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トランプ政権が在独米軍を移転? クリミア併合を承認? 米・露・欧(EU)・中の4つ巴でどうする日本

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
2015年3月プラハのルズニェ兵舎に到着する米軍の兵士を歓迎する人々。(写真:ロイター/アフロ)

大変驚いたニュースが2つ同時に飛び込んできた。

1つ目は、米国防総省がドイツに駐留する米軍の移転を考えているらしいと報道されたこと。2つ目は、トランプ大統領が、ロシアによるクリミア併合を否定しない可能性があり、米露関係の改善に前向きであるというニュースだ。

アメリカが欧州への関与を減らして、ロシアに接近するというのだろうか?! もし実現するなら、約1世紀ぶりと言えるくらいの、パラダイムの大変化になるだろう。

なぜこのような報道が相次いだかというと、トランプ大統領が7月に欧州を訪問するからだ。

まず、7月12日・13日に、ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が開かれる。次に7月16日、フィンランドの首都ヘルシンキで、プーチン大統領と初の正式会談が行われる。

どちらのニュースも確定ではないし、詳細はわからないが、もし実現するなら、アメリカ、ロシア、中国、欧州(EU)が4つ巴で、国際情勢が大きく動くことになるだろう。日本はどうするのか。

ドイツから米軍が撤退するのか

まず、在ドイツ米軍のほうから見ていきたい。

海外に駐留する米軍の中で、ドイツの基地は最大水準の規模を誇っている。

以下、AFP=時事通信の記事の引用である。

「ワシントン・ポスト紙は匿名の情報筋の話として、現時点では米政府内でいくつかの選択肢が検討されているにすぎないと強調しつつ、在独米軍約3万5000人の現役兵のうち相当部分の米国への帰還や、在独米軍の一部または全部のポーランドへの移転などが検討されていると伝えた」

NATOの首脳会議に向けて、既に軍当局者らと話し合いを行っており、NATO諸国に不安が広がっているということだ。

米軍基地をもつ日本にとって、人ごととは思えないニュースだ。

縮小するのか、移転するのか

縮小するのかどうかは、今のところわからない。

ただ、一部にしろ全部にしろ、ポーランドへの移転というのは、ありそうな話だ。

ウクライナ危機とロシアのクリミア併合に、東欧の国々やバルト3国は、恐怖や大きな不安を抱いた。欧州連合(EU)には「EU軍」がないので、彼らはひたすらアメリカを頼る様子が見てとれた。

アメリカのオバマ政権は「NATOが守るのは、NATO加盟国のみ」と明言した。つまり、ウクライナは加盟国ではないので、対象外ということだ。そして決してウクライナに軍事介入しようとはしなかった。

NATO加盟国の拡大図。ポーランドの右下でルーマニアの上がウクライナ。その上(ポーランドの右上)はベラルーシ。右に広がるのがロシア。(Wikipediaより)
NATO加盟国の拡大図。ポーランドの右下でルーマニアの上がウクライナ。その上(ポーランドの右上)はベラルーシ。右に広がるのがロシア。(Wikipediaより)

しかしアメリカは、ロシア(や勢力範囲)との境界にさらされている加盟国のポーランドやバルト3国に対する軍事援助は行った。

その時のポーランドの様子に関する報道は、今でも覚えている。「オバマ大統領とアメリカはポーランドを見捨てなかった!!ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・」と涙を流さんばかりに感謝するような雰囲気。

「×××××は日米安保の範囲」とアメリカが言ってくれた時の日本のようだ。いや、はるかにそれ以上だろう。ポーランドは今まで何度、列強の分割や侵略によって国を失ったことだろうか。

クリミア併合から約1年が経った2015年3月下旬、バルト3国に駐屯していたアメリカ軍が、ポーランド、チェコを通って、駐屯地であるドイツのVilseckに向けて隊列を組んで引きあげた。Dragoon Rideと言う(Dragoonとは竜騎兵の意)。

この戦車の行進は、アメリカ軍&NATO軍が、東欧に対して連帯していることを示すものでもあった。アメリカ兵たちは、道々での人々の熱烈な出迎えにびっくりしたと言われている(冒頭の写真を参照)。

「敵」と手を結ぶのかという不安

トランプ大統領は、NATO加盟国が2024年までの達成として合意した目標計画に従って、各国に国内総生産(GDP)の少なくとも2%を防衛費に充てるよう、また圧力をかけるつもりのようだ。

ドイツと違って、ポーランドは既にこの目標を達成済みとのこと。

ポーランドはEUにおいて「ソ連から民主化を勝ち取った国」の象徴的な存在である(ポーランド人のトゥスク氏がEU大統領になったのは、これが大きな理由の一つ)。

しかも今、ウクライナ問題によるロシアの脅威のせいもあってか、政権も極右で、キリスト教の伝統への回帰の傾向が強い。トランプ大統領にとっては話しやすい相手かもしれないが。

しかし、アメリカが、ポーランドの独立を脅かしかねない存在のロシアと接近して緊密な関係を結ぶとしたら、話はまったく変わってくる。

参考記事:トランプ氏、ロシアのクリミア併合を認める可能性排除せず 西側外交筋に不安感(AFP=時事)

もしアメリカがクリミア併合を認めようものなら、ポーランドだけではなく、東欧全体やバルト3国にとって、恐るべき大ショックとなるだろう。もちろん、EU全体や、トルコ、コーカサス地方の国々などにとっても大ショックである。

EUがどう動くかを知るには、東欧やバルト3国の反応や動きを知るのが欠かせなくなるだろう。

それにしても、ついこの前、6月前半に「サーベル・ストライク」と呼ばれる年次軍事演習が終わったばかりではないか。これはポーランドとバルト3国で実施されたもので、米国の主導によって、NATO加盟国を中心とした19カ国の部隊が行った大規模な軍事演習である。兵士1万8000人が参加した。ロシアはいつも「相互不信を助長させる」と抗議している演習だ。トランプ大統領の考えていることは、本当にわからない。

ちなみに、東欧は日本から遠いイメージがあるが、ポーランドには日本から直行便が飛んでいる(2017年より成田にポーランド航空が就航)。ソ連時代に東欧に属していた国の中で、一番目となった。東欧は、日本とEUの経済連携協定が結ばれたこともあり、少しずつ近しい地域になってきている。

中国はどう出る? 日本はどうする?

