとんど関心がない大統領だった。でも、NATO同盟国への義務は守り、ポーランドやバルト3国への軍事支援は行ったのである。アメリカ兵は各地で熱烈に歓迎され、ポーランドは涙を流さんばかりにアメリカとオバマ大統領に感謝した(ただ、オバマ大統領は、決してウクライナに軍事介入しようとはしなかった)。
このように、EU内の西と東では、ロシアに対する感情はかなりの違いがある。フランスなどは、ロシアに軍艦を売ろうとしてEU内で大批判を浴びたくらいだ。それでも、誰もロシアとの戦争は望んでいないのだ。それはロシア人も同じだと思う。
だからロシアは、アメリカとNATOが邪魔でしょうがない。まるでアメリカがいるから、「ロシアを含んだヨーロッパ」になれないといわんばかりに。米軍とNATO軍の軍事演習「サーベル・ストライク」に対しても、常に「両者の相互不信を増幅させるものだ」と抗議している。
ここでロシアは欧州においては、アメリカと覇権を争うという感じではないことに注目したい。「冷戦後の時代」は、ウクライナがEUとの連合協定に署名したとき、完全に終わったと思う。むしろロシアは、かつての栄光を忘れられず、防御に必死という感じがする。ここが新興勢力中国とは違うところだ。
(ちょっと先走った言い方だが、長い目で見れば、ロシアが今後対峙するとしたら、アメリカ軍・NATO軍ではなく、EU軍になるだろう)。
米国が邪魔で利害は一致。水面下で争う中露
このように、中国とロシアは「アメリカが邪魔」という利害は一致しているようだ。だから表立っての争いは起きていなかったのだろう。
いま中国から欧州に向かう「陸のシルクロード」の列車は、ロシアを通過しないと欧州にたどりつけない。でも、ちゃんと問題なく列車は毎日通っている。
参照記事:(ロイターの記事)焦点:押し寄せる中国鉄道貨物、「一帯一路」で欧州大渋滞
しかし、中国があまりにも力を増大させていくと、ロシアにとっては困る。ロシアはロシアで、2015年に「ユーラシア経済連合」を発足させている。現在ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・アルメニアがメンバーだ。
それに、国境を接する隣国なのだから、安全保障面での問題がある。そのために、あまり目立たない形、つまりウクライナや北朝鮮など他国を利用する形で対立してきたのではないか。
参照記事:北朝鮮の狙いは本当にアメリカなのか。中国・ロシアの争いとウクライナと核の傘
上記の参照記事では、中国がウクライナに核の傘を提供しようとし、怒ったロシアは、北朝鮮にミサイル技術を提供した(そして日本を脅かしている)という説を紹介している。
EUと中国、アメリカの関係
EU側としては、陸のシルクロードについては、EUに安全保障上の脅威を与えないもので、経済活動のみに見えた。
だから当初は、中国は良好な関係を築く必要がある大国ということで、大歓迎とまではいかないが、悪くない話というムードだったのだ。
欧州の主要国は、「バスに乗り遅れるな」といわんばかりに、中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)に参加している。
特にドイツとの関係は深く、ドイツのデュースブルク(ライン川とルール川の合流地点にある工業都市)と重慶の間には、2011年からコンテナ鉄道路線が走っている(ただし、欧州から中国へ向かう列車は、ほとんどカラに近いと言われている)。
それに、英国もフランスも、チャイナマネーに群がっていた。
フランスは、中国での核燃料再処理工場の建設という100億ユーロの商談をまとめた。
英国は、もしEUを離脱することになったら、金融世界におけるシティの地位が危ぶまれると恐れていた。だから今後中国が含まれる新たな金融の規範作りが必要になるときに、英国主導でつくりたいという思惑があった。
英国のメディアの中には、キャメロン首相が北京に赴いて商談をまとめる様子を見て「ひどい媚びへつらい」と酷評しているものがあった。
AIIBは日本でもショックだったが、アメリカではさらなる大ショックだったのだ。「大西洋関係の危機?」とかなり騒がれた。
EUがようやく中国に不信の目を
もちろん欧州の中にも、「このプロジェクトはIMFを揺るがすものだ」という論調はあった。
