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中国人マダムが銀座を中心に繁盛飲食店を展開 そのダイナミックなアイデアを紐解く

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
孫芳さんプロデュースjの最新店の店頭に立つご自身(筆者撮影)

10月29日、東京・銀座7丁目に『フカヒレ専門店 銀座七芳(なのか)』(以下、銀座七芳)がオープンした。同店を経営する株式会社FANG DREAM COMPANY(本社/東京都中央区、代表/孫芳)は近年「ガチ中華」をはじめさまざまな繁盛飲食店を展開して注目されている。これらを生み出しているのは代表の孫さん(41歳)。このヒットメーカーの「攻める飲食店ビジネス」の全容を紹介しよう。

広東省深圳発のフカヒレスープ定食専門店

まず、『銀座七芳』の概要はこうなっている。

同店のメニューは中国の広東省深圳発のもので、濃厚フカヒレスープとご飯、おかずがセットになった定食である。これが近隣エリアに広がり、中国南部や香港でブームになっている。

定食のメインとなるフカヒレスープは、金華ハムや丸鶏、干し貝柱、豚肉などを8時間煮込んで旨味を凝縮させたもの。これは、フカヒレを蒸すことで、臭みを消すだけではなく、フカヒレにスープの風味を移している。この工程によって濃厚な旨味を保った味わいに仕上がる。

とろとろのフカヒレスープは旨味が凝縮されている(FANG DREAM COMPANY提供)
とろとろのフカヒレスープは旨味が凝縮されている(FANG DREAM COMPANY提供)

フカヒレは薬膳効果や美容効果も期待される食材で、この煮込みをメインとして、ご飯とスープに合う冷菜や炒め物などの小鉢が10品ついている(小鉢はお替わり自由)。このほか、会食や接待などのシーンに合わせて、名物のフカヒレの姿煮込みをはじめとした広東料理のコースを提供。ソムリエが存在して、これらに合うワインをセレクトし、シャンパンや紹興酒などをラインアップしている。

定食の小鉢はこのような内容でお替わりが出来る(筆者撮影)
定食の小鉢はこのような内容でお替わりが出来る(筆者撮影)

定食の料金は、5000円、7000円、9000円の3種類。メインはフカヒレスープとライス、サイドとなる小鉢の一例を紹介すると、長芋のスぺアリブ煮込み、牛筋と大根の煮込み、XO醤ザーサイ炒め、うずら卵醤油煮、胡瓜香味タレ付け、厚揚げ豆腐の醤油煮込み、中華風肉じゃが、しらす煮、貝柱冬瓜煮、等々。これに本日のデザートと、食後の〆の中国茶がセットになっている。

店舗規模は38坪・40席。全席が個室で7部屋となっていて、パーティションを外すことによって最大30人の会食が可能となる。

サラリーマン時代に接待で親しんだ銀座に着眼

FANG DREAM COMPANY代表の孫さんは、中国の河南省で飲食業を営む家庭で育った。2002年2月に留学生として来日し、それ以来日本での生活が大好きになった。

大学卒業後、本社が中国にある日本支社に就職し、通訳・翻訳の仕事に従事した。中国の実家での経験から「いずれは自分も飲食店を営むもの」と考えていて、2013年10月に現在の会社を設立、2014年1月に創業の店である中国料理の「GINZA芳園」をオープンした。

1号店を銀座にした理由は、会社員だった当時に接待で銀座の飲食店を利用する機会が多かったから。そこで「人が集まる町の銀座は素晴らしい」と思うようになった。同店は広東料理で客単価は1万5000円程度と、銀座としては親しみやすい価格の店だ。料理長は、中国人の経営者のコミュニティで知ったホテルの料理長の紹介。この料理長はさまざまな業者とのつながりがあって、幸先よくスタート。テレビをはじめ、さまざまな媒体で紹介されるようになった。

2016年8月、2号店となる「銀座夜市」を同じ銀座にオープン。客単価6000円程度で居酒屋づかいもできる店である。「GINZA芳園」よりもカジュアルで利用パターンも多様なこの店も大層繁盛するようになった。

孫さんはこのようなヒットを続ける中で「日本でこれからはやるカジュアルな中国料理はないか」と考えるようになった。そこで中国本土での食べ歩きを続けた。そして初めて中国南部の潮汕(ちょうさん)エリアに赴き潮汕料理の「鍋」を食べた。「火鍋の次の新しい人気をつかむことができる」と確信した。そこで準備をしていたところ、コロナ禍になってしまった。2020年春のことである。

しかしながら、コロナ禍となり孫さんは出店攻勢をかける。いい立地で家賃が低い物件を紹介されるチャンスに恵まれ、不動産業者の人が「頑張ってください」と背中を押してくれた。

火鍋、飲み放題、ファストフード、ガチ中華へ

孫さんが東京・銀座で飲食店を繁盛させているという評判は中国でも知られるようになって、孫さんに新しいチャンスが次々と巡ってきた。

「火鍋」は中国でも人気を博していて、本店が四川省にある「賢合庄」という店が大きく隆盛、世界7カ国に約1000店舗を構えるようになった。

そしてコロナ禍にあって、孫さんは同チェーンの本部から「日本で『賢合庄』を展開してほしい」とオファーを受けた。同チェーンは中国のタレントなどが共同で起こした火鍋のブランドで店舗の内装や商品構成は若者向けのセンスにあふれている。2021年2月高田馬場にオープン、このエリアは中国人の留学生が多く、狙いどおりに中国人の若者に親しまれる繁盛店となった。

