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トレード志願のシモンズはなぜ放出されないのか 76ersをベテランスカウトが分析

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 フィラデルフィア・76ersは今季、25勝17敗でイースタン・カンファレンス5位(1月15日のゲーム終了時点)。昨年12月26日以降、9勝1敗と好調だが、シーズン中はリーグ最高勝率を残した昨季ほどの力強さはない。

 オフにトレード志願したベン・シモンズは未出場のままチームに残っている。目立った補強はなく、ジョエル・エンビードというMVP候補の能力を完全に生かすには至っていないのが現状だ。

 今後、76ersはどこに向かうのか。イースタン某チームのベテランスカウトに76ersの分析を求めた。このスカウトが所属するチーム名は明かせないが、匿名であるがゆえに、正直で大胆な意見が聞けるはずだ。

 シモンズの弱点とは

 シモンズ抜きの76ersは、信頼できるボールハンドラーの不在という弱点を抱えている。タイリース・マキシーにその役割を任せようとしているが、マキシーはどちらかといえばスコアラーだ。そこにシモンズ不在の影響が出ており、確かにここにきて好調ではあっても、現状では昨季のようにトップ3を争うチームではなく、イースタンの5、6シードが妥当なところだろう。

 シモンズはボールハンドリング、パス、ディフェンスの能力では素晴らしいものがあり、それらにはNBAレベルでも「A」が付けられる。彼の弱点は、自身の欠点の改善を恐れることだ。

 周囲にシューターを上手に散りばめれば、シーズン中はシモンズに得意ではないこと、望まないことをやらせる必要はなかった。ただ、ゲームがスローダウンし、よりタイトになるプレーオフではシュートを打たなければいけない状況も生まれ、それが76ersにとっての限界になった。

 ジョエル・エンビード、ベン・シモンズという2人の力を持ってしても、76ersはカンファレンス・ファイナルまではたどり着けていなかった。この2人を甘やかし、好きなようにやらせたオーナー陣、ブレット・ブラウン前HCをはじめとするコーチ陣の失敗でもあったのだろう。

欠点はあっても、スーパースターの能力を持つシモンズの現状は残念だ
欠点はあっても、スーパースターの能力を持つシモンズの現状は残念だ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 もうシモンズは76ersでプレーする気がないことは誰もが知っていることだ。ここまで関係が悪化したのであれば、本来であれば今季開幕前にトレードを成立させるべきだった。76ersはシモンズの交換要員としてかなり多くを望んでいるので、トレードがまとまっていない。

 ダリル・モーリーGMは法外な見返りを望むことで、チームを停滞させてしまっている。最終的にはオーナー陣がトレード断行を命じるかもしれないが、ここまで来たら、今季中に成立するかどうかはわからない。

怪物エンビードを生かすために

 エンビードのようにリーグのトップ5に入る選手を擁していれば、そのチームには常に優勝のチャンスがある。エンビードはすごいプレーを続けているのだから、“エンビードの才能を浪費している”という表現が適切かどうかはわからない。

 ただ、現実的にファイナルを制するには、大抵の場合、エンビード、ルカ・ドンチッチのようなリーグのトップ5選手に加え、トップ20に入る2番手、3番手も必要になる。今の76ersには“2人目のオールスター”がいない。

27歳のエンビードが全盛期のうちに優勝を、という声はフィラデルフィアでは根強い
27歳のエンビードが全盛期のうちに優勝を、という声はフィラデルフィアでは根強い写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 これまでエンビード、シモンズに次ぐNo.3だったトバイアス・ハリスは才能はあっても、勝利に直結する働きはできない選手だ。だからスタッツは見栄えが良くとも、NBA入り以降、すでに5チームを転々としてきた。

 ハリスは性格もよく、リーグの多くの人間から好かれてはいるが、ドリュー・ホリデー(ミルウォーキー・バックス)、ミケル・ブリッジス(フェニックス・サンズ)、かつてインディアナ・ペイサーズなどでプレーしたデリック・マッキーのように、数字に残らない貢献ができる選手ではない。シクサーズがシモンズと一緒にハリスを放出しようとしているのは驚きではない。

 上手にロースターを構成すれば、76ersはエンビードの良さをより上手に引き出せるチームが作れるのかもしれない。ただ、これまで壁が破れなかった後で、今後にそれ成し遂げるためにはクリエイティブな手段が必要になるのだろう。

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スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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