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2020年9月1日、子どもの不登校に起きているピンチとチャンス

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

今年も9月1日がやってきました。

「1年の中で、子どもの自殺が最も多いのが9月1日である」とレポートされてからこの期間に子どもの不登校の問題が語られたり、悩める子どもたちへメッセージが送られたりしています。

2020年は特殊な環境下で9月1日を迎えることになりました。いま起きている状況を見つめ、気を付けるべきことを考えておきたいと思います。

◎今年は特に要注意

国立成育医療研究センターの調査によると、6~17歳の72%にストレス反応があると報告されました。この調査は学校再開後に行われましたが、同様に行われた緊急事態宣言中の調査では75%にストレス反応がありましたので、「学校が再開しても子どものストレスが解消していない」と言えます。

「マスクが暑い」「寝付けない」「この先が不安」「大人が常にイライラしている」などの心身の不調を感じています。またどの世代でも1割前後に「自傷行為」の行動が現れているという結果は大変注意が必要です。

このようなストレス状態において、夏休みが明けるというプレッシャーは大きいです。家庭や先生に余裕のない状態は、子どもにそのまま反映されてしまいます。1学期はもちろん2学期以降の行事もほとんど中止になっていて子どもの楽しみも減っています。今年は例年以上に繊細に子どもの状態に気を配ってほしいと思います。家庭も学校も子どもに異変やその兆候を感じたら、どうか無理をせずにまずはゆっくりと落ち着くことをお勧めいたします。くれぐれも焦りは禁物であります。

◎中3・高3が最も大変な状況

いま最も大変そうに見えるのは、中学3年生・高校3年生という卒業を控えた学年です。先の調査でも高校生は、小中学生よりストレスが高く、学校再開後にさらにストレスが高まってしまっている傾向が出ています。

中3、高3の学年は、行事や集大成だったはずの部活の大会等も中止になり、進学に向けての進路検討や受験準備、就職活動などもある中で、社会の環境変化に追われています。1学期にできなかった期末試験が夏休み明けに実施されるケースもあります。高3、中3にとっては進学に向けた内申点にかかわる大事な試験です。

中でも、高校3年生は様々な変化がもろに影響した不遇の学年となりました。大学入試改革は本来今度の入試から変更が予定されていましたが、ご存知の通り二転三転してしまう状況に巻き込まれていたところに今回の感染症騒動が重なってしまいました。やるせない気持ちもあると思います。これからの受験もどのような環境で行えるかわからないので、今後も変化に対応するマインドが求められます。この世代は、特に励ましが必要な状況です。

このようなピンチもありますが、一方で前向きに変化しているチャンスもあります。

◎既に夏休みは明けている

通常は、小中高では本日9月1日が夏休み明けで、たくさんの宿題と共に久しぶりに登校する日ですが、今年は様相が異なります。既に多くの小中高では夏休みが明けていますし、それも各地でバラバラなので、社会全体として一斉感がありません。一斉感がないのは子どもたちにとってプレッシャー軽減になる部分もあります。プレッシャーで言うと、今年は夏休みの宿題も少なかったです。自由研究を「やるもやらぬも自由」という本当の“自由研究”になった例もよく聞きました。夏休みが短いことや宿題が少ないことは、通常時とのギャップが少なく復帰しやすいとも言えます。

一方で大学は、春からずっとすべてオンライン授業になり続けているところも多くあります。1年生で入学し、1日も大学構内に入っていないという学生もいます。後期も含めて1年間オンラインに決めている大学もあるので、大学生はストレスを抱えている学生が多いように見えますので例年以上にケアが必要です。

◎学校に行かない選択肢も広がる

新型コロナウイルスの影響で、学校に行かない選択肢が一段と広がりました。緊急事態宣言が解除されて、小中高で学校が再開された後も、一定数のご家庭が「感染が怖いので登校しない」という選択をされています。このように「学校に行けない」だけでなく「行かない」という積極的選択が社会的認識として広がってきています。通信制の学校は生徒数を大幅に伸ばしている事例もあります。また登校でもオンラインでも授業が受けられる「選択登校制」を始めている自治体もあります。このような学校のあり方の多様化も子どもたちのプレッシャー軽減に繋がるものと思います。学校の万能感は薄れ始めています。

