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シャビ・バルサは復調の兆しも、ガビ、ペドリ、デンベレ不在でマンUに敗退。黄金期回帰へ「最後のピース」

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

シャビ・バルサの変化

 FCバルセロナが軌道に乗りつつあるのは間違いない。

 今シーズン開幕当初は、バイエルン・ミュンヘンから獲得したロベルト・レバンドフスキ頼みの戦い方が目立った。ボール回しも緩慢。アイデアも乏しく、攻めきれないシーンが続いた。

 リーガエスパニョーラでは開幕のラージョ・バジェカーノ戦でスコアレスドロー。その後は連勝で盛り返したが、10月のクラシコ、レアル・マドリードに敵地ながら3-1で完敗し、「監督解任」という声まで出ていた。同時に、チャンピオンズリーグでもバイエルン・ミュンヘンに連敗し、インテル・ミラノにも1分け1敗。グループリーグ敗退を余儀なくされた。

「崩壊」

 その危険水域に近づいていたと言えるだろう。

 しかし、昨シーズンまでと違っていたのは、失点を最小限に抑えられるようになった点だろう。不安定だったディフェンスを再建。そのおかげで、徐々に成果が出てきた。

 この変化は、就任2年目になるシャビ・エルナンデス監督の功績と言えるだろう。

バックラインの再編

 懸案だった守備を立て直せたのは大きい。

 功労者ジェラール・ピケはスピードの衰えが激しく、バックラインを上げられなくなっていた(昨年11月に引退)。新鋭エリク・ガルシアは格下相手にビルドアップ重視で戦うなら一つの選択肢になったが、強豪相手では守備力があまりに脆弱。クレマン・ラングレ、サミュエル・ウンティティに至ってはバルサのレベルに達していなかった(どちらも移籍)。

 そこでシャビ監督は、高く速く強いロナウド・アラウホを軸に据えながら、バックラインを再編。ジュル・クンデ、アンドレアス・クリステンセンというバルサが必要とした守備強度を持つ選手を獲得し、左利きのマルコス・アロンソも一つのオプションにすることに成功した。それぞれ3バックにも、4バックにも対応し、可変式のシステムが可能になった。

 クンデ、アラウホの二人は相手の強力なアタッカーがどこにいるかで、しばしば右サイドバックでもプレーしている。左サイドバックのジョルディ・アルバ、アレックス・バルデが高い位置を取るだけに、3バックのようにもなって極端に守備的にならない。右はウスマンヌ・デンベレ、ラフィーニャ、もしくはフェラン・トーレスの攻撃力を最大限に生かすため、前線の守備の負担を減らしながら、攻撃力を担保した形だ。

シャビ・バルサ初の戴冠

 また、セルヒオ・ブスケツへの依存度が強かった中盤も、好転が見られる。ブスケツの負傷離脱という怪我の功名か。フレンキー・デ・ヨング、フランク・ケシエのダブルボランチは一つの選択肢になった。ブスケツ復帰後はデ・ヨングとボランチを組み、前でケシエがインテシティを注入。あくまで守備面を考えた場合、高い強度を誇り、バランスを取りやすい。

 左サイドハーフに抜擢されたガビも、最適なポジションを得ている。局面での激しさ、強さ(ファーストディフェンダーになれるし、強引に持ち運ぶこともできる)、そしてオフザボールでパスを呼び込むランニング強度で特徴を発揮。プレーメイクは得意ではなく、インサイドハーフとしてはやや雑味があったが、遊撃的にサイドをスタートポジションにすることで、神出鬼没な攻撃作用を生み出した。

 プレーモデルの運用に成功したことによって、ペドリのような破格の選手も実力を発揮できるようになった(現在は右足大腿直筋のケガで離脱中)。デンベレもケガで離脱するまでは、バルサの攻撃エースとして大車輪。また、ラフィーニャも守備で相手をフタすることだけは身につけ、チームにフィットしている。

 その結果、リーガでは首位を堅持。スペインスーパー杯では、決勝でマドリードを3-1で下し、シャビ・バルサ初の戴冠となった。

お家芸復活も、まだ時間がかかる

 徐々にバルサらしさが出てきている。相手をねじ込むようにボールを持って迫り、クロスでは4,5人がエリア内に入って、分厚い攻撃を展開。サイドから圧倒的な攻撃力でバックラインを押し下げ、横やマイナス方向にボールを滑らせ、シュートを合わせる。カディス戦、セルジ・ロベルトはバックラインの前を横切って、横に流し込んでレバンドフスキのゴールを演出。これは”お家芸の復活”だ。

 各選手が戦い方、やり方を理解しつつあるのだろう。おかげで、システムに囚われず(多様性が出てきて)、戦力の厚みが増してきた。再現性が生まれ、チームとしての深みが出てきているのだ。

「チームの戦い方、やり方は変えていない。ただ、過密日程で選手に疲労の蓄積が見える。そこで、ローテーションも欠かせないと判断した」

 ヨーロッパリーグ(EL)、マンチェスター・ユナイテッド戦のファーストレグ後にシャビ・エルナンデス監督は語っていたが、その直後のリーガエスパニョーラ、カディス戦では6人も先発を入れ替え、2-0で勝利している。選手の組み合わせによって、チームとしての力が出せるようになった。

 しかしELでは結局、マンチェスター・Uに敗退している。セカンドレグは前半で攻勢に出てPKを奪ってリードするも、後半はそのリズムを保てなかった。ガビ、ペドリ、デンベレという3人の主力の不在が出た。結果、守勢に回って逆転を許してしまった。伝統の美学である「リスクを負っても、相手をノックアウトする攻撃力」が、結局は足りなかったのだ。

 直近のアルメリア戦も、バックラインの陣容を変えたこともあって、まずは守備の弱さが出た。そして攻撃もトップ下にケシエがいる形は、意外性を欠いていた。結果、攻めきれずに1-0で敗れてしまっている。

 強いバルサの復活には、まだ少し時間がかかる。

黄金期回帰へ「最後のピース」

「バルサはラ・マシアだ」

 かつてヨハン・クライフが語ったように、下部組織ラ・マシアから人材が出て来ることが、真の復活につながるのだろう。クライフが率いた時代だけでなく、フランク・ライカールト、ジョゼップ・グアルディオラが最強を誇ったチームも、ラ・マシア組が勝負を左右していた。

 今のチームも、ブスケツ、アルバ、セルジ・ロベルト、ガビ、アラウホ、バルデ、E ・ガルシアなどは重要な役割を担っている。時代が切り替わろうとしている中、ガビはその筆頭と言えるか。しかし、まだピースが揃っていない。

 かつてのグアルディオラ、カルラス・プジョル、シャビ、アンドレス・イニエスタ、そしてリオネル・メッシのような旗手となる存在が必要だ。

 その点、やはりキーマンとなるのはFWアンス・ファティだろう。その得点センスはラ・マシア最高傑作で、過去に在籍したフリスト・ストイチコフ、ロマーリオ、ロナウド、サミュエル・エトー、ダビド・ビジャ、ルイス・スアレスというトップレベルのストライカーと比較しても遜色ない。彼が飛躍を遂げることで、バルサに新時代が到来するはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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