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野菜ドレッシング・ビジネスの衝撃

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
(写真:アフロ)

ドレッシング・ダイエット宣言

社会人になってしばらく経ったころ。スーパーで5キロのお米を定期的に持ちあげなさい、と先輩からアドバイスされた。買いなさい、ではない。持ちあげなさい、だった。

5キロのお米は相当な重みがある。ただし、加齢とともに増えていく脂肪の重みは感じない。30歳を前に、学生時代から5キロ、ひとによっては10キロほど太ることは珍しくない。でも、脂肪はその米袋ほど重いのだ。私は恐懼し、学生時代からアラフォーと呼ばれる現在にいたるまで体重は変化していない。私はこれを「恐怖のお米ダイエット」と名づけたいと思う。

最近のダイエット関連のヒットといえば、ドレッシングだ。もちろん、野菜にかける、あれである。私のまわりの女性たちは「ドレッシングがキテる」といい、多くの女性誌もドレッシングを取り上げている。

流行についていけなくなるのは、おじさんの特徴かもしれないけれど、はじめて聞いたとき「流行るとか、流行らないとかじゃねえだろ。野菜を食べるときにいつも使うだろ」と思った。しかし女性たちはやはり本気で、しかもたしかにドレッシングは「キテる」ようだ。

あるひとは「ジョセフィーヌ」なるドレッシングだけでビールが飲めると豪語し、あるひとは「イル・キャンティ」なるドレッシングを使えば野菜と心中できるといった。クックパッドにはドレッシングのレシピが溢れ、ドレッシング本が数々出版されている。美味しく、食材を楽しめ、ラクに楽しくダイエットができる――。とにかく、ドレッシング狂想曲なる騒ぎが、おじさんたちの知らないところで広がっている。

ドレッシングの市場規模

ドレッシングの効用を語る前に、まずドレッシングの市場を見てみよう。ドレッシングは、他の基礎的な調味料が横ばい、あるいは減少しているなか出荷額を増やし続けている稀有な存在だ。たとえば10年前の2004年には815億円ていどだったものが、2014年には900億円を超えた。さまざまな統計条件があるものの、ここでは出荷ベースを採用した。砂糖、塩、ミソ、醤油にくらべて伸びが目立つ。たとえば、あえて和風調味料の代表格である味噌をとりあげると、おなじく2004年に1109億円だったものが、2014年には1000億円を割った。

とくにスーパーではドレッシングの売り場を拡大し、主婦層へ訴求しようとしている。ノンオイルドレッシングを主役に据え、各社とも売り場の展開に抜かりない。平均的な家庭の冷蔵庫にはドレッシングが2、3本あるといわれており、それを梃子にさまざまな料理を提案しながら客単価を引き上げようとしているのだ。

ドレッシングブームのきっかけについては諸説あるものの、理研ビタミン株式会社の各ドレッシングがメディアに取り上げられたことが大きい。「リケンのノンオイルシリーズ」はフレーズとしても有名だし、私のようなおじさんでも聞いたことはあるだろう。

とくにドレッシングはテレビなどのメディアに取り上げられるとよく売れる。それにテレビCM効果が大きいといわれる。それはもちろんダイエット関連商品ということもあるが、テレビを見ている層とスーパーで買い物する主婦層が一致しているからだ。

もちろんドレッシングは若者層にも広がっている。このところコンビニエンスストアで昼食用にカット野菜を買う層が増加している。健康志向とローカロリー食品志向、節約志向が合わさり、店舗によっては売上が前年比1.5倍ほどになっている。これもドレッシング需要を増加させる一因だった。

またドレッシング市場拡大は、粉ドレッシングの流行も大きい。これは文字通り、粉状のドレッシングのことで、野菜に簡単にふりかけてドレッシング的調味料が楽しめる。ドレッシングの液体が残ってしまい処理に困ったひとは多いだろうけれど、粉状ではその心配はない。その時短性と新進性を、日経トレンディはサラダの<大革命>とまで呼んだ。

具体的な粉ドレッシングの商品としては、味の素「トスサラ」、キューピー「彩りプラス+」がある。私は野菜にこれまでドレッシングをかけずに食していたが(だって面倒なんだもん)、粉ドレッシングを試用してみると、たしかに便利で美味しいと思った。

その他、自家製ドレッシングが流行している。「生ドレ」「ベジドレ」なる言葉もあり、これはフレッシュな野菜や果物をそのままドレッシングとするものだ。

紹介したドレッシングをはじめとし、さまざまなドレッシングが考案されている。まるで、ドレッシング経済圏ともいうべき市場が誕生している。

ドレッシングの効果と次なる流行

それではドレッシングの効果はどのようなものだろうか。

もちろん、野菜を美味しく摂ることは健康的だ。また、肉食の比率を下げ、野菜などに代替できればダイエット効果が期待できる。しかし、これらは私が指摘するまでもない。

最近、注目されているのはGI値効果だ。GI値とは、「グライセミックインデックス」のことで、単純にいえば血糖値の上がりやすさを示す。野菜や海藻類などの食物繊維食品を食べれば、このGI値が良好になるとされる=ファイバーファースト。この野菜や海藻類などの摂取を促進するためにも注目されたのがドレッシングだったわけだ。

またドレッシングに含まれる酢の作用が、消化吸収をゆっくりにさせる。これがまた<食べ順ダイエット>なる手法も生んだ。ドレッシング活用は山火事のように広がっている。

これまで野菜のお供として考えられたドレッシング。そのドレッシングが急先鋒に立つとは面白い現象ではある。このブームが続くのか終わるのかはわからない。ただ、ここは美味しい野菜が食べられるわけなので、まずは歓迎しておこう。

もちろん、ノンオイルドレッシングも粉ドレッシングも、それこそ食べ順ダイエットもいいけれど、まずは食べ過ぎないこともお忘れなく。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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