緊急事態宣言で「カニ・すし食べ放題」をはじめた居酒屋経営者の狙い
東京・西新宿で「カニ・すし食べ放題」3500円(税別、以下同)を行っている居酒屋がある。「俺の魚を食ってみろ!!」という店名で、二度目の緊急事態宣言が発出されてから、1月10日~2月7日の限定で営業の時間を11時30分から20時までの通し営業として、メニューを上記のもの一本に絞り提供している。通常の営業ではお刺身7種盛り合わせで、ふたを開けるとドライアイスとともにお刺身が現れるという仕掛けの「俺の玉手箱」2人前1980円が看板メニューで、顧客からは魚料理のクオリティが高いことで定評がある。
「カニ・すし食べ放題」の内容は、最初はコース仕立てで、「カニ味噌グラタン」「カキフライ」「カニ汁」「食べ放題のすし」がすぐに出てきて、その後からズワイガニの肩から脚の部分とすしが食べ放題となっている。この様子をSNSに投稿してそれを従業員に見せると、うに、いくら、牡丹えび、穴子一本にぎりといった高級ネタのすしがプレゼントされる。すしのご飯には赤酢を使用して、本格派であることを訴求。食べ放題の時間は90分制で、スタートしてから60分でラストオーダーとなる。
食材をたくさん売ることで仲卸を支援する
同店は東京・中目黒でドミナント展開(店舗を集中して出店していること)している株式会社MUGEN(本社/目黒区、代表/内山正宏)のグループ店舗で、同社では主として炉端焼きの店舗を展開している。西新宿の店でこのような売り方を行っている理由について、代表の内山氏はこう語る。
「食材の廃棄ロスを防ぎ、漁師の方たちが元気になってもらいたいという想いから、なんとか生産者支援を続けてきた仲卸さんが、今生産者から買い取った商品の売り先がなくて豊洲市場はガラガラの状態です。一方で、私たち飲食店は国からの協力金があり、一部でありますが支えてもらっています。そこで、私たちが仲卸さんの力になり、その力を生産者さんの支援につなげてほしいとこのような応援企画を考えました」
「すべての人の幸せの力に!」
このようにMUGENは企業理念として、飲食店はお客、業者、すべてとつながる存在であることを打ち出している。
同社では、最初の緊急事態宣言が発出された時も居酒屋業界に先駆けて応援企画を展開した。
この時は、豊洲の仲卸の協力を得て4月11日(土)に中目黒の店舗鮮魚の店頭販売を行った。まぐろ、金目鯛、あじ、うに等の刺身、西京漬け、煮付けにできる魚をタレと一緒に販売した。この様子を珍しそうに眺めている近隣のお客にはあら汁をサービスしながらいろいろと会話をして、お客の要望を把握した。
しかしながら、飲食店店舗として許可を得ている「食品衛生責任者」の資格以外にも「魚介類販売業許可」が必要なことが分かった。
そこで、同社では魚介類販売業許可を取得し、生鮮野菜販売の事業者の協力も得て「八百屋さん&お惣菜屋さん」として再スタートを切った。「〝これでもかっ“てくらいに並べた野菜がみるみる売れていきました」(内山氏)という。
SNS発信でにわかに知られ予約客が増える
さて、今回の緊急事態宣言に際しては前回のような店頭販売を行っていない。その理由は「一般のお客様にとって、前回のような日中居酒屋の店頭で販売されている野菜や鮮魚を購入しようというイメージがわかないから」という。それは、普段からこれらをもっぱら販売しているスーパーマーケットなどの小売業の流通が整ってきていて、「居酒屋が店の食材を販売するということが斬新なものとして伝わらなくなっている」ことを、内山氏が肌で感じているという。
「では、どのような形の応援企画を行うか」ということで考え出されたのが「カニ・すし食べ放題」なのである。
現在同店ではこの企画を完全予約制で行っている。店内は約60席だが、客数は平日で60人あたり、土日には100人を超える。
筆者は1月16日の16時に予約を取り、この食べ放題を経験した。客層は20代、30代の男女、カップルもいるが同世代の仲間2~4人で利用しているというパターンが多い。動画投稿SNSのTikTok上で『東京グルメ』に紹介されてから、既に2万4000を超えるPVがあり、予約客は増える傾向にある。
カニとすしは追加注文するとすぐに出て来る。カニの脚の端にハサミを入れて引っ張るとプルンとした肉汁たっぷりのカニ肉が出てきて、このやり方に慣れてくると食がどんどん進んでいく。カニ脚の殻はかさがあるので殻入れはにわかに山盛りになる。カニは食べだすと集中するのでオーダーの時間制限「60分」は妥当に感じられて満足度が高い。
ちなみに客単価は4000円強。この客単価は通常営業と同じレベルだが、原価率は通常営業35%に対し、現在60~65%で推移している。利益を追求する企画ではなく応援企画なのである。緊急事態宣言が明けてから、生産者、仲卸とすべての業者が、働くことの喜びを享受することが待ち望まれる。