その上、中国が地中海に進出し、ギリシャ等の港を買収し始めたのは、欧州に危機感をもたらす契機となった。
ギリシャやイタリアでは「ギリシャは、欧州における最初の中国の『植民地』になるのではないか」という論調があった。フランスでも懸念の声があったが、原発やエアバスを中国に売ろうとしていたので、大きな声ではなかった印象だ。
伝統的に海洋国家ではないドイツと、歴史的に海洋国家である地中海に面した国々の違いが現れていた。
しかし、去年あたりから、EUと中国の不協和音が目立ち始めた。ようやくEUの意見が一つにまとまってきたのだろう(時間がかかるのです。28カ国もあるので)。
参照記事:EU(欧州連合)27加盟国の駐中国大使が「一帯一路」を厳しく糾弾:中国に利するように設計されている
7月にブリュッセルで中国とEUの会合がある。この結果に注目する必要があるだろう。
問題はスエズ運河か
ここで、大きな問題である「海のルート」、つまり地中海に目を向けたい。
上述したように、欧州が中国に不振の目を向け始めたのは、海のルート=地中海地域のほうが一般にはメジャーだった。
長い目で見て、世界の情勢を劇的に変える可能性があることで、大変気になっていたことが一つある。
中東は専門じゃないので書くのにためらいがあったが、思い切って書くことにする。
それはRED-MED プロジェクトである。REDとは紅海、MEDとは地中海のことである。
これは、中国がイスラエルで提唱した、紅海と地中海を結ぶ鉄道をつくる計画のことだ。イスラエル領内にある紅海のアカバ湾に面したエイラトという港と、地中海に面したアシュドッドという港を鉄道で結ぶのだ。
地図で見るとわかるが、スエズ運河と平行しているような形の鉄道になる。紅海から左にあるスエズ湾を行けばスエズ運河がある(冒頭写真)。この鉄道は、右のアカバ湾側から通ることになる。
もし実現すれば、スエズ運河のほかの選択肢ができるのだ。スエズ運河は、海上交通の大動脈に属している。商業船だけではない。軍艦も同じである。
日本にとっても他人事ではない。このスエズ運河を通って、石油・ガス・鉱物が日本に運ばれているのだ。
いまだにスエズ運河を通れなかったら、アフリカ大陸をぐるっとまわるルートしかないのだ。アフリカ沿岸は1周で約2万6000キロ、スエズ運河は約200キロだ。
日本が日露戦争に勝てたのは、当時スエズ運河を、英国が実効支配していたおかげと言える。英国は、日英同盟を忠実に守り、ロシア艦隊がスエズ運河を通過するのを阻止した。
そのためにロシア艦隊は、2万キロ以上もぐるっと灼熱のアフリカ大陸をまわって、日本海に来ることになってしまったのだ。暑さより雪に慣れている兵士や軍艦の消耗は激しかったと言われている。
このように、スエズ運河は、国の盛衰に関わるほどの地理的重要性をもっているのである。
イスラエルに接近する中国
確かに、スエズ運河は船でそのまま通行できるのに対し、イスラエルのルートは海から一度陸の鉄道にあがり、また海に戻るのだから、たいへん不便ではある。
でも、スエズ運河はエジプトに国有化されており、常に政治的な不安がつきまとう。もう一つの選択肢ができるのは、大変大きな意味がある。スエズ運河をめぐっては、その紛争の歴史を描くだけで1冊の本ができるほどなのだから。
2011年、中国とイスラエルが、鉄道に関する協力協定にサインした。
これは中国が一帯一路で提唱する「海のシルクロード」とリンクしていて、中国からアフリカへの道を開くルートになると言われている(エジプトで建設する高速鉄道とリンクできる、など)。
中国はギリシャの港を買収したりして、地中海に手を伸ばしていたのは「海のシルクロード」実現のためである。
実際にRed-Med プロジェクトでは、中国だけではなく、トルコ、ロシア、インドとの関係が語られていた。つまり、「イスラエルは必ずしも西側ではない」という論調だ。
このRed-Med プロジェクトの話でも、アメリカがはじかれようとしているような印象がぬぐえなかったのだ。
現在までプロジェクトは進んでいるが、大きなニュースになるような劇的なことは特に起きなかったと思う。だから筆者は忘れていた。トランプ大統領が米国大使館をイスラエルに移転すると発表し、大騒ぎになった時のことだった、このプロジェクトのことを思い出したのは。