新規出店に際しては、中国人の料理長の伝手で中国人の料理人が集まってくる。このような人員の体制によって中国現地の店のような雰囲気が醸し出されて、ガチ中華をより魅力的にしていった。

そして、この間に新しい業態をつくった。それは「乾杯500酒場」。卓上にレモンサワーとハイボールのタワーを設置して、どちらかを60分間550円(税込)で楽しむことができるというもの。フードのメインは焼鳥だが、鮮魚や牛ステーキもある。この装置のある店は焼肉・ホルモンの店が多いが、「乾杯500酒場」の登場でこのジャンルが多様化してきている。この業態は新橋、神田、船橋に出店した。

さらに「孫二娘」ブランドで麺をメインとしたファストフードの展開に着手、高田馬場と船橋に出店した。

そして、上野広小路の物件所有者から出店の相談をされる。そこで、コロナ前に想定していた「火鍋」トレンドの次にくる鍋料理として、潮汕牛肉しゃぶしゃぶの「孫二娘 潮汕牛肉火鍋」を2022年12月にオープンした。同店は客単価6000円程度で、日本在住の中国人やガチ中華ファンの日本人で連日満席の店となっている。

コロナ禍にあってオープンしたが、日本在住の中国人や日本のガチ中華ファンで連日予約が取りづらいほどの人気(FANG DREAM COMPANY提供)
コロナ禍にあってオープンしたが、日本在住の中国人や日本のガチ中華ファンで連日予約が取りづらいほどの人気(FANG DREAM COMPANY提供)

アイデアの源は「外食は世界の共通言語」

さらに、孫さんの飲食店プロデューサーの才が大きく発揮されたのは、今年2月銀座8丁目にオープンした「海鮮ブッフェダイニング 銀座八芳」である。店舗規模は250坪400席。フードの品目数は150以上。ずばりなんでもそろっている「食べ放題・飲み放題」のレストランである。料金は120分間1万2000円(税込)となっている。

フード150品目以上とはどれほどのものか。まず、これらの一部を書き移すので、その迫力をイメージしてもらいたい。

・「蟹」タラバ蟹、ズワイ蟹、毛蟹、花咲蟹

・「焼肉」サーロイン(焼きすき)、牛タン、牛カルビ、牛ハラミ、牛ロース、豚トロ、豚バラ、豚ホルモン、豚ガツ、マルチョウ、ミノ、ハチノス、ソーセージ、など

・「比内地鶏焼き」比内鶏もも肉、比内鶏むね肉

・「馬肉焼き」馬肩ロース、馬バラ肉、馬ハツ

・「江戸前すし」まぐろ、白身、寒ブリ、サーモン、煮穴子、ボイルエビ、玉子焼き、など

・「手巻きすし」ネギトロ巻き、明太子巻き、トロたく巻き、鉄華巻き、ツナコーンマヨ巻き、など

・「箱すし」鰻、〆鯖バッテラ、ズワイ蟹

・「海鮮浜焼き」殻付き帆立、殻付きカキ、サザエ、蝦夷アワビ、有頭エビ、ハマグリ、イカ身、ゲソ、シシャモ、ムール貝、など

・「豊洲市場直送 お造り」マグロ赤身、マグロとろ、サーモン、寒ブリ、カツオ、赤エビ、真タコ、帆立、甘エビ、金目鯛、など

・「天ぷら」エビ、穴子、キス、イカ、シイタケ、マイタケ、ナス、さつま芋、レンコン、など

・「中国料理」北京ダック、エビのチリソース、エビのマヨネーズ和え、麻婆豆腐、青椒肉絲、黒酢酢豚、小籠包、鶏肉のカシューナッツ、牛肉のオイスター、ちまき、肉焼売、海鮮焼売、春巻き、イカとキクラゲの炒め、など

食べたいものがすべてそろっている食べ放題のレストラン(筆者撮影)
食べたいものがすべてそろっている食べ放題のレストラン(筆者撮影)

このほかにも「揚げ物」「サラダ」「スープ」「デザート」「食事」が、上記と同様のバラエティでラインアップされている。ソフトドリンク、アルコールも同様。とにかく「食べたい、飲みたいと思うもの」はすべて揃っている。お客はインバウンドと思いきや、9割が日本人。予約で毎日350人以上が来店しているという。

孫さんのアイデアは、業態を絞り込むことをしない。ファストフード、カジュアルレストラン、ビュッフェという具合にさまざまである。筆者がこれらの飲食店を体験して感じることは「外食の楽しさ」である。これらの中に居て「外食は世界の共通言語」という言葉がひらめいた。

孫さんの気さくな人柄も人々を引き付ける(筆者撮影)
孫さんの気さくな人柄も人々を引き付ける(筆者撮影)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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