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家から出て介護サービスに通う「要支援」の高齢者は、なぜ「要介護」になりにくいのか #介護 #フレイル

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 高齢化社会が進行する日本だが、いつまでも健康で長生きしたいと願うのは人情というものだろう。だが、年を取れば誰しも心身ともになんらかの問題が出てくる。この記事では、受ける高齢者支援サービスの内容によって、問題の出方に違いが出るという研究を紹介したい。

フレイルとは

 多くの人の場合、40歳から健康保険料に合わせて介護保険料を支払っているはずだ。そして65歳以上の人(第一号保険者。40歳から64歳の人は第二号保険者)は、要支援や要介護になった時に条件に応じて介護保険サービスを受けられるようになる。

 要支援(要支援1、2)と要介護(要介護1〜5)と認定される状態の違いは、要支援が基本的に一人で生活できるが部分的な介助が必要な状態で、要介護は運動機能の低下のみならず思考力や理解力の低下もある状態だ。また、要支援は介護予防サービスを、要介護は介護サービスを、それぞれ利用できる。

 介護予防サービスを受ける要支援に認定された高齢者に対し、まさに問題の発生を予防できるようにすれば要介護にならなかったり、なるのを遅らせたりすることが期待できるかもしれない。日本ではまだ要支援から要介護になることを予防するアプローチは不完全とされているが、政府は障害予防のために高齢者の社会活動を奨励し、地域のコミュニティ活動を進めてきた(※1)。

 なぜならば、高齢者が社会的な人間関係を構築したり社会参加したりすることは孤立化を防ぎ、長期的にみると障害の発生や死亡を減らすことにつながるからだ。こうしたアプローチによって、要支援状態から要介護状態へいたる高齢者を減らしたり、その時期を遅らせたりすることができると考えられている(※2)。

 厚生労働省が定める要介護状態の定義は、身体または精神の障害があるため、入浴、排せつ、食事などの日常生活における基本的な動作の全部または一部について、厚生労働省令で定める期間(原則6カ月)にわたり継続して常時介護を要すると見込まれる状態のことだ。また、要介護になる要因として、フレイル(加齢によって心身が衰えた状態)、低栄養、認知機能低下、既往症などがある。

 このフレイルというのは、日本老年学会が2014年に英語の「Frailty」から提唱した言葉だ。健常な状態と介護が必要な状態の中間で、心身が虚弱になった状態のことを指す。

 フレイルの状態になっても、本人の努力や適切なアプローチによって健康な状態に戻ることもあれば、自分で日常の生活ができないような要介護の状態になってしまうこともある。つまり、フレイルの状態は、けっしてネガティブなものではなく、健康維持や心身状態の改善へ向かうポジティブな意味を持っているが、もちろんフレイルにならないに超したことはない。

通所系サービスのほうがフレイルになりにくい

 今回、大阪公立大学などの研究グループが、要支援の高齢者が通所系の介護予防サービスを受けた場合、フレイルの発生リスクが40%も低くなったという研究結果を発表した(※3)。サービスの内容によって、高齢者にフレイルなどの問題が起きることを予防できるかもしれないという結果といえる。

 前述したように、介護保険サービスを受ける高齢者は要支援と要介護に分けられるが、要支援の高齢者が一般的に利用するサービスには通所系サービス(通所介護、通所リハビリテーション)や訪問介護サービスなどの介護予防サービスがある。通所系サービスは、高齢者が自分で、もしくは送迎されて自宅以外の場所へ出向いて他の高齢者と一緒に受ける。一方、訪問介護サービスは、高齢者の個人宅へサービス提供責任者や訪問介護員(ホームヘルパー)が訪問する。

 同研究グループは、要支援に認定された高齢者が、通所系サービスと訪問介護サービスを利用した場合、その後にフレイルの発生が抑えられたかどうかを調べた。調査は、大阪府下の三自治体(和泉市、泉大津市、岬町)で、2012年9月から2013年3月の間に要支援(1、2)に新規で認定された高齢者のうち、フレイルではなく、またはフレイルの前段階でなかった655名(年齢の中央値79歳、女性66.6%)を対象にし、5年間のフレイルの発生をみた。

 調査の結果、5年間のフレイルの発生率は33.9%(222名)で、調査参加者全体を統計的に調べてみると、通所系サービスを利用した高齢者は、利用しなかった高齢者に比べてフレイルを発生するリスクが40%減っていた。一方、訪問介護サービスの利用がフレイルの発生を遅らせるかどうかについては、統計的な有意差が出なかったという。

