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「新・ガザからの報告」(25)2024年11月8日―食料の高騰とストライキー

土井敏邦ジャーナリスト
(食料配給を待つ少年/撮影・ガザ住民)

【ガザ地区北部へのイスラエル軍の集中攻撃】

(Q・最近のイスラエル軍の動きはどうですか?)

 ガザ地区北部では、イスラエル軍がジャバリア難民キャンプの内部にどんどん進軍しています。以前私が予測した通りです。コーエン将軍が指揮する第162師団は、非常に強力な部隊です。彼らはジャバリア難民キャンプを瓦礫と廃墟の山に変えつつあります。建物すべてを破壊しています。ですから、数週間、数か月後には、ジャバリアはすべて地図上から消滅するでしょう。

 以前、私はこの部隊が長期的な作戦を実行していると予測しました。彼らはジャバリア難民キャンプのすべての地域で家屋を一軒ずつ破壊しています。以前には、ハンユニスやラファでも同様のことが行なわれました。そして今、ジャバリア難民キャンプで同じことが行なわれているのです。

ジャバリアはこれまで3度攻撃を受けていますが、いずれも短期間での攻撃で、数日間だけ集中的に攻撃が行なわれました。攻撃対象は、ジャバリア東部や北部だったのですが、今回は、キャンプ全体に対する大規模で破壊的な総攻撃です。

 この第162師団に加え、さらに「カーフィル」旅団が追加されました。ですから、ガザ地区北部におけるイスラエル軍の規模は、師団1つと旅団1つです。この「カーフィル」旅団は現在、ベイトラヒヤ町を攻撃しています。昨日、ベイトラヒヤ町の内部で大規模な破壊が行われ、住民数十人が死亡しました。

 昨日イスラエル軍の報道官は、ガザ市西部のいくつかの地区に残っている住民に対して、南のデイルバラ町やハンユニス市へ移動するよう新たな避難命令を出したと発表しました。現在、彼らはガザ市に近づいています。

(ガザ地区の地図/作成・土井敏邦)
(ガザ地区の地図/作成・土井敏邦)

 今、話をしているのは、シャティ難民キャンプなどガザ市の海岸沿いの地区です。ガザ市西部地区の主要な地区です。ですから、今後数日、数週間のうちに、ガザ市の西部地区への侵攻がますます拡大していくでしょう。

 今日、私たちは、これら3つの地区からの大規模な避難の動きを目撃しています。その住民はガザ市の東部の地区に向かっています。シュジャイーヤ地区、タファ地区、ダラジ地区などです。

【ガザ北部の猛攻撃の理由

(Q・ガザ地区北部での「将軍の計画」の実施についてですが、イスラエルは北部の土地を確保してユダヤ人入植地を建設つもりでしょうか?)

 私はイスラエルがガザ地区内に実際に入植地を建設するとは思えません。この計画の一部は、ハマスやガザ地区の人びとに対する心理戦の一環であると思います。ガザ地区北部に新たな入植地を建設するのは現実的でも論理的でありません。だから簡単に言えば、この計画の一部は、ハマスや一般民衆に対する心理戦的な脅しであると私は考えています。

 

 イスラエルが何を達成しようとしているのかと問われれば、ハマスの軍事インフラをすべて破壊し、終結させようとしていると答えます。なぜなら、ガザ市などガザ地区北部に対する最近の攻撃の後、ハマスが何らかの再編成を行っていることが明らかになったからです。

 ハマスは軍事部門の再編成を行い、戦闘員を新たに採用することに成功しました。ですから、イスラエルにとって、ハマスが北部でこのような大規模な再編成を行うのを見逃すことはできません。だからイスラエル軍の最大の目的は、ガザ地区北部におけるハマスの再編成を破壊することです。

 2つ目の目的は、ガザ地区の旅団の司令官を殺すことです。ガザ地区にはハマスの5つの旅団があります。ガザ地区の旅団の司令官とラファ地区の旅団の司令官の2人を除いては、そのすべて、つまりガザ地区の旅団のすべての司令官が殺害され排除されました。さらにラファ旅団のリーダーは、おそらくトンネルの中で殺されたのではないかと考えています。

