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羽生善治九段が勝って竜王戦七番勝負は1勝1敗に。「運命が微笑んだ」綱渡りの手順

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 23日に2日目が指し継がれた第33期竜王戦七番勝負第2局は、挑戦者の羽生善治九段(50)が豊島将之竜王(30)に96手で勝利し、シリーズは通算1勝1敗となった。

 豊島竜王の角換わり早繰り銀からの攻めを羽生九段が受け止める展開になった本局。

 終盤、羽生九段が一気の攻めで豊島陣を攻略し、綱渡りのような手順で勝ちを決めた。

 棋譜は公式ページからご覧ください。

綱渡り

 それはため息が出るほどのすさまじい決め方だった。

 苦戦を意識して豊島竜王が粘りに出たところでは、残り時間も2時間程度で並んでいて、筆者は熱戦を予想していた。

 しかし羽生九段には勝ちへの道筋が見えていたようだ。

 銀をタダで取られるところへ打ってから始まった猛攻は、約20手後に受けなしという形で完結した。

 最後に豊島竜王が飛車の王手をかけたところ。

 羽生九段の持ち駒には一つだけ歩が残っており、それを打てば詰まされる可能性はない。

 ただその歩を使ってしまうと、豊島玉に受けが生じて逆転する。

 それが豊島竜王のかけた最後の罠だった。

 羽生九段は歩を使わずに受けて、そこで豊島竜王の投了となった。

 歩を使わないと羽生玉も危険だが、ギリギリで詰みはない。

 AIが勝率99%と示そうとも、一つのミスで逆転してしまう危うい差であった。

 羽生九段は「運命は勇者に微笑む」という言葉を好む。

 本局は、綱渡りのような手順を選んだことで羽生九段に運命が微笑んだ一局だったといえよう。

 思い起こせば、先月の藤井聡太二冠(18)との対戦でも、羽生九段は終盤で見事な即詰みをみせて勝った。

 タイトル獲得通算100期に向けてモチベーションも高く、終盤の切れ味がさらに磨かれているのかもしれない。

序盤の攻防

 本局は先手番の豊島竜王がエースである角換わり戦法を採用した。

 対する羽生九段は、序盤でややひねった作戦をみせた。

 最近の豊島竜王は意欲的な急戦策を採用することが多く、結果も出している。

 もしかしたら、羽生九段の作戦が豊島竜王の狙っていた急戦策を封じたかもしれない。

 結果的に豊島竜王は早繰り銀という急戦策を採用したが、この作戦選択はうまくいかなかった。

 1日目を終えるところでは、後手番の羽生九段がわずかにリードしていたようだ。

 序盤の研究の深さで知られる豊島竜王としては、先手番でエースである角換わりを投入したにもかかわらず序盤でリードされたのは不本意だっただろう。

 羽生九段としては、序盤の工夫、そして早繰り銀という意表をつく作戦選択にも対応したことで一局通じて主導権を握っていた。

 それにより、最後の綱渡りの手順が成立することに結びついたのだった。

七番勝負は1勝1敗に
七番勝負は1勝1敗に

後手番が2連勝

 筆者はこのシリーズが始まる前に展望記事を書いている。

羽生善治九段、タイトル100期を目指す戦いへ。竜王戦七番勝負は9日開幕

 この記事内で、

互いに後手番で苦戦が予想される

出典:羽生善治九段、タイトル100期を目指す戦いへ。竜王戦七番勝負は9日開幕

 と書いたのだが、結果的には後手番が2連勝となった。

 苦戦が予想された後手番で、両者とも工夫した作戦をぶつけて見事に勝利をおさめた。

 さすがの対応力であり、両者の本シリーズに向けた準備の周到さを感じさせられる。

 もし本局で豊島竜王が勝っていれば2連勝となり、シリーズの流れをつかむところだった。

 羽生九段が勝ったことで、どちらに流れがいくのか現時点では全くわからない。

 次局以降、どんな展開になるか楽しみだ。

 注目の第3局は11月7・8日に京都府京都市で行われる。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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