 これらの調査結果から同研究グループは、適切なサービスの利用やケアによって高齢者のフレイルのリスクを軽減し、日常生活の自立を維持できる可能性があり、要介護認定を受けた後でも、家に閉じこもらず積極的に外に出向くことで介護度の重度化を予防できる可能性があるのではないかという。

フレイル予防に必要なこと

 今回の研究結果について、同研究グループの河野あゆみ教授(大阪公立大学看護学研究科地域包括ケア科学分野)に話をうかがった。

──通所系サービスは施設によって多様なサービス内容があると思いますが、その中でフレイルを予防するために最も効果的なサービス内容はどのようなものと推測されますか。

河野「今回の研究では、レセプト(介護報酬と診療報酬)解析という研究の特性上、通所系サービスの内容までは把握できていないため、推測の域は超えませんが、アクティビティ、交流やリハビリテーションなど、身体や心の動きに刺激を与える内容がサービスに含まれていることがフレイル予防に効果があると思います」

──大阪での5年間のコホート調査ということですが、大阪という土地柄が影響している可能性はありますか。他の都道府県でも同様の結果になると推測されるのでしょうか。

河野「県民性や地域性による比較については、一地域に限定した調査であるため、本研究では残念ながら言及できません。しかし、通所系サービスなど介護保険サービスについては、市町村(保険者)が行う3年ごとの施策の計画の中で、高齢化率や他の社会資源の整備状況をはじめとする様々な地域特性を踏まえて住民が公平にケアを受けられるように整備されることとなっていますので、今の段階では都道府県によって甚だしい格差はなく、他の地域でも本結果と概ね同様の結果が得られると思います」

──参加した男女比で女性が2/3(66.6%)ということですが、性差による影響は何か考えられますか。

河野「一般的に女性は男性に比べて、健康寿命が長い、フレイルな期間が長いため、本研究のように要介護等認定を受けた高齢者を調査対象とした場合には、研究参加者は女性が多くなる傾向があります。また、以前より指摘されていることですが、通所系サービスには男性よりも女性の方が気軽に参加される傾向があるのは確かです。今の高齢世代の女性は、子育てや趣味をとおして地域社会になじみやすい生活形態をとってこられた方が多く、地域ベースのサービスに出かけることにはハードルが低いかもしれません」

──行政に対しては、本研究ではどのような役割を期待されますか。

河野「行政には、歩行が不自由でも出かけやすい交通アクセスや物理的な環境の整備や高齢者がでかける場の情報提供などを期待します。2017年度から予防給付による通所介護や訪問介護は、介護予防・日常生活支援総合事業に移行しており、各市町村でサービス体系などを選べるようになりました。本調査のデータは2017年度以前に収集したものですが、本結果を参考に、要支援高齢者が外に出向くための意識づくりや機会の提供などを含めたケアシステムを地域ぐるみで作っていけると良いと思います」

──高齢者や家族に対しては、本研究結果からどのようなことを期待しますか。

河野「要支援の認定を受けた後でも、少しの手助けがあれば、外出をしたり、集まりに参加したりして、その人らしく生き生きと生活することができ、そのことがフレイル予防につながります。また、ちょっとした声かけや段差のない生活環境があることで要支援高齢者も外に出向くことができますので、そのあたりの配慮が家族には求められるでしょうし、高齢者自身が日々の中で目標をもって暮らすことがとても大切です」

 誰もが等しく年を取る。年を取れば、心身ともに虚弱なフレイルになるリスクもある。だが、フレイル状態になっても、介護サービスを利用して積極的に外出し、コミュニティの仲間と触れ合うなどすることで、自立した生活を送り続けることができる可能性があるということだ。

※1:Minoru Yamada, Hidenori Arai, "Long-Term Care System in Japan" Annals of Geriatric Medicine and Research, Vol.24(3), 174-180, September, 2020

※2:斉藤雅茂ら、「健康指標との関連からみた高齢者の社会的孤立基準の検討─10年間のAGESコホートより」、日本公衆衛生雑誌、第62巻、第3号、2015

※3:Noriko Yoshiyuki, et al., "Do Home- and Comunity-Based Services Delay Frailty Onset in Older Adults With Low Care Needs?" the Journal of Post-Acute and Long-Term Care Medicine, doi.org/10.1016/j.jamda.2023.05.036, 10, July, 2023

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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