危険な「ながらスマホ」運転 捜査する警察の「本気度」も問われている
交通事故による死亡事故が減少傾向にある中、ここ数年で増えているのが「ながら運転」による事故です。
2016年には運転中に「ポケモンGO」に興じ、小学生を死亡させる事故が発生しました。その後も、「ポケモンGO」の絡んだ死亡事故だけで、複数件発生しています。
また、スマホゲーム以外に、スマホ漫画を読みながらの死亡事故も起こっています。
●【スマホ漫画で追突死亡事故 真実を明らかにしたのはドラレコだった】
●【妻の命を奪った「ながらスマホ」運転 「前を見ない運転は運転とは言えない!」夫の叫び】
では、スマホで漫画を読みながら高速道路で前車に追突した死亡事故を取り上げました。
このケースでは、加害者がマンガを読んでいる姿がフロントガラスに映り込み、それが偶然自身のドライブレコーダーに映り込んでいたことで「ながら運転」が明らかになっており、今年8月7日に判決が下されます。
数年前までは、オーディオやカーナビの操作、運転しながらの飲食や雑誌閲覧などが脇見運転を誘発することがありましたが、近年、携帯電話やスマホの急速な普及によって、新たなパターンの事故が急増しているのは深刻な事態です。
2018年に発生した「携帯電話使用等に係る交通事故件数」は2790件。5年前と比較して約1.4倍に増えています。死亡事故率は「携帯電話使用なし」の事故と比較して、約2.1倍に増えています。 「ながら運転」がいかに危険な行為であるかが、データに現れているといえるでしょう。
■なぜ母は命を奪われたのか、真実知りたい……
さて、前出の記事を読まれた読者から、早速、多くの反響が寄せられています。ある遺族からいただいたメールです。
「6月末、母を交通事故で亡くしました。最近、スマホを使用した事故の危険性がよく報じられていますが、重大事故が発生したとき、警察はどこまで『ながら運転』を視野に入れた捜査をしているのでしょうか……、不安を感じています」
この事故は、新聞によって次のように報じられていました。
メールをくださった渡辺トミエさんのご長女に、直接お話を伺いました。
「母は交差点を自転車で横切ろうとしていたとき、信号も一時停止の線もない交差点で、左側から走ってきた乗用車に衝突され、約10メートル飛ばされました。頭を強く打ち、ほぼ即死でした」
遺族から送られてきた下の写真は、乗用車側から見た現場交差点です。トミエさんは、この交差点の右側から左側へ横断中だったそうです。
「軽自動車を運転していた女性は、母が亡くなった直後の病院で、私たちに『時速30キロで走っていました』と説明しました。その後、警察には、『タバコの灰皿に気を取られていた』という内容の供述をしているそうです」
トミエさんの家族は「念のためスマホの使用履歴も詳しく調べてほしい」と依頼しました。警察からは「スマホは現場で確認した。事故直前、通話していた履歴はなかった」という返事が返ってきたそうです。
スマホは通話以外に、メール、ライン、フェイスブックなどを利用できます。時間も記録されます。警察は通話履歴だけを調べて「スマホ運転ではない」という判断を下したようですが、もしそれが事実なら、私は死亡事故の捜査としては不十分ではないかと感じました。少なくとも、メールやラインなどをしていた形跡がないか、スマホを預かってでも細かく調べるべきだったのではないでしょうか。
ちなみに「灰皿に気を取られた=脇見運転」の場合、違反点数2点、普通車の反則金は9,000円です。
一方、「携帯電話やスマホを使用=ながら運転」で事故を起こした場合は、違反点数2点、反則金9,000円に加え、「3月以下の懲役または5万円以下の罰金」が科せられます。
■「逃げ得」を許さぬ徹底捜査を
飲酒や薬物使用による事故は、呼気や血中濃度を計測することで、客観的な証拠を押さえることができます。
スマホによる「ながら運転」も事故直後、警察がすみやかにSNSなどの履歴を確認することで、運転時の使用の状況をある程度読み取ることができます。
事故を起こした後、携帯電話を押収すべきという「提言書」を、国に届けている団体もあります。
「交通事故被害者遺族の声を届ける会」は、2017年、『自動車等運転中の携帯電話等無線通話装置 および画像表示装置による交通事件防止への提言』と題した書面を自民党に届けました。
その最後は、次のように結ばれています。
『携帯電話等による悲しい事件を防止するためには、一番は、自動車等運転中に使用できないようにすること。次に、罰則を非常に重くすることにつきます。同時に、飲酒運転の罰則が強化された際に「逃げ得」が問題になったような事態が繰り返されないよう、携帯電話等の押収を可能にするなどの交通捜査・証拠保全における法整備も併せて必要です』
2019年末には「ながら運転」の厳罰化に向けて、法改正が予定されています。
現状の「3月以下の懲役または5万円以下の罰金」から「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」に引き上げられることになっており、「交通反則通告制度」(軽微な交通違反を犯した場合に、反則金を納付すれば刑事訴追されないこと)の対象から除外されます。つまり、かなりの厳罰になるということです。
それだけに、事故時に「ながら運転」をしていたか否かは、この先、事故の原因や過失割合を見極めるうえで、ますます重要になってくるでしょう。
■個々のドライバーの自覚が大切
警察庁は年内にも「ながら運転厳罰化」の実現を目指しており、この夏、パブリックコメントを募集しています。私のもとにもさまざまな意見が寄せられています。
『「ながら運転」の記事を見ました。僕はアマチュア無線をしていて、クルマにも合法な無線機を積んでいます。無線の先輩が、僕のクルマに無線機を取り付けてくれたときに「走行中には絶対に交信しないこと」と言われました。現にしないようにしています』
こうした意識の高いドライバーばかりなら心配はないのですが、残念なことに「ながら運転」の目撃情報は後を絶ちません。
『運転中、かなりの頻度で運転中にスマホを触っているドライバーを目撃します。運転をなめているとしか思えず、憤りを感じます』
私自身もたまに高速バスに乗ったとき、窓から道路を眺めることがあるのですが、ハンドルの上にスマホを置いて画面にタッチしながら運転しているドライバーのいかに多いことか……。本当にぞっとします。
こんな提案をする方もおられます。
『一定の速度を超えたことをGPSが検知したら、スマートフォンのカーナビ機能以外は使えなくなるように制御するなど対策してもらいたい』
とにかくドライバーはハンドルを握ることの重みを自覚し、「ながら運転」の危険性を再認識する必要があるでしょう。
そして、捜査機関には「ながら運転」で事故を起こしたドライバーの「逃げ得」を許さぬためにも、徹底した初動捜査を期待したいと思います。