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改正子ども・子育て支援法で子育てはどれだけ楽になるの?大して変わらない不安も。

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
加藤鮎子 内閣府特命担当大臣(こども政策 少子化対策 若者活躍 男女共同参画)(写真:つのだよしお/アフロ)

2024年6月5日に子ども・子育て支援法の改正案が可決成立しました。異次元の少子化対策で子育てをしたいと考える人は増えるのでしょうか。今回は児童手当を中心に、どのように変わるのか、効果はあるのか考えます。

■「異次元」の使いすぎで低くなる期待値

最近の日本の言葉の流行なのでしょうか。具体的に何のことかわからない表現が増えてきました。「丁寧に」「スピード感をもって」「断固たる」「強く」「緊張感をもって」そして「異次元」です。

例えば、「緊張感とスピード感をもって丁寧な議論を重ね、断固たる意志と強い気持ちをもって、少子化対策を実行する」と言われると、少子化を何とかしてくれるのではないかという期待を抱く人が出てくるかもしれません。

ここで注意したいのは、少子化への対策であって克服ではないこと。これは、「対策はするけれど効果のほどは問わない、克服するとは言ってない」と捉えることが出来そうです。もしかすると、政治家にとっては単に予算をつかって対策するが、結果を問われても困る、ということなのかもしれません。

ですから、異次元という言葉で膨大な予算を消化するような期待を抱かせつつ、実際は対策はするけど、これで子どもが増えるとは思っていないのかもしれません。

■異次元という名のセコイ対策

今回の目玉の一つは児童手当の拡充です。

・所得制限を撤廃

・中学生から高校生まで3年分支給を延長

・第三子以降の支給額を月額3万円に増額

・支給回数を増やす

まず、所得制限について、そもそも必要なかったのではないかと筆者は考えます。子育て中の人々への恩恵をと考えれば制限する理由はありません。一方で、富の再分配という観点では高所得者を除外することの意味はあります。ただ、高所得層だからといって、必ずしも生活が楽なわけではありませんから、子育てにかかわり、かつ子供を育てる余力のある高所得層に心理的な、金銭的なダメージを与える必要はなかったように思います。一言で言うならば、増税した消費税を利用した方が納得感ありませんか?という気がいたします。

中学生から高校生まで3年分支給を延長する点については、好印象です。義務教育ではないとはいえ、高校進学率98%、高校卒業率95%の日本では高校卒業まで児童手当を支給しても、大きな不満は出なそうな割合です。

そして、最も注目を集めそうな第三子以降は月額3万円に増額されることが決まっています。が・・・子供が成人すると、子どもとして計算に含めなくなるため、「実際に子供が3人いたとしても、子ども年の差があると、児童手当の増額の恩恵にあずかることができない可能性」があります。

一般的に、第三子という表現なら、3番目の子供という意味だと思われます。しかし、少子化対策における第三子とは、親の扶養から外れない子どもが3人いて、一番年齢が低い子どものことを指します。

子育て期間が連続していないと、実際には3人以上子どもが居たとしても、第三子に該当せず、児童手当が増額されないことになります。一言で表現するならセコイ。払いたくないという為政者の気持ちがヒシヒシと伝わってきます。

そもそも、子育ては1人目から大変であるのに、「児童手当が増額されるからもう1人子どもをつくろう!」「子どもが成人すると児童手当が減るから、早く子供をつくろう」と考える人は多くないように思います。少なくとも私が相談を受けているご家庭でそのような奇妙なロジックで家族計画を立てている人はいません。

霞が関で練られたのか、国会議員のアイデアの塊なのかわかりませんが、子育て中の人たちの声に耳を傾けていれば、このような謎の「第三子条件」になることはなかったでしょう。本当にセコイ。

■児童手当は何に使われるのか?

筆者がライフプラン相談を受けていると、多くの方が児童手当を「貯める」印象です。子ども名義の銀行口座をつくって、支給のたびに移し替えているようです。実際、我が家も同じです。

赤字の家庭なら児童手当も生活費の足しになるのでしょう。ただ、黒字のご家庭ですと、将来のためにと手を付けずに貯め続けるご家庭が多い印象です。おそらく、児童手当が18歳で支給満了になったとしても尚手付かずになるのではないかと想像します。

はじめは将来の大学進学資金や教育費のために貯め始めるのですが、子どもが大学等に進学しても、そのお金は使わずに、自分たちで貯めたお金で学費に充当し、将来何かあった時のために、引き続き親が預金を維持する場合も多そうです。

このような状況ですから、児童手当を支給するから子育て世代の家計が豊かになるわけでもないのです。全額貯蓄に回るとすれば、家計が楽になることもなければ、消費に回ることもありません。

この状態は健全ではないと思います。子育てを楽にさせたいのであれば、子育てに使えるようなチケットや現物を支給しないと、使われずに只々貯まっていきます。もらって嬉しいお金ではありますが、そもそも児童手当を受け取ったからといって、生活が楽になるわけでも無く、子どもがもっと欲しくなるわけでもありません。

使われないお金を支給することは、コロナ禍にあって多くが貯蓄に回された10万円の定額給付とかわりません。

もっと、他のことに使って、現金での給付をすべきではないのかもしれません。幼稚園保育園を0~2歳も無償化にしたり、学校給食の質をあげつつ給食費の負担をゼロにする。学校で必要な教材費の負担をゼロにする、などにより実質負担ゼロを目指す方がわかりやすく子育てに効くのではないかと考えます。

参照:子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案の概要

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ba94b64b-731f-4f48-97ba-b54a76b0aeb6/a528abca/20240216_councils_shienkin-daijinkonwakai_03.pdf

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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