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「新・ガザの報告」(24)2024年11月2日ー後編・悪化するばかりの食料事情ー

土井敏邦ジャーナリスト
(テント暮らしの少女/撮影・ガザ住民)

【続く食料危機】

(Q・あなたの周辺の近況を教えてください)

 ます、また食料不足について話をしなければなりません。とても深刻な問題です。ガザ地区北部だけでなく、ここ中部、南部でも同じ状況です。食料がありません。今、私の家でも食べ物は足りていません。毎日の食料を探すのはとても心理的に参ってしまいます。

(Q・まず、 あなたが言及した中部や南部での食料事情について教えてください。いつから始まったのか、なぜなのか、詳しく説明してください)

 ガザ地区中部や南部でも、同じ問題、危機に直面しています。

 私の家族の場合、この2週間、2種類の食べ物しか食べていません。レンズ豆のスープと缶詰です。他に選択肢はありません。子供たち は紅茶やジュース、牛乳を欲しがりますが、私は与えることができません。砂糖も食用油もありません。市場には重要な食品のほとんどがないのです。ですから、私たちは缶詰やレンズ豆を少しずつ食べています。

 現在、ガザ地区の人口の多くは、中部と南部に集中しています。北部からはすでに何十万人もの住民が避難しています。

 栄養状態はひどい状況です。私の妻は貧血です。私にとって、これは非常に深刻な問題です。鉄分やマルチビタミンなどの栄養補助食品を買おうとしていますが、妻にはやはり自然食品が必要です。野菜や肉、イワシ、鶏肉などです。残念ながら、これらの食料はすべて、1か月半、40日ほど前から手に入らなくなっています。今現在、私たちはそれらの重要な種類の食料の大半が出回らなくなりました。

(Q・なぜ40日前に始まったのですか?)

 明確な理由は何もありません。しかし、もちろんこれはイスラエルの意図的な作戦です。イスラエルはガザ地区の中部と南部の住民に対して圧力をかけるために意図的な行動に出ています。ガザ住民にハマスに対する圧力をかけさせ、内部対立を起こさせたいのでしょう。

【食料危機の原因】

 私たちはイスラエルを強く非難しています。しかし同時にハマスとガザの商人たちも非難しなければなりません。

 ハマスは援助物資を横取りし、それを売って現金を得ようとします。彼らは現金不足に陥っていますから。彼らは世界中の多くの銀行口座に莫大な数の資金を持っていますが、ガザでは現金不足に陥っています。だからこそ、彼らは援助物資を略奪しようとしているのです。そして、トンネルや地上で戦っているハマス戦闘員にためも給与や他の資金を確保するために、それらの援助物資を非常に高い価格で販売しているのです。

 また、独占的な価格設定をし物資を販売している商人たちにも責任があります。ガザに砂糖のトラックが1台入ってくると、その物資を店の中に隠し、砂糖不足の危機を作り出し、彼らの望む価格でその砂糖を住民に買わせるのです。貿易業者は、さまざまな食品を独占し、それらの食品を最高値で販売しようとしているのです。

 だから、あらゆる地域で私たちは飢饉に苦しんでいます。これは悲劇です。食糧がなく、栄養失調が蔓延しています。特に子どもたちは、十分な量の食糧を得ることができないため、栄養失調に陥っています。

 世界保健機構(WHO)によると、子供たちは一定のカロリー、タンパク質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルを毎日摂取すべきです。残念ながら、私たちの食料は、こうした栄養摂取の世界的基準を満たしていません。そのため、多くの子どもたちが病気にかかっています。すぐに感染症にかかってしまうのです。なぜなら、彼らは抵抗力がないからです。

【ハマスの次の指導者】

(Q・先日、トルコにいるハマスの幹部の1人が日本のテレビ番組に出演しました。彼は、ハマスは短期的な停戦を拒否すると語りました。この停戦交渉はどうなるのでしょうか?)

 ハマスは恒久的な停戦交渉を望んでいます。イスラエルはモサド長官を通じてカタールで、2週間の停戦と、11人から14人のイスラエル人の生存している人質の解放を提案しました。一方、アメリカは、30日間の停戦と10人の人質の解放、さらにパレスチナ人囚人数百人を釈放、ガザ地区にイスラエルが数百トンの食料を搬入するという提案をしました。アメリカは、ガザ地区での飢餓に対する解決策を見つけることも主張したのです。イスラエルに対し、食料を積んだ何千台、何百台ものトラックをガザに送ることを要請しました。

 3つ目で最後の提案は、エジプト大統領シーシが提案したものです。彼は、ごく短い停戦、3日か4日の停戦を提案しました。イスラエルは人質2名を解放し、パレスチナ人囚人を多数釈放すべきだというものです