一方で、このような学びの多様化は都会と地方では格差も出ています。都会は、学校に行かない場合の選択肢が色々と増えていますが、地方はまだまだ学校の存在が極めて大きく万能感も強くあり続けています。日本全国で多様な選択肢が広がることが望まれます。

◎オンライン環境の整備が社会のコンセンサスに

本年3月2日の一斉休校より、学校現場を取り巻く環境は激変し、この間オンライン学習の環境整備が行われました。あるいは、ほとんど何もできなかった地域もありました。しかし日本全国共通して、「オンライン環境整備の重要性」は社会のコンセンサスになったと思います。

今まで学校に通えなかった子がオンライン授業で復帰した話も聞こえてきています。またチャットなどですべての子が質問できるのもオンラインの強みであります。

一方で、6月の登校再開と共に、いったんオンラインの準備は止まってしまったように見えます。水面下で準備を進めている教育委員会などもあると思いますが、現場では先生方はそれどころではない、という雰囲気です。学習の遅れを取り戻すこと、進路指導、毎日の消毒活動、濃厚接触者や陽性者が出た場合の対応など、現場は本当に大変です。学校運営をしながら、同時に今後に備えてオンライン環境を整備するのは難しいです。残念ながらこの秋冬にもう一度感染症の大流行が起きた場合は、3~5月と大きく変わってオンライン授業に一気に移行することはできない学校が多い状況です。この間に私学を中心にオンラインが一気に進んでいる事例もありますので、公立・私立や地方間で格差が広がっていってしまうことも懸念されます。

◎社会をあげて子どもたちの応援を

今年の大きな環境変化は、学校の多様化時代の幕開けとも感じます。学校がすべてではない、積極的に行かない選択肢もある、登校しなくても学ぶことができる、そのような意味では、学校に行くことがつらいと感じている子にはチャンスや選択肢が広がっていく傾向にあります。

一方で、格差の広がりが懸念されることでもあります。都会と地方、公立と私立、学校間、家庭環境での様々な格差が出てしまい、状況が厳しい子がますます置いていかれることになっては絶対にいけません。

そのためには、社会をあげて子どもたちや学校現場を応援していくことが求められています。ほとんどすべての子どもたちが3月から学校に行く機会を強制的に止められました。行事や大会なども一気に無くなりました。その間にも一部の大人たちは自粛なく今までの生活を続けて、感染症を広げてしまっていた部分もあります。率先して我慢してくれた子どもたちのためにも、人・物・金の資源が今後ますます子どもや教育に充てられることを望みます。

◎悩んでいる皆さんへ

この記事を読んでいる現在、悩んでいる方もいるかもしれません。多くの方が言う通り、本当に苦しい時に無理に学校に行く必要は全くありません。そして今までは学校に行かないととんでもなく取り残されるような気持ちもあったかもしれませんが、この3月からは日本中の生徒たちが学校に行かない時期がありましたし、オンライン上の学習環境などもすごい速度で充実してきています。

そして同じような悩みを持っている人が数多くいることも分かっています。困った時に相談できる窓口もリアルでもWEBでもたくさんあります。ですので、悩める皆さんにとって追い風が吹いています。この追い風は今後変わることなく、皆さんの背中を優しく押してくれるものと思います。

どうか焦らずに、くれぐれも無理はしないでおきましょう。人生長いです。10代までの時間は今や人生の5~6分の1です。サッカーで言えば前半15分、野球で言えば2回が終わったくらいです。まだまだこれから十分な時間があります。だから必ずどこかで自分の足でゆっくりと歩き出す時がきますので、今はどうか無理をしないでおきましょう。

そして悩んだ気持ちは、将来同じように悩む後輩やわが子へのアドバイスになるかもしれません。悩んだ人は困っている子どもたちに気付ける優しい人に育ちます。どうか、自分を大切にしてください。皆さんの味方は世界中あらゆるところにいます。

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【画像制作:Yahoo! JAPAN】

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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