「なぜそこまでして、アメリカはイスラエルを味方につけたいのだろう」と考えたときだった。「海の大動脈、シーレーンの要所、スエズ運河と関係があるのではないか」と。
Red-Med プロジェクトの問題点
この鉄道は、350キロメートルの線で、63の橋梁と5つのトンネルを含むことになる。乗客と貨物の両方に対応する予定だという。
スエズ運河の所有者であるエジプトに対しては、敵対的な姿勢は見せておらず、あくまで補完的なものであり、エジプトも共に発展できるという態度を見せている。
最大の欠点は、コストがかかりすぎること。当初の予算は65億米ドルとされていたが、今では130億米ドルに達するかもしれないと言われている。
しかもエイラト港は、最大8000TEUの船舶にしか対応できない(1TEUは長さ約6メートルのコンテナ1個分)。現在の船舶注文のほぼ半分は、1.5倍の1万2000TEUを超える船舶だ。せめて1万TEUを受け入れられる大きさにしなければならないという。
そのためイスラエルは、ヨルダンにプロジェクトの関与を申し出ている。アカバ湾の最奧部はイスラエルとヨルダンの国境があり、西にはイスラエルのエイラト港、東にはヨルダンのアカバ港がある(ちなみにアカバ湾全体では、4つの国の国境がある。イスラエル・ヨルダン・エジプト・サウジアラビア)。
鉄道プロジェクトがヨルダンのアカバ港に拡張されれば、紅海から地中海に至る貨物の量は飛躍的に増加する可能性があるという。アカバ港はエイラト港よりも大きく発展しているという。大型船舶の選別に適した主ターミナル、コンテナ・ターミナル、工業用ターミナルがあるのだ。
中国とイスラエルの野心
しかし、いくら明るい未来を描いて見せても、商業的にはほとんどペイしない路線なのには変わりはない。
それならなぜ、このプロジェクトを推進するのか。
金儲けではない国家戦略だからだ。覇権の意志だからだ。
中国は、中東で重要なプレーヤーとして位置づけられることになる。貿易やインフラだけではなく、地域間の関係を変え、新たな安全保障をもたらす可能性を秘めている。
イスラエルは、中国と組むことで、同様の利益が得られるかもしれない。もし中東の工業化を支援するために必要な技術を、中国の一帯一路政策の枠内で提供すれば、重要なプレーヤーになれる可能性があるのだ。
イスラエルの巨大ガス田
特に今、イスラエルは中東で、今までにないほどの大きな存在感を示しつつある。地中海沿岸部で次から次へと発見された、巨大な天然ガス田のためである。
2009年にタマル・ガス田が発見。10兆立方フィートで、イスラエルの国内消費の数10年分に相当するという。
2010年にはタマル・ガス田の2倍強の大きさである、リバイアサン・ガス田が発見された。こちらは、アメリカとイスラエルの企業2社に独占開発権が与えられた。
それまでエネルギー輸入国だったイスラエルは、輸出国となった。
そして今までのイスラエル・アラブ諸国・イランの歴史的な紛争は、石油をめぐる紛争でもあったのが、大転換しようとしているのである。
すでにヨルダンとエジプトと販売契約を結んだ。この2カ国は、パレスチナ問題を抱えているイスラエルにとって、数少ない外交関係を持つアラブの国である。アラブの結束にくさびを打ち込む効果が期待できるという。
一方でレバノンなど周辺国とあつれきを生んでおり、地域の安全保障に波紋を広げている。
EUも、この天然ガスに注目した。2017年末にイスラエルと1300キロメートルのパイプラインを結んで、ガスを輸入する契約を結んだ。
ロシアへのガス依存度を減らすのは、EUにとって長年、安全保障上で必要な大課題だった。イスラエルとギリシャ、キプロスとの関係強化が進んでいる。
RED-MEDプロジェクトを掲げて、一帯一路政策で中国が食い込んできたのは、このようなイスラエルだったのだ。
地中海・中東は、大転換期を迎えようとしているのだ。
アメリカにとってEUはライバル
中国がイスラエルを通じて、地中海域・中東での存在感を高めていることは、アメリカにとっては重大問題だ。
それなら、なぜアメリカは欧州(EU)と連帯しないのだろう。歴史的に、欧米は強く結びついてきたではないか。
それに今、EUは中国に対して大きな不信の目を向けているのだ。共通の「敵」である中国があるのだから、よけいに欧と米は強く連帯してもよさそうなものだ。積年の歴史のように。