 つまりイスラエルの提案、アメリカの提案、そしてエジプトの提案という3つの提案があるということです。そのすべてが短期間の停戦です。

 一方、ハマスはそれらのどれも受け入れません。なぜなら、ハマスは恒久的な停戦を求めているからです。

 ハマスは1つの取引だけを求めています。「我われはすべてのイスラエルの人質を解放する。我われは数千人のパレスチナ人捕虜を解放を求める。そして永遠にこの戦争を終わらせなければならない。そしてもちろん、イスラエル軍はガザ地区から撤退しなければならない」と一度きりの取引を主張しているのです。

「イスラエル軍はガザから撤退し、この戦争は永遠に終結しなければなならない」。これがハマスの提案です。そしてもちろん、ハマスはアメリカ、ロシア、EU、世界に対して、ガザの支配権を維持することを保証するよう求めています。

 ですから、ハマスが望む一つの取引という目標と、その他の短期的な提案との間には、今、大きな隔たりがあります。

Q・ヤヒヤ・シンワールが殺されたとき、「多くの人びとは、『すぐに停戦になり、人びとは元の場所に戻ることができる。また支援物資のトラックが来て、食料を含む生活必需品を手にすることができるだろう』と期待した。ハマスのメンバーさえそうだ」とあなたは私に報告したが、それは起こらなかった。住民はとても落胆し、ハマスに対して怒りを募らせているのでないかと推測しますが、どうですか?)

 もちろん、住民はハマスに対してとても強い怒りを持っています。なぜなら、ハマスがこの戦争でガザをで完全に破壊してしまったと考えているからです。指導層に対して、メンバーたちは「あなたたち(指導層)は、なぜ残っているハマスのメンバーたちがイスラエル軍に殺されることを見逃しているのか?なぜ戦争を継続するという自殺行為に走るか?」と言っています。これはハマス内部の人びとの意見です。ハマス内部から、外部の指導部を批判する新たな声が上がっているのです。

 彼らはこの戦争を終わらせたいのです。この戦争が続けば、ハマスのメンバー、支持者などすべての人びとがイスラエルに皆殺しにされてしまうからです。これは論理的な声です。彼らの数は多くありませんが、この声は聞こえるようになってきました。ハマス内部でも、残っているハマスを救わなければならないという妥当な意見が出始めているのです。

(Q・モハマド・デイフ(ガザ軍事組織の最高司令官)、イスマイル・ハニヤ(ハマスの最高幹部)、そしてシンワール(ハニーヤ後の最高幹部)が次々と殺された後、ハマスの次の指導者は誰でしょうか?

 いま現在、ハマスは組織の最高指導者を指名していません。なぜなら、イスラエルがこの指導者を標的として暗殺することを避けたいからです。

 ハマスの指導部には非常に影響力のある人物が何人かいることは確かです。

ハマスの指導部には、ハーレド・マシャール、ハリール・アル=ハヤ、そしてムサ・アブ・マルズークとオサマ・ハムダンがいます。

 トルコのバーセム・ナイーム、カイロのタヒル・アヌヌー、アルジェリアのサミ・アブゾーリといったその他の指導者たちもいます。ただこれらの指導者は意思決定者というよりもスポークスマンです。彼らはメディアと対峙し、演説を行い、インタビューに応じます。

 しかし、主要な4人の指導者は、ハーレド・マシャル、ムーサ・アルマルズーク、ハリール・アルヘイヤ、オサマ・ハムダンの4人です。

(ゴミを漁る少年たち/撮影・ガザ住民)
(ゴミを漁る少年たち/撮影・ガザ住民)

【ゴミ置き場を漁る子どもたち】

(Q・戦争が始まってもう13ヵ月以上も経っています。住民は疲れ果てているにちがいありません。人びとの精神状態についてもっと詳しく教えてください。以前、若者たちの中に自殺者が増えていると報告してくれましたが、彼らの心理状態について教えてください)

 今日は子どもたちに焦点を当てて、重要な話をします。私が個人的に観察したことです。

 私は時々、テント村でテントの間を歩き回って、避難民の写真を撮っています。その中で、子どもたちがゴミの中で探し回っているのを目にしました。私はその少年の1人に「そんなことをすれば、服も身体は汚れる。水もないから、君のお母さんは君をシャワーで洗うこともできないだろう。なぜそんなことをしているのか?」と尋ねました。すると彼は私に言いました。

 「僕はお腹が空いているんです。今日は朝食を食べなかったし、昨日は昼にザータル入りの小さなサンドイッチを1つ食べただけです。だから空き缶の中から食べ物を探しています。僕はスプーン1杯分の食べ物が見つかるかもしれない。食べ残されたビスケットが見つかるかもしれないから」

