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四川飯店グループが若手人材を主役としたイベント開催を継続 これによって芽生えた企業文化とは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
四川飯店グループ代表の陳建太郎氏。すべてのお客に気さくに対応(筆者撮影)

さる10月19日(土)、「赤坂四川飯店」(東京・平河町)で「未来シェフへの道 特別編~若きサービスマンの1ページ~」が開催された。タイトルに「特別編」とあるのは、これまでこのイベントは同社の若い「シェフ」が主役となって4回開催してきて、5回目となる今回は、初めて「サービスマン」が主役となって開催したことから。40人のお客の前で、若いサービスマンが自分たちでアイデアを巡らせ意見を交わして構成した2時間30分の宴会シーンを体験した。赤坂四川飯店(民権企業株式会社。本社/東京都千代田区、代表取締役社長/陳建太郎)では、どのような狙いで「未来シェフへの道」を開催し、どのような意義を感じ取っているのだろうか。

主役に任命された二人が3カ月間入念に取り組む

今回の「若きサービスマンの1ページ」で主役を務めたのは、福本晋さん(赤坂四川飯店アシスタントチーフ:勤務歴10年)と長谷部智也さん(同店サービスリーダー:勤務歴7年)の二人。3カ月前に主役を担うことになったことを幹部社員から告げられた。以来、この日の宴会プロデュースについて、二人でアイデアを出し合い、また幹部社員からのアドバイスを仰ぎながら想定する宴会シーンをまとめ上げた。

会場のお客は40人限定で一般募集(会費8000円:税サ込、乾杯ドリンク付き)で参加した人たち。それぞれが赤坂四川飯店のファンのようで、宴会が満席でスタートしてから和気あいあいとしたムードが漂った。

宴会は、最初に支配人より開催趣旨が告げられ、二人がこれまでアイデアづくりに奮闘してきたことを述べた。

その後、長谷部さんが自ら考案した「乾杯ドリンク」をステージ上で披露。複数のシャンパングラスに柑橘系を絞ったジュースや炭酸を組み合わせてつくっていった。

今回の主役の一人、長谷部智也さんは、自ら考案した乾杯ドリンクをステージ上で披露(筆者撮影)
今回の主役の一人、長谷部智也さんは、自ら考案した乾杯ドリンクをステージ上で披露(筆者撮影)

すべてのお客にいきわたり、いざ乾杯。すっきりとした味わいで、これから提供される料理に期待が募っていった。

この宴会のメニューは以下の通り。

・季節のチャイニーズオードブル

・中華風茶碗蒸し フカヒレたっぷりソース

・豚ヒレ肉の甘酢唐辛子炒め

・海老のチリソース

・季節魚の中華醤油蒸し

・陳麻婆豆腐とご飯

・フルーツ入りアンニンドーフ

赤坂四川飯店が得意とするスタンダードメニューが集められたようで、料理が提供されるときに、これらの料理の由来や調理方法を二人が説明をしていく。

「お客様との距離が近い」伝統を身に着ける

二人は会場のテーブルを回り、お客と会話し、さまざまな質問に応えながら、お客とのコミュニケーションを図っていった。

筆者のテーブルにやってきた長谷部さんに、「赤坂四川飯店の接客サービスの“らしさ”とはどのようなものか」と尋ねた。長谷部さんはこのように語った。

「それは、お客様との距離感が近いということですね。当店では卓上に料理が大皿で提供されるとサービススタッフがそれを取り分けます。このときに料理の由来や調理方法を説明していき、お客様に気づきや楽しさをご提供します」

確かに、サービススタッフが大皿から小皿に料理を取り分けているシーンは、お客にとっての料理に対する期待が高まっていく。このときのサービススタッフの所作やトークの絶妙な内容は、いざ食べたときの感動を大いに高めてくれることだろう。

実際の取り分けのときに、その勘所はベテランのサービススタッフが行ったが、特に「季節魚の中華醤油蒸し」の取り分けでは、大きな鯛の一匹から小骨が混じらないように慎重にかつ手際よく小皿に取り分けていく様子は見事であった。この間、無言にならず、お客の興味を引き出す話術は見事であった。

