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聴覚過敏のスポーツファンも会場で観戦を楽しめますか?「段階的に観客増」の試合に招待できませんか?

谷口輝世子スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

日本では、プロ野球やJリーグの開幕日が決まった。米国でも米プロバスケットボールNBAが7月31日に再開を目指していると報じられている。

NBAでは再開を正式に発表していないので、無観客かどうかは発表されていないが、日本のプロ野球やJリーグは当面、無観客試合になることが決まっている。

感染拡大を防ぐためにお客さんを迎えることができないけれど、何とかファンに楽しんでもらおうと、各組織やチームが創意工夫を凝らしているはずだ。

サッカーのJ1では、7月10日以降に段階的に観客を入れていく方針だという。そのほかのスポーツでも、段階的に少しずつお客さんを迎えることを目指しているだろうが、大勢のお客さんに来てもらうことは、しばらくはできない。

大勢の観客を集められない試合に、少しずつしかお客さんを迎えられない試合に、大きな音に苦しむ聴覚過敏のある人や、感覚過敏のある人を、優先的に招待してはどうだろうか。

スポーツ観戦は大観衆の一部となって、大きな声で応援したり、時には鳴り物のリズムで盛り上がったりするのが醍醐味だ。しかし、スポーツは好きでも、大きな音が苦痛であったり、人混みに大きなストレスを感じたりするために、生での観戦をあきらめている人たちもいる。

米プロスポーツでは、2015年ごろから、聴覚過敏、感覚過敏のある人にもスポーツ観戦を楽しんでもらおうと、感覚過敏のある人にフレンドリーなスペースを設けるようになってきた。

現在では、NBAの半数以上のアリーナに、感覚過敏のある人の観戦スペースがある。メジャーリーグ、NFL、NHLでも、このようなスペースを持っている施設は増えてきた。自閉症について知るための啓蒙デーに、感覚過敏についても知ってもらえるように、特別に作ったのがきっかけだが、次第に常設する会場が増えている。

例えばNBAのクリーブランド・キャバリアーズでは、感覚過敏のある子どものために、アリーナ内に部屋を作り、会場の大きな音から落ち着きを取り戻す助けになる遊具や、座ったり、抱えたりできるビーンバッグチェア、水の流れを見せるオブジェ、リラックスできるビデオや音楽、ヘッドフォン、イヤーマフなどを揃えている。この部屋のなかで観戦しなければいけない、というわけではない。通常の座席で試合を見ていて、大きな音にストレスを感じたときに駆け込む、また、もとの座席に戻る子ども多い。

キャバリアーズでは聴覚を含む感覚過敏のある人を支援する非営利団体から、どのようなものが必要か、どのようなスペースであればよいかのアドバイスを受けた。このスペースで働く職員は、感覚過敏のあるお客さんをどのようにサポートすればよいかというトレーニングも受けている。

昨年の開幕前に、感覚過敏のあるお客さんのための部屋を作ったMLBのホワイトソックスは、部屋を用意するだけでなく、スタッフがトレーニングを受けることで「センサリー・インクルーシブ」の認定を受けた。

日本でも、昨年7月に「川崎フロンターレ対大分トリニータ戦」で、等々力陸上競技場に発達障害を持つ子どもたちを招待し、安心して観戦できるスペースなどを設けたことが伝えられている。記事はこちら

スポーツは好きだけれども、大きな音と、大観衆のいる会場での観戦が難しい人たちに、観戦を楽しんでもらうことができれば、と願う。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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