 これが今の状況を象徴するシーンです。子どもたちは食べ物を見つけるためにゴミ箱を漁っているんです。

 ガザでは、多くの子どもたちは裸足で、靴を持っていません。戦争が始まって以来、今も、彼らが足に履く靴が搬入されていません。だから、彼らは裸足なのです。

 以前、私は衣類の不足についてお話しました。衣類がないのです。たとえ衣服を見つけても、その価格は非常に高いのです。例えば、子ども用のジャケットを買おうとすると、100ドル(1万5千円)くらいします。人びとはそんな高額な金を払う余裕がありません。

 今は雨季の始まりです。雨が降ります。数週間後には冬に入ります。多くの子どもたちは冬服を持っていません。夏服しか着ていないのです。

ほとんどの人が狭いテントに住んでいますが、毛布は持っています。先週、私はテントで暮らす家族を訪問しました。母親と3人の息子がいます。その女性は私にこう言いました。

「私たちには毛布が1枚しかなく、それを3人の息子たちと共有しています」

女性と3人の子供が1枚の毛布を共有しているんです。予備の毛布がないのです。

【貧困と犯罪】

 私は非常に危険な現象を目撃し始めました。父親や母親の中には、心理的プレッシャーにより、異常なほど神経質になり、苛立っている人もいます。そのために子供たちに対して暴力を振るい始めています。子どもたちを殴るのです。多くの子どもたちがとてもひどい方法で殴られているのを私は何度も目撃しました。中には、殴られた子が歯や口、額から血を流しているのを見ました。これは非常に危険な現象です。

 子どもたちはかわいそうに、本当に多くの困難に直面しています。戦争、空爆や戦車による砲撃への恐怖、飢え、衣服の不足、寝るときにも暖が取れない。それに加えて、親からの暴力もあります。

(Q・若者たちの心理状態はどうですか?)

 多くの若者が窃盗犯や泥棒になっています。残念ながら、犯罪が非常に多いです。このことについて報道するテレビも、新聞も、ジャーナリストもいません。毎日、たくさんの犯罪が起きています。特に略奪です。食料を略奪する若者もいます。

(ハマスの警察に殴られた少年/撮影・M)
(ハマスの警察に殴られた少年/撮影・M)

 先日、あなたに少年の写真を送りました。背中を棒で殴られた少年です。この少年はヌセイラート難民キャンプの市場から小さな粉ミルクの袋を盗んで捕らえられた後、ハマスの警察がこの少年を残虐な方法で殴っていました。

 撮影した友人が彼に「なぜそんなことをしたのか?」と尋ねると、少年はこう答えました。

 「僕には幼い妹がいます。その妹にはミルクがなく、おなかが空いて夜通しずっと泣いています。だから市場でミルクを盗もうと思ったんです」

 この少年は11歳です。妹はまだ生後6~7ヵ月です。妹は空腹で一晩中泣いています。少年は妹にミルクを飲ませるために、この粉ミルクを盗んだのです。

 このように子どもや若者が、食べるために盗むケースが非常に多いんです。食べ物やお金を手に入れるために、多くの若者がギャングの一員になったり、窃盗犯として単独で活動したりしています。

 麻薬についてもお話しなければなりません。ガザ地区が完全に封鎖されているにもかかわらず、どうして麻薬が出回っているのか私にはわかりません。

 今、麻薬が路上で売られています。麻薬を買いたいなら、いくつかの地域や通りに行けば、麻薬の売人がいて、買うことができます。どうやってガザに麻薬が持ち込まれているのか、私にはわかりません。とにかく今では麻薬の入手が可能で、その価格は以前よりも安くなっているといわれています。ですから、今では多くの人びとが麻薬を手にしています。その麻薬と犯罪の関係についてはご存知の通りです。薬物中毒者や薬物売買に関わっている若者たちも、犯罪を犯しています。

 一方で、一部の人びとが金や食料と引き換えに性的関係を持っているのを目撃し始めています。数週間前には、強姦未遂事件がありました。若者の一人が女性をレイプしようとしたのです。女性はテントの中で寝ていました。若い男がテントに侵入し、彼女をレイプしようとしたのです。女性が叫び声をあげると、人びとがテントの周りに集まり、最終的に彼女を救い出しました。このようなケースがたくさんあります。

 また、支援物資と引き換えに女性に性的関係を要求するケースもあります。ガザ地区の国際機関や人道支援組織で働く一部の現地職員が、携帯電話で女性に電話をします。「食料品をあげますが、どうですか?」と。「もちろん、欲しいです。とても食料が必要です」と女性は答えます。すると、その職員はその女性にある場所を指定して、そこに食料を受け取りに来るようにと言います。

 女性がその場所に行くと、彼は、「この食料を全部持って行っていいし、現金も渡そう。ただし、俺と寝なければならない」と言うのです。

 一部の女性はそれを受け入れています。他の女性は拒否します。個人的に報告してきた女性を少なからず知っています。彼女たちは私に、食料品やお金を手に入れるために性的関係を求められたと話してくれました。メディアでは決して報道されないでしょう。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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