今からでも楽しめる凱旋門賞、そして2022年への課題
東西ドイツ統一の日、第100回凱旋門賞を制したドイツ馬
2021年の凱旋門賞(10月3日、フランス・ロンシャン競馬場)も無事、終了した。
第100回という記念すべきレースで優勝したのはドイツ調教馬のトルカータータッソだった。凱旋門賞は毎年10月最初の日曜日に行われるが、2021年は10月3日だった。そして、10月3日はドイツにとっては大事な祝日で、東西ドイツが再統一されたドイツ連邦共和国の建国記念日だった。
ドイツの調教馬が凱旋門賞を優勝したのは、1975年のスターアピール、2011年のデインドリームに続いて3頭目の快挙だった。
日本調教馬のクロノジェネシスは先行して直線でも先頭をうかがうなど見せ場をつくったが7着、ディープボンドは後方からレースを進めて14着だった。また、武豊騎手が騎乗したブルームは11着。ディープインパクト産駒のスノーフォールは6着に終わった。
■2021年凱旋門賞(GI) At The Races公式
トルカータータッソ陣営「凱旋門賞を勝つならば、それはおとぎ話だよ」
優勝したトルカータータッソ陣営はレース後、「信じられない」「夢みたい」と、感極まった様子だった。
レース前、ワイズ調教師は「もしもトルカータータッソが凱旋門賞を勝つならば、それはおとぎ話だよ」と笑ったという。我々からみたら、トルカータータッソも欧州馬だが、ドイツのミュールハイム・アン・デア・ルールに本拠地を置くワイズ厩舎にとってフランスの地はアウェーなのだ。確かに、トルカータータッソは過去ドイツでしか走っておらず、陸続きといえど初の国外競馬だった。
レース後、日本のお茶の間でも楽しめるメディア戦略
年を重ねるごとに、凱旋門賞は徹底したメディア露出が行われており、インターネットさえあれば世界各所で楽しめる仕組みとなっている。
たとえば、有力馬の1頭であるタルナワに仕掛けられたカメラによる映像。ジョッキー目線で歴史あるGIを楽しめる。
こちらは日本のディープボンドに騎乗したバルザローナ騎手装着の映像。
そして、日本で馬券を発売するようになってから、フランスの競馬主催組織であるフランスギャロの日本へのサービスは格別だ。フランスギャロの公式SNSを通じて、日本語での凱旋門賞の紹介が積極的に行われている。
現地の方による、日本語での情報発信。
レース直前、武豊騎手へのインタビュー映像。
クロノジェネシスが現地でレースに待機していた厩舎から出発するシーン
同じくディープボンド。
日本の馬券売上促進のための広報であるのは明らかだが、こういった情報をリアルタイムで見るだけでも、パリから遠く離れた日本のお茶の間でも十分に凱旋門賞を楽しむことができた。
いつか、日本でもこのような趣向を凝らしたメディア戦略が行われる日は来るのだろうか。
2022年凱旋門賞への課題
今年も日本にまつわる人馬は凱旋門賞を勝てなかった。
これまでの日本調教馬のチャレンジでの最高成績は2着。1999年エルコンドルパサー、2010年ナカヤマフェスタ、2012年と2013年オルフェーヴルが記録している。
この中でいちばん1着に迫れたのは2012年、優勝したソレミアにクビ差まで迫ったオルフェーヴルだった。毎年、恒例のように凱旋門賞が終わると過去の歴戦を振り返るのだが、改めてアウェーで戦い抜いたオルフェーヴルの偉大さを痛感させられた夜であった。
■2012年凱旋門賞 優勝馬ソレミア(2着オルフェーヴル)
今回、クロノジェネシスは日本で仕上げた状態で現地に渡り、本番に挑んだ。一方、ディープボンドは前哨戦であるフォア賞を走っている。
さまざまなトライ&エラーが繰り返されたのち、いつか日本にまつわる馬が勝つ日がくるはずだ。その時を見たくて、また来年以降も10月の第1日曜日の深夜に気持ちが昂っているのだろう。
また、馬券面については、日本での発売分については日本の関連馬が売れる分、欧州馬の人気が下がる。
日本の競馬ファンは予想をするにあたり、日本メディアの情報を参考にされているかと思うが、その情報の元となるのは現地メディアの情報だ。
その情報源として、凱旋門賞であれば現地の老舗競馬誌であるフランスの「パリチュルフ」やイギリスの「レーシングポスト」の情報を参考にして記事を構成しているはずだ。当然、それらに掲載されている情報は欧州といってもフランス調教馬やイギリス、アイルランド調教馬の情報は豊富だが、それ以外のドイツの情報は薄い。
筆者もそういった背景がトルカータータッソのオッズをさらに下げたのではないか、と推察し反省した。インターネットのおかげで、日本のお茶の間でも世界のさまざまな地域の情報を収集できるのだから、時間の許す限り、マイナーな情報も収集していきたいと思った次第だ。
たとえば、下にあるYouTube動画はトルカータータッソが2020年に走った様子で、ドイツダービー(2着)、条件戦(1着)、ベルリン大賞(1着)の3戦をつなげたものなのだ。正直、ドイツ語がわからない筆者には実況の内容など大興奮で連呼される馬名以外はサッパリわからないが、馬の躍動感や勝ちっぷり、戦法を自分の目線で見ることができる。そもそも、普段競馬場でレースを見ている際、実況を聞かずともレースを楽しめているのだから、こういった映像を見るだけでもじゅうぶん自らの知見になるのではないか。少なくともレース前にこの動画を見ていたなら…と筆者は悔やむ。
凱旋門賞は日本馬の参戦がほぼ毎年恒例になっている。せっかく日本で凱旋門賞を含めた世界の馬券を売っているのだし、積極的に言語を超えて競馬を楽しもう。改めてそう思った10月最初の日曜の深夜であった。