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「新・ガザからの報告」(27)24年11月15日ー生活物資を運ぶトラックの奪い合いー

土井敏邦ジャーナリスト
(ゴミ捨て場で食べ物を捜す子どもたち/撮影・ガザ住民)

【テントの中の武器や戦闘員を狙ったイスラエル軍の攻撃】

  ガザ地区の状況はひどい状態が続いています。イスラエル軍は、ガザ北部と南部を分けるネツァリーム回廊を拡大しています。

 暗殺事件が多発しています。ガザ地区北部でも南部でもですが、その大半は南部です。

 ガザ地区の南部でも北部でも、暗殺事件が数多く発生しています。イスラエル空軍は、先週だけでも数十人の暗殺を行いました。ハマスイスラム聖戦に所属する多くの戦闘員が対象です。毎日、多くの空爆を受けています。 無人機、戦闘機、軍用ヘリコプターによる集中的な攻撃です。

 国際メディアで、イスラエル軍が数十人の難民を標的にしていると報じていますが、イスラエル軍は武器を標的にしていると推測されます。なぜなら、ハマスは現在、民間人のテントの間に武器を保管しているからです。場合によっては、それらのテントはハマスやイスラム聖戦の指名手配中の戦闘員を隠れています。ハマスは時折、戦闘員を隠れる場所を変更しています。時には病院や学校の中に隠れていました。最近では、テントの中に戦闘員や武器を隠すようになりました。ですから、テントに対する攻撃が数多く見られるようになりました。

 北部でも、特にガザ市では暗殺が行われています。最近では、学校に対する攻撃はあまり耳にしません。しかし、その代わりにテントが攻撃の標的となっていることがほとんどです。

 北部のジャバリア難民キャンプ、ベイトラヒヤ町、ベイトラヒヤ・プロジェクト(ベイトラヒヤ新地区)、そして最近でベイトハヌーン町(ガザ東北部)に作戦を拡大しています。彼らはベイトハヌーンの一部地域を攻撃し始め、ガザ地区北部での作戦を拡大しています。

 ジャバリア難民キャンプから逃げてきた難民たちの証言によると、イスラエル軍のブルドーザーが家屋を一軒一軒、破壊しています。残っている家屋を一切残さないためです。イスラエル軍は前進するとき、目の前に立ちはだかるものをすべて破壊しています。

【飢えのための脱出とハマスの妨害】

 ジャバリア難民キャンプへの攻撃を開始した後、彼らは徐々にその攻撃をベイトラヒヤ町やベイトラヒヤ・プロジェクトへと拡大し始め、前々日にはベイトハヌーン町の南部への攻撃を開始したということです。

 ジャバリア難民キャンプ内では、数十体、あるいは数百体もの死体が、破壊された家屋の瓦礫や通りの間に投げ捨てられていて、それらの死体は悪臭を放っているということです。しかもその死体の一部は猫や犬に食べられているというのです。キャンプ内の状況は、非常に悲惨です。

 証言した住民は「飢えのためにキャンプから逃げ出した」と私に言いました。彼らによれば、「難民キャンプから脱出した前の3日間、自分たちはスプーン1杯の食べ物も口にできず、水も一滴も口にできなかった。だから自分たちは脱出を決意した」と私に語りました。

 さらに「ハマスが自分たちの脱出を妨害している。ハマスの戦闘員が逃げようとする自分たちを殴り、妨害している」と言うのです。

 「私たちは当初、イスラエルの警告や避難命令には前向きに応じることにしました。しかし、ハマスの戦闘員が私たちを棒やライフルの銃床で殴り、私たちを侮辱しました。そして『イスラエル人の言うことを聞くな!キャンプから逃げ出すな!すぐに家に戻れ!』と言いました」と。

 彼らの証言によれば、最初のイスラエル軍の地上作戦の日に、遺体を通りや家の庭に埋めているとのことです。ジャバリアで殺された人々は数えきれないほどで、ハマス保健省が発表した数に加えて、たくさんの人びとが殺されたのですから、その数を数えることはできないのです。これがジャバリア難民キャンプでの非人道的で悲惨な状況です。

 たぶんイスラエル軍はジャバリア難民キャンプ内で「大きな成果」を収め、ベイトラヒヤ町のような他の地域に攻撃の集中を移し始めたのでしょう。今後、数日のうちに、ベイトハヌーン町に対する大規模な攻撃を目撃することになると思われます。

【生活物資のトラックの奪い合い】

(Q・ガザ中部や南部地域はどうなっているのでしょうか?)

