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そろそろ危機感を持ったほうが良い〜自動車産業が日本経済に示す黄色信号

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
自動車産業は日本経済の要だ(写真:アフロ)

・暗雲が立ち込める自動車産業

 8月も半ばを過ぎ、各社の2019年4月〜6月期の決算が発表されている。日本経済新聞社の発表によると、上場企業主要1584社の純利益は15%減と3年ぶりに減益。特に製造業に関しては、45%減とほぼ半減している。

 日産自動車は、前年同期比純利益9割減となり、2022年までに予定されていた従業員のリストラ数を上積みし、1万2500人とすること発表した。さらに、三菱自動車同7割減、マツダ同8割減、ホンダ同3割減、スズキ同5割減とトヨタとスバルを除く5社が減収減益という厳しい状態だ。

 当然ながら、こうした急激な悪化は、地域経済にも、中小企業にも大きな影響を及ぼしつつある。タイに進出している自動車部品メーカーの経営者は、「タイからアメリカ市場向けの自動車輸出が急減しており、心配しているところだ。タイや東南アジア諸国での需要が堅調なので、まだ影響は小さいが、米中の対立が長引けば、次第に厳しい状況になるだろうと考えている」と言う。

・自動車産業は日本の産業の要

 2018年の輸出総額は、81兆4,788億円だった。輸出品目で見ると、第一位が自動車で15.1%。自動車の部分品が第3位の4.9%。そして原動機が第5位の3.6%。これらを自動車関連とすると、日本の輸出のほぼ2割を占めていることがわかる。

 いずれのメーカーも、世界的な自動車市場の低迷と円高による為替差損を原因として指摘しており、米中の貿易紛争や日韓の対立などの影響がさらにそれらを悪化させていると見ている。

 「このような状況での円高は、経営には痛い。9月以降の受注予約の取り消しが増えてきている。今年度後半は、相当経営が厳しくなるのではと覚悟している。外交的にはどうかわからないが、経済産業省はもう少し経済のことを重視して考えてくれているのかと思っていたが、長引くに連れ、失望に変わりつつある」と工場向け設備機器メーカーの経営者は言う。

日本の輸出品目上位10
日本の輸出品目上位10

 

・世界的な自動車市場の低迷

 インドでは、史上最悪といわれるほどの自動車産業の落ち込みが大きな問題となっている。7月には9ヶ月連続で販売数が減少し、自動車メーカーは生産の一時停止、大規模なリストラに発展している。インドでは3500万人が自動車産業に従事しているとみられており、製造業のほぼ半分を占める規模だ。すでに35万人がリストラされ、失業率を押し上げている。インド自動車工業会は、こうした事態に危機感をもっており、物品税の減税など政府に早急な支援実施を求めている。

 インドの場合、こうした自動車市場の縮小は、自動車ローンなどの貸出に対する政府の引き締め策が裏目に出たという見方もあるが、もっと構造的な問題ではないかという指摘も多い。

 自動車市場そのものの構造変化ではないかと指摘されているのがアメリカだ。

・消費者の消費マインドは低下していないのに、自動車が売れない

 アメリカでは小売売上高は、この十年間、増加傾向が続いており、消費者の消費マインドは低下していない。にも拘わらず、アメリカでの自動車登録台数は、2014年頃に頭打ちとなり、2015年以降減少傾向が顕著になっている。

 アメリカでは、従来、自動車はステイタスシンボルであり、景況が良くなれば、それに伴って自動車を購入する人が増加するのが当たり前だった。ところが、その傾向が見られなくなったのだ。

 こうした変化について、HSBC(香港上海銀行)のエコノミストであるジャネット・ヘンリー氏らは、今回の販売台数の減少は、従来のような景気が悪化したからではなく、ウーバーやリフトなどの配車アプリによるオンディマンド交通システムの充実で、自家用車を必要としなくなった人たちが増加しているからであり、歴史的な転換期に差し掛かっているのだと指摘している。

 日本国内でも、カーシェアリングやカーリースが、従来の企業向けサービスだけではなく、個人向けサービスにも拡大しつつある。特に都市部では、もともと週末しか自家用車を利用しないという人も多く、車の所有にこだわらない人が増えつつある。

 CASE(Connected:コネクティッド化、Autonomous:自動運転化、Shared & Service:シェアとサービス化、Electric:電動化)というものが、まだ未来のものだと考えていたら、実際には急激に身近なものとなり、産業構造すらも大きく変質させつつあると理解すべきなのだろう。

・そろそろ危機感を持って事に当たるべきではないのか

 米中、日韓、そして香港と政治の不安定化は、そのまま経済の悪化となって影響が出始めている。日本の基幹産業である自動車産業が、歴史的な転換期に差し掛かりつつあり、そうした困難な時期であるからこそ、経済の悪化を最小限に抑えることは、政府、政界、官僚に求められることである。

 自動車産業が示している黄色信号に対して、どう行動し、どう対処するのか。判断を誤れば、日本は基幹産業を大きく損なうことなる。すでに各自動車メーカーやその関係企業、中小企業も、変革期を乗り越えるべく様々な取り組みを始めている。外交問題は、もちろん重要であるが、そろそろ経済問題に対して、危機感を持って当たる時期なのではないか。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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