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奈良教育大附属小の前校長は栄転し、教員は処分された 「裏切られた気持ちです」と保護者は語った

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

「奈良教育大附属小の教育を守る市民集会」が、3月31日に開かれた。それを報じる4月1日付の「読売新聞オンライン」は、「校長ら8人が3月28日付で処分された」と書いている。

 しかし、附属小を混乱に陥れた小谷隆男・前校長は、わずか1年で同校を去り、奈良県教育委員会教育次長に転じている。処分どころか、栄転しているのだ。

 附属小児童の保護者の目には、小谷前校長はどのように映っていたのだろうか。保護者のひとり、Bさんの話を聞いた。

●「なんで問題にするの?」が正直な感想

―― 大学側が附属小の教育実践を「不適切」とした問題を、初めて知ったのはいつでしたか。

B 1月16日に大学が開いた説明会に出席して、そのとき時数不足とか教科書の未使用などが問題にされていることを知りました。

 ただ、そんなことは知っていたことです。「なんで、この時期に問題にするの?」というのが正直な感想でした。

 授業のすすめ方がゆっくりだったり、先生たちが独自のプリントをつくってやっていたりする授業があることを知っていました。子どもたちのことを考えながらの授業だし、プリント作りもたいへんだろうな、とおもっていました。それが悪いとかではなくて、良いともおもっていました。「なんで問題にされるのか?」とも、おもっていました。

―― それが、附属小の教育実践を支えてきた先生方の「出向=処分」にまで発展していくわけですが、それについては、どう受けとめていますか。

B 裏切られた気持ちです。1月16日の説明会でも、出向の話はありませんでした。大学の宮下俊也学長も、「当校並びに本学教職員が一丸となって信頼回復に努めます」と話していました。

 これまでの授業で足りていなかったところを補足してもらうのは、それはそれで良いし、「一丸」だから、先生たちも一緒に頑張られるんだな、とおもっていました。

 16日の説明会のあとでも、こんなたいへんなことになるとは、おもってもいませんでした。

●附属小らしさが失われる不安

―― たいへんなことになってきていると感じたのは、いつでしたか。

B 保護者有志の方々が出向反対の署名活動を始めていると聞いたときです。附属小で中心的に頑張ってこられた先生を、全員、入れ替えることになっていると知って驚きました。そんなことになるとは、おもっていませんでした。ほんとうに、おもっていませんでした。

―― これまでの附属小の教育実践をつくってきた教員が入れ替わることで、これからの附属小の教育が変わることへの不安はありますか。

B すごく、あります。3月19日にも説明会がありましたが、「新しい教育をするので、たくさんの先生が入れ替わって教員が不足するので、いままでの附属小の教育の内容が引き継がれていくか明確ではない」と説明がありました。平和学習の集大成である6年生の広島修学旅行、6年生がつくりあげていく体育大会、全校美術展、全校音楽会など、附属小のメインとなる活動が継続できない可能性があるとの一方的な説明でした。

 それに対して保護者からは、「おかしい」「考えなおしてほしい」という意見が多くでました。

 出向についても、大半の保護者、私の感覚では出席していた9割以上の保護者が反対だったとおもいます。

―― 話し合おうとか、出向を見直そうとか、そういう前向きな姿勢は学校側にはなかったのですか。

B 小谷隆男校長には、前向きな姿勢はありませんでした。間違ってはいない、子どものためになるとおもう、と言っていました。

―― 3月19日の説明会には、大学の宮下学長は出席しなかったのですか。

B 当初は「来ない」と知らされていたのですが、たくさんの保護者から出席要請があって、それで出席されていました。

 2月29日に宮下学長名で保護者に「奈良教育大学附属小学校教員の人事交流について」という文書が、メールで一斉配信されてきました。それは、「出向させます」という内容でした。

 その後、学長や校長からは何の説明もありませんでした。それに対して、「おかしいだろう」と保護者から意見があったようです。それもあり、19日の説明会に出席しないのはおかしい、という保護者からの意見も多くあって、それで宮下学長も出席することになったのかもしれません。19日の説明会に出席して、宮下学長は初めて保護者の生の声を聞いたのだとおもいます。

 保護者の代表が学長と会談したときには、「1月16日の説明会で半数以上の保護者が教員を替えてほしいと言っていたじゃないか」みたいな話もしていたそうです。そんなことを、保護者は言っていないんですけどね。

●憤りの気持ちで聞いていた

―― 校長は、どういう態度だったのでしょうか。

B 冒頭に、こんな収拾のつかない状態になるとはおもってもいなかった、と言っていました。どういうつもりでの発言なのか、保護者として憤りの気持ちで聞いていました。

―― 学長や校長は、自分たちが説明したら保護者を納得させられる、と考えていたのかもしれません。

B そうなんですよ。最後に校長は、僕はもっと前向きな話し合いができる場だとおもっていた、僕がおもっていた場とは違いました、と言っていました。

―― 出向に反対する保護者の強い思いを生で聞いて、驚いたのかもしれませんね。

B 19日の説明会では、先生方も発言されて、自分たちのやってきた教育への思いを熱く語っていました。それまで先生方は、たぶん、発言することを止められていたのだとおもいます。19日は勇気をもって発言されて、多くの保護者が感動していました。

 それもあって、出向反対の意見を熱く語る保護者も多かったです。それで説明会は、6時間以上も続きました。

―― 保護者の声を聞いて、宮下学長も考えを変えたように見受けましたか。

B どうなんでしょう。「出向の内示を変えることだってできるはずだ」と言った保護者もいましたが、学長は「決める権利は、僕だけがもっている」と明言していました。

「保護者の意見を聞く責任だけは果たしましたよ、ただ、人事権は僕にある」と言っているだけのように、私には聞こえました。

―― ありがとうございました。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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