 地上作戦は一切ありません。戦車による侵攻もありません。しかし、先ほど言ったように、空爆は昼夜を問わず、絶え間なく続いています。

 ハマスやイスラム聖戦の戦闘員に対する攻撃が常に続いています。南部のラファ市では、イスラエル軍が依然として占領しており、フィラデルフィー回廊に沿って展開しているイスラエル軍を防衛しています。ラファ市はフィラデルフィー回廊のイスラエル軍の展開と連結しているので、イスラエル軍はラファから撤退することができません。もしイスラエル軍がラファから撤退すれば、フィラデルフィー回廊のイスラエル軍は脆弱な状態に置かれ、大きな危険にさらされることになります。

 ここ数日、赤十字国際委員会はイスラエル軍と調整し、ファ市内へ救急車を何台か送り、ラファ市内から遺体を回収しました。しかしジャバリア難民キャンプではそれができません。国際機関や赤十字社がキャンプ内に入り、死体を回収することが許可されないのです。今まさに戦場です。

(Q・食料供給についてはどうですか?)

 新しい情報があります。アメリカがイスラエルに対して圧力をかけたためか、イスラエル軍はガザ地区の北部と南部に食料を運ぶトラックの何台か搬入を許可しました。もちろん、十分な量ではありませんが、それでも以前よりはましです。

 今では市場で食料品を購入できたり、無料配布の食料品を手に入れることができます。ただ、ガザ市だけです。ジャバリヤ難民キャンプやベイトラハヤ町などには、今ではほとんど人がいません。

 南部でも同じ状況です。イスラエルはガザ地区に搬入されるトラックの台数を増やし、新たな検問所の開設を決定しました。「ケレムシャロム」検問所に加え、デイルバラ町とハンユニス市の間の地域に新たな検問所、「キスフィム」検問所を開設することを決定しました。これで、支援物資などの搬入のために2つの検問所が設けられることになりました。

 しかし、南部では残念ながら、依然として同じ問題が続いています。ほとんどのトラックが妨害されています。トラックが途中で捕獲され、人びとに届いていないのです。それはギャングやハマス、あるいは、商品の価格を独占している商人たちのためです。

 ですから、北部でも南部でも、人びとは依然として法外な価格に苦しめられています。物価は非常に高騰しています。

 一部のギャング集団が、人びとの元に到着するトラックのほとんどを妨害し、妨げているのです。残っているわずかなトラックの物資も、残念ながら、独占状態を作り出し価格をつり上げている腐敗した商人たちによって管理されています。

 先週の月曜日には、重大な事件が起こりました。ハマスとギャングの一部との間で大きな衝突がありました。彼らはトラックを巡って争っていました。ハマスとギャングの両方が、トラックの所有権を主張していたのです。

 ハマスはギャングたちに、「そのトラックには触るな、それは我われのものだ」と言いました。一方、ギャングたちはハマスに、いや、そのトラックは我われのものだと主張したのです。

 それで彼らは、ガザ地区の幹線道路であるサラハディーン通りで、そのトラックを巡って争い、衝突しました。この衝突は先週の月曜日の真夜中に、マガジ難民キャンプの入り口の前で起こりました。8人が死亡し、30人が負傷しました。とても血なまぐさく、激しく残酷な衝突でした。

 一部の情報によると、ハマスの戦闘員がRPG(対戦車砲)を使用したとのことです。それでギャングの所有する車を攻撃しました。とても大きな衝突で、私たちは夜中に眠りから覚めました。人質解放のためのイスラエル軍の突然の作戦だと思いました。しかし、朝になって、ハマスとギャング集団の間でトラックの所有権を巡って大規模な衝突があったことが分かりました。数台のトラックの列でした。1台だけではありません。

 ですから、この事件は非常に重要な事件でした。この戦争が始まって以来、最も激しく、最も残酷な衝突です。一晩で8人が死亡し、30人が負傷した。衝突は銃撃戦だけではありませんでした。

(Q・つまりハマスにはガザの治安を管理する力がないということですか?)