ここでもう一つの重要なアクター、中国を考える必要がある。

2014年に習近平主席が欧州(EU)を訪問したとき、彼がやろうとしたことは「欧と米の分断」と言われたものだった。オバマ大統領が、歴代大統領と異なり、欧州に関心が低いことを利用しようとしたのだ。

中国は分断政策が大好きだ。「分割して統治せよ」の戦略である。帝国主義時代の初期、自分の国がこの戦略で欧州列強に半植民地化されてしまい、どんなに効果があるかを骨身にしみて知ってしまったからだろうか。

もしこの在独米軍の問題が、アメリカの欧州への関与を減らすという意味であれば、中国を喜ばせるはずだった。自分は何もしなくても、アメリカのほうから去ってくれるというのだから。欧と米の分断が、タナボタで降ってきたというわけだ。

しかし中国は、アメリカと欧州(EU)とロシアが、3者バラバラになることを願っていたのではないか。まさかアメリカがロシアに接近するとは、夢にも思わなかったのではないだろうか。もし本当にアメリカがクリミア併合を承認したらどう出るのだろうか。

トランプ大統領は、何のためにロシアに接近するのだろう。

中国に対抗するためだろうか。

強気の突飛もないような態度に出て、相手の国々を混乱させて、時には敵対させて、自分の主張が有利に運ぶようにするのは、トランプお得意の方法のように見えるが、それはテクニックである。トランプ外交の考えていることは本当にわからない(彼のツイッターでも見るか・・・苦笑)。

米露の接近は、ロシアと中国の関係をどう変えるのだろうか。どちらも日本の隣国。大問題だと思う。

米、露、中、欧の4つ巴の状況になるだろうが、日本はどうするのか。

日本単独では何もできない。振り回されるだけだ。

日本とEUが協調してはどうか

米露が本当に接近したら、中国はEUに擦り寄る可能性が大だと筆者は推測する。

ただ、EUは中国への警戒色を強めているので、そう簡単には成功しないのではないか。

参考記事:EU(欧州連合)27加盟国の駐中国大使が「一帯一路」を厳しく糾弾:中国に利するように設計されている

だから筆者は、日本こそがEUに接近して協調して、共同政策を用いながら米露中に対応するのが良いのではないかと思う。

理由はいくつかある。

1、日本とEUは経済連携協定と戦略的パートナーシップ協定を結び、関係が深まってきているところである。日本とEUの交渉は、停滞気味だった。これが活性化されたのは、オバマ政権がTPPとTTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定)を推進したからである。今、この2つはアメリカで止まっているのに、日本とEUの協定だけが実現した。偶然の中に歴史の必然があるのかもしれない。これを武器にするべきだ。

2、日米同盟が日本の背骨で変えることができないなら、EUは比較的安心して組める相手だと思う。EUは対アメリカで問題を抱えても、決別することはまずありえない。日本と似ている面がある。たった一人の米大統領の政策によって欧米が決別するほど、両者の関わりは浅くない。中長期の展望は別として、今すぐに急激で根本的な大変化は起きないと思う。

3、日本とヨーロッパがアメリカ抜きで政治協調するのは、第2次大戦後初めてと言っていいだろう。他国に与えるインパクトは十分なものになるに違いない。一方で日本とヨーロッパの地理的な遠さは、他国に極度の警戒心を起こさせないという意味で、プラスに働く可能性がある。

4、G7参加国は、米日カナダ以外は欧州の国である(ドイツ・フランス・イタリア・英国)。G7の会議にはEUのユンケル欧州委員会委員長やトゥスク大統領も参加している。既にアメリカ・EU・日本で話し合えるパイプや場が存在している。

5、どちらも民主主義で先進地域で、話が通じやすい。

日本にはぜひ、まったく新たな一手を打ってみてほしい。

欧州にはEUがある。日本には何がある?

もし万が一、トランプ大統領がロシアのクリミア併合を承認したら、EUは猛抗議をするだろう。もっとも、移民問題で大揺れだったのに、団結できる要素が降ってわいてきたとも言える。

去年くらいから、EU軍創設につながる動きが顕著になっているので、トランプ大統領の政策はこの動きを後押しすると思う。

パラダイムが変化する、大きく時代が変化する。日本は来年には新しい天皇が即位し、時代の大変化の節目を迎える。

このような新しい時代を前に、欧州にはEUがある。第2次世界大戦が終わってから70年近く。少しずつ築き上げていった欧州の国々の連帯は、EU軍の本格的な議論ができるほど大きく成長した。日本は? 相変わらずたった1国で孤独なままなのだろうか。

日本は、平和と繁栄を享受し続けたいのなら、外交大国にならなくてはいけない。

筆者は、日本の教育指針では「外交大国になること」を第一の目標と掲げ、プログラムを見直すことを心から提案したい。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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