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【体操】2013年の顔 白井健三が「シライ」に無関心な理由

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
12月14、15日の豊田国際体操競技大会の白井健三(撮影:矢内由美子)

最年少17歳で金メダル&3つの新技「シライ」と命名

2013年のスポーツ界を席巻した。

体操界に現れたニューヒーロー・白井健三(神奈川・岸根高2年)は、9月30日から10月6日までベルギー・アントワープで行われた体操世界選手権の種目別ゆかで、日本体操史上最年少の17歳で金メダルを獲得した。

それだけではない。いや、それ以上のインパクトだったかもしれない。

ゆかで2つ、跳馬で1つ成功させた世界初の新技に、

「シライ(ゆかの後方伸身宙返り4回ひねり=F難度)」

「シライ2(ゆかの前方伸身宙返り3回ひねり=F難度)」

「シライ/キムヒフン(跳馬の伸身ユルチェンコ3回ひねり=D得点6.0)」

と、自らの名が3つもついたのだ。(跳馬の技は韓国のキムヒフンも成功させたが、白井の方が演技の出来映えを示すE得点が高かったため、連名の最初になっている)

「シライ2」が認定された後の10月26日に新聞各紙に掲載された通信社の配信記事によると、国際体操連盟(FIG)のスティーブ・ブッチャー男子技術委員長は「男子の出場最年少選手が世界選手権で優勝し、3つも新技に成功したことは、この数十年で見たことのない偉業。彼がアントワープで成し遂げた業績は際立っている。彼の未来は間違いなく明るい」とコメントしている。

FIG審判員として世界選手権に赴いていた日本体操協会の竹内輝明氏は「ポディウム練習(フロアの上に台を置き、実際の試合と同じ状態にしての練習)で白井が練習を始めると、ゆかの四方ぜんぶを審判員と各国の選手たちがズラッと取り囲んで見始めた。映像を撮影する選手もいた。あんな光景は見たことがない」と驚きを隠さなかった。他国の選手達は貴重なポディウム練習の時間を削ってまで、白井のひねりを見て研究しようとしていた。

衝撃を受けていたのは世界のメディアも同じだ。体操人気の高い米国の報道陣は「日本にはなぜ次々と良い選手が誕生するのか?」と17歳の新星に興味津々。日本の最大のライバルである中国のメディアは、「内村航平に続く若い選手も出てきた日本は、今回とても強かった。それに引き替え、中国は不振だった。中国体操界は将来を心配しないといけない」と手厳しくレポートしていた。

体操ひと筋「100万円使えるような趣味はありません…」

豊田国際競技大会で展示されたメダル(撮影:矢内由美子)
豊田国際競技大会で展示されたメダル(撮影:矢内由美子)

“白井ブーム”は帰国してからも続いた。明るくまじめで物怖じせず、サービス精神旺盛な性格は誰からも親しまれ、“ひねり王子”は引っ張りだこ。プロ野球日本シリーズでは始球式に登場し、サウスポーから繰り出した投球はストライクとはいかなかったが、登場する際に披露したバック宙には場内から拍手喝采が起こった。

先日、愛知県豊田市で行われた豊田国際体操競技会では、展示された世界選手権のメダルを見ようとファンが列をなし、「白井効果だね」という声も聞かれた。

世界選手権の前後で、周囲の様相は大きく変わっている。だが、白井自身に浮かれる様子はない。

「学校へ行って、体操して、という生活リズムは今までと変わらないので、やるべきことをしっかりやりたいと思います」と地に足が付いている。来年の目標を聞かれると「高校総体と全日本ジュニアの個人総合で優勝することです」。体操以外の目標はあるかと聞かれても、「普通に高校を卒業することだけです」。豊田国際で主催の中日新聞社から中日体育賞と副賞の100万円を授与され、賞金の使い道を聞かれると、「使える趣味を見つけたいです。100万円使える趣味はないです…」と苦笑いするばかりだった。

「シライ」にはまったく無関心

さらに白井が凄いのは、周囲の変化に動じないのはもちろん、体操競技への取り組みにもまったくブレのないことだ。とりわけ、技に名前がついたことについての無頓着ぶりには、感心させられるほどである。

技の名について質問されれば「あまり興味ないです…」と申し訳なさそうに肩をすぼめ、「自分しかやっていないかもしれないですけど、その名前のためにやった訳ではないですし、名前がついたというのはおまけみたいなもの」と言う。この技に名前をつけたいというような目標はあるかと聞かれると、「ないです、全然ないです」と勢いよく否定する場面もあった。

「シライ」に無関心なのはなぜか。

それは、「新技は演技構成に取り入れていかないと世界で勝てないと思ったから入れた。自分のできる技の一番難度の高い難度で組もうとしたら勝手に入ってくるものだから」なのだ。

現役選手や元選手に技の命名について聞いてみると、「自分の名前がついたのはうれしかった」「技に自分の名前を残したかった」という人はもちろんいるが、「あまり気にしなかった」「技の名前より金メダルの方が断然うれしい」と素っ気ない人も少なくない。

白井の場合は明らかに後者。世界の頂点に立つため、あるいは立ち続けるためのアプローチ策として、人より難しい技をこなしていこうとすると、自然と技に名前がつくようになるのである。

2014年の世界選手権(中国・南寧)では、今回はなかった団体戦も行われる。体操ニッポンの力となるべく、「ゆかと跳馬以外の4種目もしっかり練習していきたい」と話す白井。本人はいくら無関心でも、「やったら自然と名前がついていた」という技がこれからも出てくるのは間違いないだろう。

2016年のリオデジャネイロ五輪、2020年の東京五輪まで、もっともっと凄い選手になっていくための時間はたっぷりある。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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