 力がないとは言えません。特にガザ中部ではまだ力を持っています。中部はイスラエルの地上作戦にまだほとんど手つかずの状態で中部のハマスの旅団は大きなダメージを受けていません。空爆によって殺害された戦闘員はいますが。

 つまりデイルバラ町東部、マガジ難民キャンプの東部、ブレイジ難民キャンプの東部、そしてネツァリーム回廊に隣接するヌセイラト・キャンプの北部など一部の地域でイスラエル軍の戦車に若干の攻撃は受けましたが、現在、中部地域に対する大規模な地上侵攻は行っていません。ですから、ハマスは今、中間地域でまだ力を掌握しています。ハマスにとって最後の残された地域です。

(Q・では、ギャングとは誰のことでしょうか?若者たちですか、それとも有力な一族のメンバーでしょうか?

 最も有力なギャング集団はスーフィーと呼ばれているファミリーで、「スーフィー・ギャング」と呼ばれています。このギャング集団は、ある商人によって率いられています。

 スーフィー一族は、タラビーン族というベドウィン族の一派です。このタラビーン族は国境を越えて存在しています。つまり、この部族はラファなどガザ南部とシナイ半島にも存在しています。さらに、イスラエル内のネゲブ地方のベドウィン社会にも存在しています。非常に大きな部族で、各地に分散しています。一部はガザ地区南部に住んでいます。

 この部族はガザ内でとても強力です。この戦争が始まる前、シナイ半島に住む親族がトンネルを通じてガザ内の一族に大量の武器を送っていたからです。このダラヒーン族はシナイ半島で、武器の密輸やガザへの物資の密輸の多くを支配していました。そのため、シナイ半島に住む彼らの親戚は、以前からガザに住む親戚や従兄弟たちに大量の武器を送っていたのです。彼らは大量の武器を保有しているため、「ラファにおけるハマス」のような存在です。スーフィー・ファミリーはそのタラヒーン族の中でも最も有力な一族です。このスーフィー一族がこのギャングを結成しました。

(テントで暮らす子どもたち/撮影・ガザ住民)
(テントで暮らす子どもたち/撮影・ガザ住民)

【衣食住の窮乏が及ぼす絶望感】

(Q・一般住民の生活、食料、水、住居、心理的な状況などはどうですか?)

 

 先日、強風で数百のテントが完全に破壊され、住人の頭上に落ちました。この災害がテント住民たちにどれほど悪影響を及ぼし、テントを失った人びとがどれほど悪影響を受けたか、あなたには想像もつかないでしょう。

 今、私たちは人間らしい生活ができていません。まるで動物、犬のような生活です。とても人間らしい生活ではありません。できるだけ早くこの戦争を止めなければなりません。

 フェイスブックで、「なぜこの戦争を止めないのか!」と書き込んでいる人もいました。彼らはこう訴えています。

「私たちは嵐や強風の中で生活しています。もしハマスやイスラエルがこの戦争をあと数年続けたいのであれば、プラスチック製の粗末なテントではなく、金属製か木製のキャラバンを避難民たちに与えてください」と。

また、人びとは海外にいるハマスの指導者たちにSNSでこう呼びかけています。

「あなたたちだけ豪華なホテルに住んで、私たちはテント暮らしを強いられている。この戦争を続けたいのであれば、私たちへの解決策を見つけなければなりません。私たち、私の子どもたちを嵐や雨から守るために、キャラバンを私たちに用意しなければならない」と。

 SNSを通じて、人びとがどれほど悲嘆し苛立っているか、わかります。人びとはハマスとイスラエルの両方に対して怒り、罵っています。

(Q・食料不足による飢餓状態、水の不足 さらに心理的な状況を非常に心配しています。どういう状態ですか?)

 人々は疲れ果て、絶望し、いらだっています。大人も一般的に死にたい、自殺したいと思っています。

(Q・そういった人々の感情についてもっと詳しく教えてくれませんか?)

