「シルワン―侵蝕される東エルサレム―」・5〈「罰金」に喘ぐ住民〉
【家屋破壊を避ける道が「罰金」】
「違法に建てられた家の破壊を避ける方法は、罰金を支払うことです」
とエルサレム市長アドバイザー、ベン・アブラハムが説明する。
「エルサレム市もイスラエルの法制度下にあります。市当局は裁判所の決定に介入はできません。その法律では、破壊命令に従わない場合、家を保つ唯一の方法は“罰金”を払うことです。私の部署は東エルサレムの住民から多くの要望を受けます。彼らを支援すること、解決策を提示することが私の仕事です。
しかし市当局には家屋破壊を決定する権限はないので、多くの場合、裁判所で解決策を探ります。私は『罰金は払わなければならないが、経済状況から減額することができる』と住民に伝え、罰金の徴収を40回、50回の分割払いにし、一回の負担を軽くします。残念ながら、イスラエルの法律の範囲内で私たちができることはそれくらいです」
【巨額の「罰金」で破産する家族】
その「罰金」は住民の生活に大きな負担となって重くのしかかっている。
シルワンの住民、ハーレド・アブタイヤはその現状をこう語る。
「エルサレム市の法律では築7年以上の家は破壊できません。そこでエルサレム市当局は新しい法律を作り、『違法』な家に住んでいる住民に『罰金』を科することにしました。『破壊はしないけれど、住むのは禁止。だから罰金を支払え』ということです。『罰金』という新しいやり方で追い出そうとしています」
「シルワンの人口は約7万人です。半分にあたる約3万5千人が、罰金を支払っています。金額は1軒につき、5万から10万シェケル(約300万円)です。徴収は数年に渡り、多くの住民が月1000シェケル(約3万円)を払います。5万シェケルの罰金なら、50ヵ月払いです。さらに弁護士、裁判官、建築士の費用もかかります。
だから多くの人が、稼ぐために複数の仕事をしています。1日4時間しか寝ないで働く人もいます。子どもが何人かいたら、12歳から働いたり、妻も働いたりすることで家計を賄(まかな)います。罰金を払うためにです。しかしそのように働いても、最後には結局、家が壊されるのです。
弟は5万シェケル(約150万円)と、その後4万シェケル(約120万円)払いました。従兄弟は子どもの家と合わせて3軒分の罰金で約20万シェケル(約600万円)、さらに弁護士費用に5万シェケル(約150万円)を払いました」
ハーレド・アブタイヤの従兄弟、モハマド・アブタイヤが改築中の2階のドアを開けた。その先は外だが、階段はない。
「ここに階段がありましたが、エルサレム市当局に撤去させられました」
この2階は「建設許可」がないために、市当局が階段を取り付けることを禁止したというのだ。
「『ここに階段を付けるな。そうしないと、破壊命令を出す』とエルサレム市の担当者に告げられました」とモハマドは言う。
「これは裁判所からの罰金通告書で、日付は2018年7月1日です。金額は12万シェケル(約360万円)です」と、モハマドは書類を私に見せた。
「この家を建てる資金を貯めるのにどれだけ大変だったことか。まだ前の家のローンも残っています。この罰金を払うということは、自分の土地に自分の金で建てた家なのに『借りている』ということになってしまいます。
この家を建てる時の測量士・建築士は従兄弟のハーレドに紹介してもらい、最安で1万4千ドル(約160万円)でした。弁護士の費用は直近の件までで8千ドル(90万円)です。
私は建設労働者で、月収4500シェケル(約13万5千円)しかありません。どうしようもありません。罰金で40万シェケル(約1200万円)の負債を背負うことになりました。どうやって生計を立てているかって?借金です。すぐ近くのスーパーマーケットに6万シェケル(約180万円)の借金があります」
「4日前の裁判所の公判で、18ヵ月間、月600シェケル(約1万8千円)を払うことになりました。固定資産税が27万6972シェケル(約830万円)で、この家への罰金は8330シェケル(約25万円)です。固定資産税がかかることは今日裁判所で知ったんです。2014年から今までの分を払わないといけないそうです」
「40歳ですが、この負債のストレスで、もう白髪が生えてきました。でも、どうしようもありません。解決法はありません。神のみぞ知るです。階段さえ作らせてくれません。何もできないんです」
「息子は小学6年生から働かせています。学校を中退したとき13歳でした。今は17歳です。学校を中退した息子の将来のことは、もちろん心配です。子どもの将来が心配でない親などいませんよ。しかし私たちはイスラエルの占領下に暮らしています。どうしようもありません。イスラエル人は望むようにいい生活を送り、私たちは子どもに食べさせるパン代の5シェケル(約150円)を稼ぐのに必死なのです」
(続く)