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PFPにも名を連ねるライト級王者の元カノがパリ五輪で金メダル獲得を目指す

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ジャジャイラ・ゴンサレス(写真:Marca.com)

初戦で元金メダリストに快勝

 パリ五輪ボクシング女子60キロ級(ライト級)米国代表ジャジャイラ・ゴンサレス(米)が27日(日本時間28日)行われた1回戦を突破した。ノース・パリ・アリーナで、ゴンサレス(27歳)はリオデジャネイロ五輪同級金メダリストのエステル・モスリー(フランス)に4-0判定勝ち。プロに転向し11勝1分無敗、その後アマチュアに戻ったモスリーを破り、地元観衆を沈黙させた。

 五輪初出場のゴンサレスだが、米国チームの“エンジン”と呼ばれるように期待は大きい。ロンドン、リオデジャネイロ五輪ミドル級連続金メダリストで昨日、プロで4階級目となる女子世界ヘビー級王座(WBC)に就いたクラレッサ・シールズ(米)からも「ジャジャイラは経験を活かして金メダル獲得の可能性が広がる」とお墨付きをもらっている。同じくシールズは「ジャジャイラと私はチームのメンバーとして世界中を旅した。私にとって妹同然」と語っている。

WBCライト級王者スティーブンソンと交際

 彼女のことを書くのは2回目になる。前回は5年前の2019年。彼女の長兄ジョエト・ゴンサレス(米)がリオデジャネイロ五輪バンタム級銀メダリストからプロ入りし当時12勝7KO無敗だったシャクール・スティーブンソン(米)と空位のWBO世界フェザー級王座を争った。結果はその後スーパーフェザー級、ライト級で3階級制覇に成功し現在WBC世界ライト級王者に君臨するスティーブンソンが完封勝利を飾り、スターへの扉を開いた。

 この時スティーブンソンはジャジャイラと交際しており、それを快く思わないジョエトの反発を招き、“憎悪”が試合景気を煽った。ジョエトとジャジャイラそして次兄で一時強打者ぶりが注目されたジョース・ゴンサレスをボクシングに導いた父ホセも感情をむき出しにし、ゴンサレス・ファミリーvs.スティーブンソンという構図が展開された。

左から父ホセ、ジャジャイラ、ジョエト、末弟ジョンジャイロ、ジョースのゴンサレス一家(写真:Facebook)
左から父ホセ、ジャジャイラ、ジョエト、末弟ジョンジャイロ、ジョースのゴンサレス一家(写真:Facebook)

 今から振り返るとジャジャイラはこの時期ボクシングから離れていた。彼女は18年12月から21年12月まで3年のブランクがある。リオデジャネイロ五輪出場をかけた最終トライアルでジャジャイラはその後プロで活躍するミカエラ・メイヤー(米)に1勝2敗と負け越し代表の座を逃す。失意のどん底にあった彼女は男子で代表になったスティーブンソンに心の拠りどころを求めてチャットで感情を発散する。それが恋心に発展して2人は交際を始めたもようだ。

 スティーブンソンも真剣にジャジャイラのことを考えていたようで、一時彼女が陸軍に入隊した時は手紙を送り、「君が恋しい」と気持ちを伝えたという。その後2人はどうなったのか?3年ほど経過した22年、スティーブンソンがオスカル・バルデス(メキシコ)を下してスーパーフェザー級2冠を統一したリングで“セレモニー”が行われた。エンゲージリングを手にしてスティーブンソンがひざまずいた相手はジャジャイラではなかった。彼が求婚したヤング・ライリックというラップ歌手はスティーブンソンの子(娘)を身ごもっていた。

すでに家庭を持ったシャクール・スティーブンソン(写真:astarru.s3.de.io cloud.ovn.net)
すでに家庭を持ったシャクール・スティーブンソン(写真:astarru.s3.de.io cloud.ovn.net)

3年の空白から復帰してパリへ

 スター街道を邁進し前途洋々、PFP(パウンド・フォー・パウンド)ランキングにも名を連ねるスティーブンソンにジャジャイラは翻弄されたという見方もできるかもしれない。だが上記のように21年12月にカムバックしたジャジャイラは、いきなり全米選手権で優勝し実力を証明する。ブランクの間、キックボクシングのインストラクターをして生計を立てていたジャジャイラは同時に故郷カリフォルニアで父の指導の下、自主トレを実行していた。それでも体重が35ポンド(約16キロ)も増えたというから減量は容易ではなかっただろう。

 代表候補として合宿生活で緊張を強いられていたジャジャイラ。それでもブランクから復帰を決意した理由は米国代表チームがスペインで合宿する映像を見て、子供の時から憧れていたスペインへ無性に行きたくなったからだという。パリはフランスでスペインではないが、いつかリングで勇姿を見せたいと念願する。

 彼女に代わりリオデジャネイロ五輪に出場したメイヤーはベスト8で敗れメダル獲得は成らなかった。東京五輪をスルーしたジャジャイラは昨年12月、南米チリで開催されたパンアメリカン大会で準優勝し、パリ五輪への切符を手にした。決勝で敗れた相手がベアトリス・フェレイラ(ブラジル)。明日予定される2回戦の対戦相手である。これは正念場となる。

 ちなみに1回戦で下したモスリー(31歳)はリオデジャネイロ五輪男子スーパーヘビー級で金メダルを獲得したトニー・ヨカ(フランス)と結ばれている。ジャジャイラとスティーブンソンの恋は成就しなかったが、彼女の人生の糧となったことは確かだろう。まずは明日の試合結果に注目したい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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