 私たちは人間らしい生活ができていません。まるで動物、犬のような生活です。できるだけ早くこの戦争を止めなければなりません。フェイスブックで、「なぜこの戦争を止めないのか!」と書き込んでいる人もいました。

 もちろん絶望です。ご存じのように、戦争は14ヵ月目に突入しました。人びとは非常に疲れ果てています。どれほど疲れ果てているか、あなたには想像もつかないでしょう。

 多くの人々が自殺しています。メディアでは誰もこのことについて話をしていません。メディアでは禁句なのです。多くの人々が自殺しています。

 もう一つの危険な現象です。

 多くの老人たち、70歳、80歳、90歳を超える高齢者たちが祈りを捧げています。彼らは祈りの中で、神に「どうか私の魂を肉体から引き離し、安らぎの地へ導いてくれるように」と懇願しています。彼らは祈りの中で、神にどうか私たちを死なせてください」と懇願しているのです。彼らは高齢者で、子どもや孫の前で自殺することはできません。それは恥ずかしいことです。彼らは飢え死にしそうです。食べ物を食べずに眠っています。薬もありません。トイレに行くにも、水がないので処理できません。

 老人たちは恥ずかしいのです。息子や孫たちに、体をきれいにしたり、シャワーを浴びさせてほしい、トイレの後に体をきれいにしてほしいと頼むのが恥ずかしいのです。

「神様、どうか私たちの魂を、この体から引き離し、どこかへ連れ去ってください。私は疲れ果てて、死にたいのです」とささやいています。

 実際、数日前、老人がささやき、祈っていました。私は耳を澄ませていました。

「どうか神様、私は平和な場所に行きたいのです」「お願いです。私は疲れ果てています。飢え死にしそうです。神様、どうかこの魂を天国へ連れて行ってください」と。

 私はとてもとても辛い気持ちに襲われました。この老人の写真を撮ろうと思いましたが、できませんでした。彼はベッドに横たわって、ささやいていました。

(Q・彼は何歳くらいですか?)

 彼の孫に聞きました。「私の祖父は88歳くらいです」と答えました。彼は「ナクバ」(1948年の大惨事)の前に生まれました。

(Q・子どもたちや女性たちはどうですか?)

 子どもたちはとても疲れ果てています。なぜなら、彼らは何も要求できないからです。食べ物もありません。たとえ食べても、お腹がいっぱいにはなりません。ほんの少ししか食べられないのです。ガザにはお腹がいっぱいに食べられる子どもは一人もいません。ほんの少しの食べ物を口にするだけです。たとえ食料が手に入っても、健康的な食料でもありません。ほとんどが期限切れの缶詰や、古い米などです。良い食料ではありません。

 ガザの住民は今、虫の混入した小麦粉を食べています。なぜなら、それは新鮮なものではなく、古い小麦粉だからです。新鮮で美味しい小麦粉がないので、虫が混入した小麦粉を食べているのです。

 学校へ行けなくなって2年目になります。子供たちは教育を受ける能力があります。また、この現象は子供たちに悪い影響を与えています。

 女性について話すと、誰も倫理的にひどい状況、つまり「不倫」「売春」について話さなければなりません。

 ミルクや薬などの食料を盗むことの他に、もう一つの現状があります。「不倫」「売春」です。多くの女性が、子どもたちに食べ物を与えるため、あるいは子どもたちが着る服を手に入れるために、不倫や違法な性的関係を結んでいるのです。この現象について、多くの事例や証拠を私は知っています。しかし、もちろん、誰もこのことについて話していません。しかし今、社会に広がっている現状です。

 母親が、自分の乳児、幼児の子どもたちの要求を満たす能力がない場合、食べ物を見つけられないとき、毛布やジャケット、寒い季節に子どもの足を覆う靴下を見つけられないとき、それはとてもとても辛い気持ちです。その母親の気持ちを想像することはできません。母親は内側から壊れてしまうでしょう。

 一方、私は、多くの大人たち、親たちが子どもたちを野蛮なやり方で殴っているのを目にします。子どもたちに対する暴力は驚くほどひどいものです。親たちの精神状態がひどい状態にあるため、子どもたちに暴力を振るうのです。

 子どもたちは、それに恐怖を感じています。子どもたちは戦争の空爆や砲撃の恐怖に加えて、別の種類の恐怖にも遭遇し、直面していのです。親たちの暴力です。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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