ヤングなでしこがU-20W杯準決勝進出!120分間の死闘を制した「逆境を楽しむ強さ」
痺(しび)れるような、紙一重の戦いだった。
コスタリカで行われているU-20女子W杯。U-20日本女子代表(ヤングなでしこ)が準々決勝でフランスを下し、準決勝に進出した。
延長後半アディショナルタイムのラストプレーで同点に追いつき、3-3の激闘の末に、PK戦で勝利ーー。サッカーで劇的な結末は数あれど、国際大会で、ここまでエキサイティングな試合展開になることは稀だろう。
「最後まで諦めない」戦いで逆境を覆したヤングなでしこは観客を熱狂させ、盛大な「ジャパン!」コールがアラフエラの夜空にこだました。
試合の数日前にフランスの練習を見る機会があった。冒頭15分のみの公開練習だったが、ジョギングやストレッチなどはそこそこに終わらせ、ひたすらドリブルの練習をしているのが印象的だった。
ただ、日本はそのドリブルに手を焼いた。フランスの選手たちは体が強く、何人かはアフリカ勢に匹敵するスピードがあり、ボールコントロールに長けた選手もいた。日本が1対1でボールを奪い切れる場面は、数えるほどだった。
「それまでの対戦相手とは、強さや迫力、威圧感が違っていました」。終了間際にPKで起死回生の同点ゴールを決めたMF藤野あおばが言う。右サイドで日本の攻撃をリードしたサイドバックのDF杉澤海星は「スピード感は一番すごかったですし、テクニックもありました」と、実感を込めて言った。
グループステージで対戦したオランダやガーナ、アメリカとも違う、洗練された個の強さがフランスにはあった。ただ、日本もその良さを消す術は持っていた。
「一人では勝てないけど、『11対11で勝てればいい』とみんなで意識していたので。局面で数的優位を作ってしっかりボールを取り切ることを狙っていました」(杉澤)
1人に対して3人、4人と人数をかけて奪い切る。一方で、3つの失点は、その隙を突かれる形で決められた。
前半15分に決められた先制点は、ペナルティエリア外から打たれたシュートが日本の選手に当たって角度が変わり、ゴールに吸い込まれた。
だが、33分に同点に追いつく。DF田畑晴菜のロングパスに抜け出したFW浜野まいかがGKと交錯してPKが与えられた。これをFW山本柚月が冷静に決め、1-1。後半開始早々には、山本のパスを受けた浜野がエリア外から軽やかなミドルを決め、リードを奪った。
しかし、終盤の85分、スピードに乗ったドリブルから中央を突破され、再び同点に。勢いに乗ったフランスは再び攻撃のギアを上げ、日本は瀬戸際まで追い詰められた。ミドルシュートのこぼれ球をフリーで蹴り込まれた後半終了間際のピンチは、最も絶望を感じた場面だった。
ただ、ここでGK大場朱羽がチームを救う。絶体絶命の場面で、体を盾にしてゴールを死守したのだ。
「跳ね返ったボールがフランスのエースの選手の前に行ったので、ここで決められたら終わりだ!と思って体を投げ出しました。味方もその後のカバーに入ってくれていたので、そのおかげで守れたと思います」(大場)
延長戦は、スタミナが武器の日本が有利かと思ったが、予想に反して、フランスの足は最後まで止まらなかった。後半、効果的に交代選手を投入していたこともあるだろう。日本は耐える時間が続き、延長後半5分にミドルシュートを決められた。疲労がピークに達しそうな時間帯の失点は、致命的な一撃だと思われた。
だが、試合はまだ終わっていなかった。終了間際に得たFKで、MF大山愛笑のキックに飛び込んだ藤野が相手GKにファウルを受け、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の判定でPKを獲得。エースナンバーの「10」を背負う藤野がこれをしっかりと決め、3-3で、試合はPK戦に突入。大場が相手の一人目を止めてチームを勇気づけると、日本はキッカーに指名された大山、DF小山史乃観、藤野、FW島田芽依、田畑の5人がしっかりと決めて、劇的な勝利を収めたのだった。
【ヤングなでしこの強みとは】
池田監督は、「90分間で試合を終わらせたかったのが本音でした。そこは私の反省でもあります」と、苦しい展開でゲームプランがうまくはまらなかったことを口にした。ただ、ベンチも含めた総力戦で試合に勝ち切ったことで、チームの一体感は高まったように見える。
「このチームで、最終日まで戦って頂点を目指していく。ここで終わりたくない、という気持ちがあと一歩に繋がったり、最後まで戦う姿勢を貫いてくれたと思います」
日本は強豪揃いのグループステージで、オランダ(◯1-0)、ガーナ(◯2-0)、アメリカ(◯3-1)に3連勝。その3試合は主導権を握って進める試合が多く、総合力では力の差を見せた。フランス戦もボール支配率は6割近かったが、打たれたシュート本数は2倍以上の22本(日本は10本)。この厳しい試合を勝ち切れた要因を考えてみると、3つの点が印象に残った。
まず、失点後の挽回力だ。今大会で初めて先制を許したが、修正は早かった。特に、右サイドで積極的に相手の裏を取った杉澤は、相手の最終ラインの背後をたびたび狙い、脅威を与えていた。
