「走れない」「衰えた」メッシに対する批判は正しいのか?
大きな成功というのは、嫉妬を買う。
このミッドウィークに、各地でチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦ファーストレグが行われた。注目されたパリ・サンジェルマン対レアル・マドリーの一戦では、1―0でパリが勝利を収めている。
キリアン・エムバペの決勝ゴールは圧巻だった。一方で、批判を浴びているのが62分にPKを失敗したリオネル・メッシだ。
「こういうメッシを見るのは悲しい」「1対1の場面でアスリート能力の低さを露呈」「パス精度が欠けていた」「このメッシでは心配だ」フランスメディアではメッシがこき下ろされている。
親友のセルヒオ・アグエロは、メッシを擁護する意味合いでフランスメディアでのインタビューをキャンセルした。バルセロナのシャビ・エルナンデス監督は「私の中では変わらず世界一の選手だ」と語っている。現場レベルでは、依然としてメッシへの評価は高い。
■批判の渦
メッシはバロンドールを7度受賞している。8度目の受賞さえ、彼であれば、否定できないだろう。
SNS全盛の時代である。誰もが気軽に呟ける。スマホ一台での批判、あるいは非難や誹謗中傷は、一介のBARで頼むビールより安価だ。
相手が有名であればあるほど、成功者であればあるほど、快楽は増す。一瞬、自分が高みに位置しているという錯覚が生まれるからだ。実際は、誰かを下げたとしても、自分が上がるわけではない。自分の位置は変わらない。そのことに気付いていない愚かな者が、今日もSNSでの非難に懸命になっている。
タチが悪いのは、このような時代で、メディアがそれに「乗っかる」傾向がある点だ。ソーシャルメディア上で話題になっているテーマを取り上げれば、容易にPV数や視聴者数を稼げる。その引力に、抗える人間は多くない。
メッシは今夏、バルセロナからパリ・サンジェルマンに移籍した。サラリーキャップの問題を抱えていたバルセロナが、メッシを残留させるのは難しかった。かくして、彼は34歳で新天地に向かった。
ロジャー・フェデラー、タイガー・ウッズ、マイケル・フェルプス、モハメド・アリ…。多くのアスリートがそうであったように、メッシに対しても早期の引退を望む声がある。10年以上、クリスティアーノ・ロナウドとバロンドールの座を争ってきた。同じ顔に見飽きている人は、一定数、いる。
■創造性とアスリート性
そう、メッシはC・ロナウドと長きにわたり比較されてきた。「創造性」と「アスリート性」の対決は、しばしば終わりのない議論に埋没した。
「そもそも、彼らの舞台は異なる。チェスの棋士と詩人を比べても、仕方がないだろう」
これはスペインの作家であるジョルディ・プンティの言葉だ。
いま、次代を担うスター候補として、エムバペが出てきている。「アスリート性」の強い選手の台頭には、新たな時代の到来の予感を感じる。だがしかし、それはメッシを否定することには繋がらない。
苛烈な批判を浴びたメッシだが、果たしてそれほど悪かったのだろうか。ここは、戦術的な考察をするべきだ。
マドリー戦で、パリは【4−3−3】の布陣を敷いた。
メッシはゼロトップに据えられた。右ウィングにアンヘル・ディ・マリア、左ウィングにエムバペが位置。中盤に下がりながら、両翼を走らせるというのがメッシのメインタスクだった。
メッシは中盤でレジスタ役を担った。当然、ゴール前に顔を出す機会は減る。その中で、3度決定機を演出するパスを出しており、マウリシオ・ポチェッティーノ監督に与えられた役割は果たしていたと言える。
また、試合途中からはダニーロ・ペレイラが右サイドバックに入り、アクラフ・ハキミが前に出てくるという変則的なシステムで戦った。
その中で、メッシのポジションは複雑になった。メッシが下がり、アクラフやエムバペが中央に入ってくる。バイタルエリアを攻略するためのアプローチだった。
(アクラフとエムバペのバイタル侵入)
終盤には、負傷明けのネイマールが投入された。ただ、この時、ポチェッティーノ監督の采配にミスがあったように思う。
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