飲食チェーン「KollaBo」とグルメサイト「食べログ」の裁判が二転三転する不思議
「KollaBo」という焼肉・韓国料理レストランを展開する株式会社韓流村とグルメサイト「食べログ」を運営する株式会社カカクコムとの裁判が二転三転している。
ことの発端は、韓流村が「『食べログ』での『KollaBo』の評価点が2019年5月に意図的に下げられたために、『KollaBo』の売上が著しく減少した」ということの訴訟である。これが2022年6月の一審で韓流村が勝訴し、2024年1月の二審でカカクコムが逆転勝訴した。そして、韓流村は最高裁に上告した。
ちなみに、「食べログ」に店の情報が勝手に掲載されたとしても、掲載拒否、つまりは既に「食べログ」に掲載されている店舗情報そのものの削除請求は認められない可能性が高い(ネット誹謗中傷弁護士相談ナビ、2023年4月1日)。誹謗中傷のクチコミについては、削除請求が可能性は十分にある(同上)、という。
「韓国発のグローバルブランド」を目指す
まず、「KollaBo」という店はどのような店か、簡単に紹介をしておく。
「KollaBo」は、任和彬(イム・ファビン)氏が起業した焼肉・韓国料理レストランチェーンで、現在全国に26店舗が存在する。
任氏は起業する前に、世界最大級の資産運用会社のキャピタルグループに所属し、日本およびアジア地区の消費財・小売り・インターネット・通信・ゲームセクターでインベストメント・アナリストを務めていた。そこで任氏は「韓国発のグローバルブランド」を育てたいと、2009年7月に韓流村を立ち上げた。ちなみに、任氏の国籍は日本である。
任氏が金融界から独立して起業することを、お世話になった経営者たちに挨拶に伺ったところ、次々と「その志に協力させてほしい」という申し出をいただいた。そして、立ち上げる飲食店は、韓国の老舗名店の料理を集めた韓国料理レストランで、出店を要請した現地の飲食店経営者から「その志を応援したい」と快諾をいただいた。このような形で店が成り立っていることで「これはまさに日韓コラボレーションだ!」とひらめいたという。そこで、本来のコラボ(collabo)の頭文字の「C」をKoreaの「K」に置き換えて、店名を「KollaBo」とした。
2009年11月にオープンした1号店は、ヤマダ電機の山田昇会長からの招きで、当時池袋駅前に建設中の「ヤマダ電機LABI 日本総本店」7階に出店。その後は、赤坂、銀座と一等地の路面に出店していく。
「韓国の老舗名店のブランドを集める」というコンセプトは年月を経るたびに充実していき、現在はこれら16のブランドでメニューを構成している。韓国の美食である「カンジャンケジャン」(ワタリガニの醤油漬け)や、2016年ごろに始まった「チーズダッカルビ」ブームもこの店から発信されていった。
このユニークな複合レストランの「KollaBo」には、大阪の人気繁盛店「高麗屋」の焼肉も存在することから顧客ターゲットの間口が広い。そこで商業施設関係者から評価されるようになり、2016年に初の商業施設であるアクアシティお台場に出店。それ以来、商業施設レストラン街に待望される店となっている。
一審で韓流村が勝訴、独禁法違反を認める
韓流村代表の任氏は、飲食業の経営者として日ごろ「食べログ」の評価点やクチコミを注目している。「KollaBo」の店の評価点は一様に3.5を超えていた。
「食べログ」のホームぺージでは、「食べログの点数・ランキング」の決め方についてこのように述べている。
「点数は、ユーザーから投稿された主観的な評価・口コミをもとに算出した数値です。言い換えれば『その時点でユーザーからの評価がどのくらい集まっているのか』という見方を示す指標で、お店や料理について絶対的・確定的な優劣を示すものではありません」
「食べログの点数は、ユーザーの各評価を単純平均したものではありません。ユーザーに影響度を設定して、点数の算出方法の一つとしています」
「食べログ」の評価点は3.2がボーダーラインとされ、3.5以上は満足する可能性が高いと言われている(「食べログmatome」より)
それが、2019年5月21日の朝、「食べログ」での「KollaBo」各店の評価点が一様に下がっていた。この動向を任氏が調べていくと、チェーン店とみなされた飲食店にここでの評価点が下がっている傾向が判明した。チェーン店だけの評点を下げる「チェーン店ディスカウント・アルゴリズム(計算方法)」だと考えた。
これによって「KollaBo」の売上は著しく減少したという。この一件が顕れる以前「食べログ」からの売上(予約)は全体の3分の1を占めていたが、この予約が7~9割減となった。これまでの売上の20~30%が消えて、29店舗あったところ、5年以上も続くチェーン店ディスカウントによる売上の下落とコロナ禍も重なって2024年3月までに26店舗を閉店した。
このように「食べログの点数が下げられたことで大きく業績に影響した」として、韓流村は2020年5月にカカクコムを提訴した。
韓流村が作成した資料によると、「食べログ」の2019年3月時点での月間サイト訪問者は1億人を超えている。このような状況にありながら、「KollaBo」の評価点が下がって以来、同チェーンの「食べログ」経由の月間平均来客数は6000人以上が減少したという。