メインディシュは「四川飯店」を象徴する料理「陳麻婆豆腐」である。これをテーブルに提供する前に、ステージ上で赤坂四川飯店料理長の田中良司さんが、陳麻婆豆腐を調理するためのさまざまな調味料や食材の説明を行って、調理の様子を披露した。

メインディッシュ「陳麻婆豆腐」を創るための材料(筆者撮影)
メインディッシュ「陳麻婆豆腐」を創るための材料(筆者撮影)

ここでのMCは福本さんが担当した。福本さんの語りはよどみなく、田中さんとの掛け合いには「ファミリー」を感じた。「会社全体の仲がいいんだろうな」と思った。

もう一人の主役、福本晋さんは「陳麻婆豆腐」の調理の仕方を赤坂四川飯店料理長の田中良治さんとの掛け合いで解説した(筆者撮影)
もう一人の主役、福本晋さんは「陳麻婆豆腐」の調理の仕方を赤坂四川飯店料理長の田中良治さんとの掛け合いで解説した(筆者撮影)

各テーブルでは陳麻婆豆腐が大皿から茶碗に取り分けられ、またご飯を装った茶碗も添えられた。サービススタッフは盛んに「オンザライスで召し上がってください」と勧めてくれた。

四川飯店グループの定例イベントとして定着

宴会も終盤になり、代表の陳さんが登場。来場のお客にそれぞれ声を掛けていく。お客は、おなじみの人が多いようだ。

ちなみに「未来シェフへの道」のこれまでの開催はこのようになっている。

・第1回:2023年11月23日(木)、赤坂四川飯店(若手料理人9人が3人1チームを組む)

・第2回:2024年1月25日(木)、スーツァンレストラン陳 渋谷(若手料理人3人)

・第3回:2024年3月20日(祝・水)、赤坂四川飯店(若手料理人3人)

・第4回:2024年9月7日(土)、赤坂四川飯店(若手料理人4人)

いずれも勤務歴5年から10年の若手が主役となって開催されている。

このような流れを見ていると、同社グループの定例イベントとして定着してきているように感じられる。それは従業員にとっても、ファンにとっても同様である。

コミュニケーションが活発になり新しい交流が始まる

筆者は陳さんに、今回で5回目となる「未来シェフへの道」を開催することになった背景について尋ねた。陳さんはこのように語った。

「それはずばり、職場におけるコミュニケーションづくりです。同じ店の中では、先輩後輩の年齢層が違うし、同世代となると店舗が違ってなかなかコミュニケーションができないのですね。ですが、このイベントがきっかけとなり、同じ店の中とか、店が違う同じ世代のコミュニケーションが生まれて、店舗間に交流が生まれ、情報交換とか、新しい場面での交流が始まったり。良いつながりが生まれたなと感じています」

「主役になった人たちだけではなく、彼らを職場で支えている人たちも、主体性を感じるようになり『僕らはファミリーだよね』という意識が芽生えてきています。イベントで行うことは普段の営業と同じことですが、これに向けて段取りを組んで、やり切ると、よかったことや反省を含めて、ここに絆が生れています」

今回のイベントの閉会のあいさつで、陳さんは二人に対して開口このように語った。「いい顔をしているね、いい体験ができたね」と。

「四川飯店はここが本店で、このほかに国内に12店舗あります。ここで働く仲間は200人、料理人、サービススタッフ、バックオフィスと仲間がたくさんいます。四川飯店とは、料理の味だけではなくて、空間の全体でお客様に来ていただいています。常に笑顔のお客様で、わいわいがやがやしているようなレストランであり続けたい。これは僕一人ではできません。仲間と一緒につくっていきたい」

イベントには赤坂四川飯店のファンが参加して、終始和やかに進行した(筆者撮影)
イベントには赤坂四川飯店のファンが参加して、終始和やかに進行した(筆者撮影)

イベントがお開きになって、同店の料理人、サービススタッフ、バックオフィスのたくさんの人たちがお客をお見送りした。このときのみなさんの、少し高揚しながら笑顔でお礼の言葉を述べているシーンに遭遇して、職場における人づくり、顧客づくりの新しいあるべき姿を感じた。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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