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国民民主党の103万円の壁見直しで増税路線は転換するか?生活への影響は?

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

衆議院選挙で自民党・公明党の連立与党の獲得議席数が過半数割れを起こしたことから、自公連立政権だけでは政策を作ったり、変えたりすることをしづらくなりました。どこかの党の協力を得る必要があり、協力を得るためには協力を仰ぐ党と協調する必要があります。今回の選挙で大きく議席数を伸ばしたのが、103万円の壁の見直しを訴えている国民民主党です。103万円の壁が見直されると私たちの生活はどのように変わるのでしょうか。

■増税一辺倒から手取りを増やす減税路線への可能性

自民党・公明党の連立与党が過半数割れを起こしたことで、今まで増税、制度改悪一辺倒であった日本政府の政策の転換点となる可能性があります。

今までは、何かの決まり事や方向性が「有識者会議」で議論され、いつのまにか「閣議決定」され、大して議論されぬまま国会で審議・可決され、政策に積極的な興味のない多くの人にとっては、「知らぬ間に」政策が決定されているような印象でした。

ところが、ここにきて、与党だけでは政策が決定できなくなったため、他の党の協力を仰ぐ必要が出てきました。他の党の中で、「与党と組む」か、「野党と組む」かの重要な立ち位置にあるのが国民民主党です。

国民民主党は選挙演説から103万円の壁を178万円にすると発信していました。これは明らかに減税です。今まで、相続税の増税、給与所得控除の縮小による所得税の増税、消費税の増税など、ジワジワと増税を日本政府は行ってきました。

ところが、その流れに逆行するかのような提案が103万円の壁の見直しです。

103万円の見直しは、与党によって否定されれば、今後の選挙に悪影響を与えかねません。かといって安易に減税に賛成すれば、「国民民主党よくやった!」と野党の人気を高めかねません。いずれにせよ、過半数割れを起こしたことで、野党の政策に付き合わざるを得なくなったわけです。

■103→178万円に壁が移ることによる手取り増効果

103万円の壁が178万円の壁に、金額が上昇することでパート・アルバイト以外にも、収入のある人に減税メリットがあります。

単純に所得税と住民税で考えれば、所得税の課税上限が75万円引き上げられると、所得税の最低税率5%~45%と住民税10%が実質減税となります。

給与天引きされている現役世代は、手取りが増えます。確定申告対象者は納税額が減少します。いずれにせよ恩恵に浴することができます。

所得控除が75万円増えることで、所得税+住民税がいくら減るか考えてみましょう。

合算税率

15% 11.25万円

20% 15万円

30% 22.5万円

33% 24.75万円

43% 32.25万円

50% 37.5万円

55% 41.25万円

手取りが増えることになります。

■178万円の壁の障壁となる社会保険の壁

気を付けたいのは、現状で178万円に所得税の課税所得が引き上げられた場合のこと。106万円(勤務先の授業員規模による)や130万円を超えると世帯主の扶養から外れ、自ら社会保険の被保険者となるため、社会保険料の納付義務が発生し手取りが減少することです。

世帯主の所得税や社会保険における扶養に入っていれば、所得税非課税、住民税非課税、社会保険料負担ゼロ、だったわけですが、社会保険の被扶養者の基準を超えたタイミングで実質的な手取りがガクンと落ち込みます。

そのため、178万円の壁を設定する場合、社会保険の被扶養基準も178万円に引き直す必要があります。そうしないと、単に減税しただけで、一部の人は利用することができなくなります。一部の人とはパート・アルバイトなどの非正規雇用者です。

103万円の壁の見直しにともなう所得税の減税は既に8兆円近い財源が必要と試算がされています。社会保険も線引きを変更するとなると、社会保険料が減少することになります。

現在、資産運用で財政を打開できる公的年金を除けば、健康保険、介護保険は厳しい資金繰りを余儀なくされています。財源論という話になりますが、今までも政府の歳入・歳出は赤字であり、赤字国債を発行して収支トントンに見せています。紙幣や硬貨しか無い時代ならともかく、ネットバンキングやデジタル化されたお金を利用する現代において、「現金が足りなくなる」状態になることはありません。あるとしたら大災害で電気が使えない場合です。

尚、「日本が破綻する、しない」論は今回議論しませんが、国債の発行が銀行の引き受けキャパシティを超えてしまうと、国債の買い手がつかないという事態になります。たまにニュースで引き受け手がいない場合が発生しています。

所得税の減税を財務省が容認したとして、社会保険料を減らしたくない厚生労働省はどのように対応するのか注目です。

所得税・住民税と社会保険は税と社会保険制度における両輪ですから、片方の水準を緩くしても、もう片方で対象として捕捉、課税されては効果が激減します。

税金も社会保険も法律を変更する必要がありますので、2025年度の税制改正に盛り込んだとして、適用が2027年度となるようなスケジュール感になるなど、すぐに適用できないことが残念なところです。

■実はインフレ税が課されていた

ここで改めて考えてみると、平成時代が株価も経済も成長しなかったと思われがちですが、最低賃金は引き上がっています。

最低賃金は600円台から1000円台に突入し、今後は1500円を目指す展開です。賃金単価が上昇しているのに、課税水準が引き上げられていませんから、賃金上昇による増税がいつのまにか進んでいたことになります。

また、物価上昇に伴い賃金が引き上げられている昨今でも、事実上の賃上げ増税が行われていたことになります。「払い戻ししてもらいたい」というのが正直なところ。

103万円の壁をどうするかについては、そもそも物価上昇等の場合に連動して控除額を増額するような仕組みを組み込んでおかないと、国民はゆでガエルになりかねません。

今後は、103万円の壁の見直しが与党に受け入れられるかがカギとなりそうです。私たちの生活を少しでも楽に、安心して暮らせるようにするためにも、政府が一致団結して取り組んで欲しいものです。

ウルトラCで、今年の年末調整から適用にできないでしょうか?マイナンバーを使えばできるのかもしれませんが。

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お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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