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新NISA増税、今後どうなる?厚生労働省の見解と今後の見通し

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
(写真:イメージマート)

非課税メリットを目的として新NISAへの投資が増えてきた中での新NISAに対する「保険料負担」論。なぜ非課税のはずの新NISAの利益に社会保険料が課されるという話がでてきたのでしょう。今回は、話題の新NISA増税と厚労省の見解について解説します。

■なぜNISAに課税されるという噂が流れたの?

2024年1月からリニューアルスタートとなったNISAは、投資における利益に対する所得税・住民税の課税をゼロにする「非課税制度」です。毎月1兆円以上の投資信託が買われ、2024年の一年間で15兆円近い資金流入が見込まれています。外国株式、外国債券など海外の資産に投資する商品に人気が集中していることから、円安効果もあり利益がでている人も多いのかもしれません。今まで日和見でもこれから本腰をいれてNISAを始めようと考えている人もいたでしょう。

そんななか、新NISAに社会保険料が課せられる、実質増税だ、というニュースが流れました。このニュースに、岸田政権による増税路線の悪影響から、「また増税か!?」と反応した人もいたことでしょう。

このニュースの元をたどると「金融所得課税の一体化」という議論があります。

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■金融所得課税とその一体化とは

金融所得とは主に株式の値上がり益に対する課税であり、課税の近代化を進めた戦後の所得税法の改正から紆余曲折を経て現在に至ります。日本史では戦後の税制改革としてシャウプ博士、シャウプ勧告、シャウプ税制といった言葉を聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。

時代の要請に応じて変わってきた所得税制において、金融所得課税の一体化は、金融商品ごとの所得(利益)と損失を合算(相殺)することで金融商品間の課税の公平性と中立性を図り、わかりやすい税制を目指すことを意味します。

直近の変更では、株式投資の損益に公社債投資の損益まで損益の相殺(損益通算)を拡大しました。現在は、投資家が多様な金融商品に投資しやすい投資環境整備のため、預貯金やデリバティブ取引に関しても損益通算に含めるかどうかを検討しています。

■総合課税と分離課税による課税の公平性の棄損

現在、金融所得のうち株式に関する納税は、所得税法上の給与収入や年金収入とは別に税額を計算する分離課税方式のうち、確定申告が不要な源泉分離課税を選択している人が多いと考えられます。

源泉分離課税は株式や債券、投資信託の売却益(譲渡益)や配当金に対して、約20%の所得税・住民税を源泉徴収(天引き)することで納税が完結し、確定申告が不要となります。一方で金融所得以外の給料などの収入は、主に総合課税という方式が採用されており、全ての収入(所得)を合算(合計)し、所定の所得税率を掛けて税額を決定します。この手続きが年末調整や、所得税の確定申告です。

年収1億円の人は、所得税の最高税率45%と住民税率10%の合計55%課税されるのに対し、1億円の株式売却益(株式譲渡所得)や配当金を受け取った場合は、約20%の納税で済みます。働いて稼ぐ人と、資産収入の人で、課税負担が大きく異なることに気づいた人もいるでしょう。ただ、反対に収入の低い人は源泉分離課税の方が税率が高くなるということでもあります。

年収が高い人には累進課税が適用になるのに対し、高額資産家に対しては低税率が適用になるため、一部の超富裕層だけが得をする仕組みのように見えるため、金融所得を総合課税にしようという議論が進んでいます。この観点では対応官庁は財務省や国税庁となります。

■金融所得に対する社会保険税の負担

これまでは所得税の話を中心に解説したのですが、社会保険料は税法で定められた税金ではありません。所轄は厚生労働省であり、健康保険制度や各種年金保険法に定められた社会保険制度維持、あるいは受益のための負担となり、保険料の算出根拠は税金と異なります。

現状、源泉分離課税方式を採用して所得税・住民税を納税している場合、社会保険料の負担額に変化はありません。しかし、申告分離方式を採用して所得税・住民税を納税すると、自営業者や一時的に離職中の人が加入する国民健康保険料(税)は増減する可能性があります。

そのため、国民健康保険の加入者(被保険者)が、金融所得課税の一体化に伴い、社会保険料が増えると懸念するのはもっともな指摘と言えます。一方で、会社員や公務員の場合、社会保険料の決まり方は給与と賞与の金額によりますので、金融所得がいくら増えても社会保険料が変更になる制度では今のところありません。

現状の制度のまま、金融所得に対して社会保険料負担を求めると、会社員・公務員は今と変わらず、年金受給者や自営業者のみ投資の結果として社会保険料負担が増えることとなります。

これでは不公平でしょう。

■新NISA増税とは何だったのか

新NISAに対する課税の話題は、当初は岸田内閣の動向に反対する形で広まった、あるいはメディアが広めたと筆者は考えています。その一方で、新NISA増税が、正式な決定であるかのようなフェイクニュースとして広まり炎上していくことを懸念して、厚生労働省が社会保険料の算定から新NISAでの利益を除外する方針を明らかにしたようです。

ただ、株式の配当等の金融所得を反映して社会保険料を決める方向性は近いうちに概要が見えてくるでしょう。健康保険や介護保険の抜本的な給付抑制をせず、収入源である保険料の算定を改定するのは遠くないのでしょう。

働くと酷税、投資では増税。定額減税されたとしても、嬉しさより悲しさが増すばかりです。

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「保険チョイス」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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