そこで韓流村では、「食べログ」のチェーン店だけの評点を下げるアルゴリズムの変更は、独占禁止法が禁じる「差別的取り扱い」や「優越的地位の乱用」に当たると主張し、カカクコム側に約6億3900万円の賠償責任や、およびアルゴリズム変更の差止めが提起された。
一方、カカクコムは、「食べログ」のアルゴリズムの変更はチェーン店を飲食店市場から締め出すほどの効果はなく、独占禁止法が禁じる「差別的取り扱い」の違反には当たらないと反論。「優越的地位の乱用」についても、カカクコムが韓流村より優位にあるとは言えないと主張した。
2022年6月16日の一審で東京地裁は、チェーン店だけの評点を下げるアルゴリズム変更は「正常な商習慣に照らして不当な不利益を与え独禁法に違反する」と認定し、カカクコムに対して3840万円の賠償を命じた。
二審でカカクコムが逆転勝訴した内容とは
この一審の判決に対して、カカクコムは即日控訴。2024年1月19日に行われた控訴審判決で、高裁は一審判決を取り消して、カカクコムの逆転勝訴となった。
この判決内容をまとめると、このようになる。
「優越的地位を利用した不利益となる取引だが、不当なものとまでは認められない」。チェーン店だけの評点を下げるアルゴリズムの変更については「独禁法違反に当たらず判断するまでもない」。
そこで、一審のカカクコムの敗訴部分を取り消す。韓流村からの請求を棄却する。訴訟費用は一審・二審とも韓流村が負担する、という内容である。
任氏はこのように訴えた。
「カカクコム側は高裁で、一審では一切開示しなかった第3のアルゴリズム(『新ロジック』)が、実は2019年5月に『ユーザーの影響度調整』と『チェーン店ディスカウント』アルゴリズムと同時に実施されたと新たに主張した。チェーン店だけの評点を下げる『チェーン店ディスカウント・アルゴリズム』は『新ロジック』導入による不具合を補正するための調整であると説明した」
「この3つのアルゴリズムの変更がユーザーに対して公正で信頼性の高い情報を提供するためのものであり、3つのアルゴリズムが有機的・一体的にすべての掲載飲食店に平等に適用されているので、特定の店舗を不当に扱う意図がなかったと。そこで独禁法違反でないと判決した」
「しかし、この『新ロジック』はブラックボックスであり、その存在自体も疑わしい。特に、当社が高裁に対して『新ロジック』の存在を確認するための『文書開示命令願い』を提出したが、高裁はそれを退き確認する必要はないとし、『新ロジック』は間違いなく存在すると結論づけて、当社の逆転敗訴の根拠と認定し、食べログが提出した『新ロジック』の概要をそのまま判決文に盛り込んだ。実際の『新ロジック』の存在可否や内容を確認もせずに証拠として採択し、食べログの主張をそのまま受け入れて判決するということはいかがなものか」
任氏は、さらにこのように続けた。
「一審で食べログが認めたように、チェーン店の評点を下げる『チェーン店ディスカウント・アルゴリズム』は、『食べログ』の担当者が、『同一運営主体が同一屋号で2店舗以上を運営するチェーンを対象』としてリストアップして、食べログホームぺージの『飲食チェーン一覧(https://tabelog.com/grouplst)』に掲載した店舗(2024年8月14日16時時点で6837チェーンの15~20万店舗)だけに適用しているもの。食べログ87万掲載店舗と1万5000~2万チェーンの40万~50万店舗から6837チェーンの15万~20万店舗を人為的・恣意的に選び出して評点を下げるという、差別に当たる」
この判決後、任氏はこのように語り、憤りをあらわにした。
「今回の判決で高裁は、『新ロジック』の実在の確認も取らず、『チェーン店ディスカウント・アルゴリズム』が食べログが主張するように、すべての掲載飲食店に平等に適用されているのではなく、食べログが恣意的に選んで『飲食チェーン一覧』に掲載した一部のチェーン店に、差別的に適用されているとの、当社が提出した数多くの証拠を、すべて判決文から削除する『判決遺脱』も行った。司法が、巨大プラットフォーマーの特定の掲載店舗だけの評点を下げる独占禁止法の優越的地位の乱用と差別的な扱いを容認した衝撃的な判決である」
そして2月3日、韓流村は最高裁に上告した。しかしながら、8月14日現在、高裁は韓流村の「上告理由書」や他の裁判資料を最高裁に提出しないまま保留しており、進捗がまったく見られない。
コロナ禍を経験してグルメサイトの存在感は増している
グルメサイトの存在感は飲食ユーザーにとっても、飲食店にとっても巨大である。ここに良い口コミが書かれるように店舗スタッフも会社も改善と向上に取り組んでいる。良い口コミが書かれて売上が上がると店長は褒められて、店長のモチベーションは一層高まる。良い口コミが書かれることを目指すことは、飲食業にこのようなプラスのサイクルをもたらすものであろう。
コロナ禍にあって、飲食店のユーザーは行くべき飲食店を慎重に選ぶようになったことは事実。この間に売上を伸ばした飲食店が存在する一方で、売上を落として消えていった飲食店も存在する。この優勝劣敗にはグルメサイトの評価点や口コミも大きく影響したことであろう。