それは、EUの力が強大になってきたせいだと思う。今、イラン問題を始め、あちこちでEUとアメリカと摩擦が起きているのは、そのためだろう。
トランプ大統領から見ると、欧州は「力もあり、自分の好きなようにやりたいくせに、アメリカに金を払わせるやつら」なのではないか。
それに、過去のこともある。
今でこそEUはまとまって中国に対して不信感を募らせているが、つい数年前は、欧州諸国は中国のAIIBや一帯一路にすり寄ったのだ。オバマ政権では「欧州との話し合いを重要視しなくてはならない」という協調の姿勢が一応あったが、トランプ大統領にとっては(あの性格から考えると)「裏切りやがって」なのかもしれない。
また、中国に対抗するのなら、地政学的に隣国であるロシアを利用するのが一番効果的だ。この点、欧州は中国から遠すぎる。
このように、トランプ大統領のロシアへの接近は、「欧州(EU)離れ」の要素がないと説明がつかない。
アメリカにとって欧州はライバルになったのだろう。敵ではなく味方ではあるが、ジョブをたまに入れてけん制したほうがいい存在になったのかもしれない。
EUは既に独自で動いている
思えば、欧州の近隣地帯でアメリカが覇権を握ったのは、大英帝国の覇権を引き継いだ形だった。冷戦が終了し、9.11テロ事件が起きて、様相は変わっていったものの、アメリカは常に重要なアクターだった。
一方欧州では、冷戦が終了し、欧州連合が誕生した。EUは1995年には「バルセロナ・プロセス」あるいは「Euromedパートナーシップ」という枠組みをつくった。12カ国の地中海諸国がメンバーになっている。
この流れで、EUでは「地中海連合」というプロジェクトもあったのだ。2008年フランスのサルコジ大統領が主導したものだ。今ではすっかり聞かれなくなってしまったが。
このように、欧州諸国は、北アフリカや中東の地中海沿岸諸国とは、直接的な利害関係をもっている。安全保障の面でも同様だ。当然のことだ。地中海に面しているのだから。
地中海地方では、EUにはEUの利害と論理がある。独自の道を自分の力で歩もうとしている。少なくとも地中海地方では、もうアメリカやNATOと完全協力をする時代は終わろうとしているのかもしれない。
イランの核合意では、アメリカは主要な役割を果たした。それはオバマ大統領が「核なき世界」という理想と政策をもっていたからだ(だから広島に来たのだ)。欧州の国々は、心からオバマ大統領に感謝したものだ。欧州にとってイランが核兵器をもつのは、日本にとって北朝鮮が核兵器をもつのに似ているからだ。
でもこのような欧州諸国の感謝も、トランプ大統領にとっては「知ったことか」なのだろう。
外交の大転換がやってくる?
オバマ大統領は「ロシアは地域大国だ」と言ったが、まさにそのとおりだ。アメリカと世界を二分した昔日の面影は、もはやない。もうアメリカが恐れる相手ではない。でもロシアは、ユーラシア大陸や、黒海の南部の地域では、十分な力をもっている。
中国に対抗し、EUをライバルとして牽制気味に扱うには、ロシアはちょうどよいパートナーなのだろう。
ロシアにとっては、アメリカが中国に敵対してくれるなら大変結構、経済制裁も解除される可能性があるし、EUとの関係改善にアメリカが役に立つかもしれない。いいことずくめである。
もし本当にアメリカがロシアに接近するのなら、これは「外交の大転換」になる。
そしてこの動きは、去年くらいから顕著になってきた「EU軍創設」につながる動きを後押しするだろう。
ただ、すぐにアメリカと欧州が決別するほど離れていくとは考え難い。次のアメリカ大統領は、伝統的な欧米関係を重視し、ロシアに冷ややかな秩序に戻ろうとするかもしれない。しかし、中長期の展望から見て、時代は明らかに変わろうとしているのだ。
日本はどうするのか。アメリカ・ロシア・中国・欧州(EU)が4つ巴で国際情勢を動かす時代にあって、日本はどうしたいのだろうか。
* * * * *
以上が「なぜアメリカはロシアに接近するのか」というテーマの、筆者なりの考察である。
まだまだ荒削りではあるし、色々と不備な点は多いと思う。話があまりにも大きすぎるので。
もし本当にトランプ大統領がクリミア併合を承認するようなことがあれば、欧州で山のようにたくさんの分析や論評が出てくるに違いない。その時は紹介したいと思う。
この稿が、何かのヒントになってくれれば幸いである。