「悪い流れで相手に運ばれていた時間帯に先制点を許してしまったので、声をかけ合って、『もう一回はっきりやっていこう』と。相手のウィークポイントで背後のスペースが空くことはわかっていたので、どんどん前に行こうとチャレンジしました」
また、2得点に絡んだ浜野も、「左センターバックの選手が釣り出されることが多いという情報があったので狙っていた」と話していた。
スカウティングや試合への準備など、池田監督を筆頭に15名体制で望んでいるスタッフの準備と、選手の応用力が噛み合っている。
2つ目は、ペナルティエリア内に進入する回数の多さ、PK成功率の高さだ。
今大会の4試合で、日本は9得点中4得点をPKで決めている。この試合では、1点目と3点目がPKだった。
今大会はVARが適用されるケースも多く、日本はオフサイドラインギリギリの駆け引きや、精度の高いパスによって、相手より一歩先にボールに触ってファウルを受けているケースが多い。つまり、コンビネーションと駆け引き、精度とコンマ数秒の判断スピードで、海外勢の身体能力の壁を突破できているとも言える。
PKは、ここまで全員が決めている。フランス戦のPK戦で、5人(大山、小山、藤野、島田、田畑)全員がGKの手の届かないコースに決めたのは見事だった。
「緊張はしていましたが、選択肢を持ちながら、試合を決めるという気持ちで、思い切って振り抜くことが大切だと思っていました」と藤野。プレッシャーに強い選手が多いのは頼もしい。
3つ目は、逆境を楽しむ胆力だ。フランスの選手たちは試合中、疲れや緊張もあってか、表情がこわばっていることが多いように感じた。ただ、日本は先制された後も、1-1で迎えたハーフタイムも、追いつかれて延長に入った時も、PKになってからも、よく笑顔を見せていた。その一人が大場だ。
「多くの方に応援してもらったおかげで、サッカーを心の底から楽しめたな、という感じがしました」(大場)
その違いが、ラスト10分の逆転劇に繋がっていたように思う。延長後半に逆転された後も、「諦めている選手がいなかった」と、複数の選手が口にしていた。
中でも、人並外れた精神力でチームを統率してきたのが大山だ。ボランチとして全4試合に先発。ただ、初戦のオランダ戦でその脅威を感じた対戦国が警戒し、2試合目以降は「自分のプレーができない部分が多かった」と、苦しんでもいた。その分、味方をシンプルに生かすことを心がけていたが、この試合では中盤のスペースで相手と駆け引きしながら、“自分らしさ”を存分に発揮した。試合後に見せた涙は、その安心感からだったという。
3点目に繋がったフリーキックを蹴り、120分の激闘の後には、PKをゴール左上に突き刺す強心臓ぶりも見せた。プレイヤー・オブ・ザ・マッチ受賞も納得の活躍だった。
「この4試合で、自分の長所が海外の選手にも通用すると分かりましたし、チームとして積み上げてきたことで勝負できると実感しました」
一方、最終ラインで体を張ったキャプテンのDF長江伊吹は、葛藤があったことを明かした。
「後半、同点に追いつかれた時に、PKで敗れた2018年のU-17W杯の準々決勝が頭をよぎりました」
その恐怖心に打ち勝ったのは、チームの前向きな雰囲気や、仲間の言葉だったという。
「3点目を取られた時は完全に相手のムードだったのですが。日本に諦めている選手はいなかったし、左の(小山)史乃観が、『伊吹さん、大丈夫だよ!』と試合中に声をかけてくれて。『この子はすごいな』と思いましたね。史乃観に助けてもらったな、と感じます」
今大会には、2002年の早生まれ世代から2005年生まれまで、4学年が混在している。長江は最年長の20歳、小山は最年少の17歳だ。他にも、大山(17)や浜野(18)、藤野(18)やMF天野紗(18)など、年下の世代が伸び伸びとプレーしているのもチームカラーだ。
「早生まれの先輩たちが年下にも話しかけてくれて、優しい言葉をかけるだけでなく、しっかりボケてくれたりもするんです」
同じく飛び級で今大会に参加しているDF林愛花(18)は、チームの活発なコミュニケーションの秘訣についてそう話していた。
自分たちの良さを発揮しながら、接戦をものにしてきた日本だが、ここからはさらに厳しい戦いが待っている。特に、今大会の優勝候補と言われているスペインのように、組織力の中で身体能力や個の力を活かしてくるチームとの戦いはさらに見応えがあるものになりそうだ。フランス戦から得た教訓について、池田監督はこう語っている。
「押し込まれた時に長いボールに頼ってしまうと跳ね返されることが多いので、そこで勇気を持って、ボールを動かせるポジションを頑張って取ろうと話はしました」
ベスト8の壁を乗り越えた日本は、勝っても負けてもあと2試合、大会を最終日まで戦うことができる。
そして、次の相手はブラジル。これまでのアラフエラではなく、サンホセのナショナルスタジアムが会場になる。コスタリカと地理的に近いブラジルからは、多くの観客が今大会の応援に訪れており、日本にとってはアウェーの空気になる可能性もあるだろう。
だが、このチームには、逆境を楽しむ力がある。サッカーを愛する南米のサポーターたちを唸らせるような試合で、決勝への切符を掴み取ってほしい。
*表記のない写真は筆者撮影
(取材協力:ひかりのくに)