しかし、ガザ旅団の司令官は今も生きています。彼の名前はゼディン・ハダド、彼はガザのハマス内部で最高指導者の1人です。

 もう1人は、暗殺されたヤヒヤ・シンワールの兄弟であるムハンマド・シンワールです。イスラエルは、これらの人物を排除せずにガザ地区との戦争を終結させることはできないと考えています。なぜなら、この人物はガザ地区におけるハマスの軍事能力を再び構築することができるからです。

 イスラエル軍は徐々に侵攻を拡大しています。彼らはまずジャバリア地区から始めました。そして、ベイトラハヤ地区に侵攻し、今度はベイトラハヤの町を攻撃しています。そして今、ガザ市西部から住民に避難するよう呼びかけています。これがガザ地区北部の現在の状況です。

(Q・南部ではどうですか?)

 南のラファに移ると、イスラエル軍は昨日、2つの巨大なトンネルを破壊しました。トンネルはラファ市の東部にあります。また、イスラエル軍はラファ市内で、ハマスの多くの指名手配の戦闘員を暗殺しました。ですから、今現在でも、ラファでの戦闘も止んでいません。

 イスラエル軍は、フィラデルフィ―回廊内に展開している部隊に対する軍事攻撃を避けるため、回廊の安全地帯を確保しようとしています。ですから、今現在、ラファでの戦闘は、ガザ北部での戦闘よりも小さいですが、それでも、ラファでは日常的に軍事作戦が展開されています。ジャバリア難民キャンプなど北部での戦闘が激しくても、南部のラファでイスラエル軍が戦闘を続けていること、フィラデルフィ―回廊に展開している部隊を守ろうとしていることを忘れてはなりません。

 ガザ中部地区では、状況は落ち着いています。ここ数日、軍事作戦は行われていません。学校やテントにあるハマスやイスラム聖戦の活動家を標的とした空爆がわずかに発生している程度です。

(野菜の露天商/撮影・ガザ住民)
(野菜の露天商/撮影・ガザ住民)

【食料の高騰でストライキ】

(Q・家族や周囲の人びとの生活に困難が生じているとのことでしたが、それはどういうことですか?)

 ええ、ガザ内部のパレスチナ人の間での問題です。ここ数日、ガザ中部地区でストライキが発生しています。住民は市場を閉鎖し、商人に対する不買運動を行っています。 なぜなら、一部の食料品、例えば食用油、小麦粉、砂糖、野菜などは、商人たちが独占しているからです。

 そして、物価は非常に大きな割合で上昇しています。耐え難いほどです。

 今日、トマト1キロが80シェケル(3200円)もします。1キロのトマトは5~6個です。つまり、1個あたり15シェケル(600円)です。10人ほどの大家族がいる場合、この1キロで何ができるでしょうか?2人分の食事にもなりません。

 1リットルの食用油は1本45シェケル(1800円)です。砂糖1キロは60シェケル(2400円)です。ご存じのように、人々は収入もなく、貧しいのです。そういった品物を買うことができません。人びとは残酷な飢えに苦しんでいます。

(Q・ストライキの理由を少し詳しく教えてください)

 商人とハマスがこの食料不足の危機を引き起こしています。たとえわずかな食料を見つけても、その価格は非常に高いのです。

 だから特にデイルバラ町、ハンユニス市、ヌサイラト難民キャンプの人びとは、火曜日と水曜日に市場を閉鎖しました。時には商人と売り手が衝突しました。鉄の棒、銃で彼らと衝突しました。市場は閉鎖されました。

 ここに二重の問題があります。市場を閉鎖するのは構いません。しかし同時に、住民はどのようにして自分たちの家族を養っていけばいいのでしょうか?食料の供給源を遮断しているのですから。これは複雑な問題なのです。

 ある意味では、この不買運動やストライキによって問題の解決を図ろうとしていますが、しかし一方で、子どもたちのために食糧を買おうとしている人びとにとって、状況を非常に複雑なものにしています。

 ストライキは、火曜日と水曜日に実施されました。昨日は全面的ではなく部分的なものでした。デイルバラ町では部分的なストライキでした。一部の人は店を開け、食料を販売していました。

 住民はソーシャルメディアでも市場の必要性を訴え始めていた。「長いストライキにするべきではない。食料は必要だから火曜日と水曜日の2日間のストライキで十分だ」と。

(Q・あなた自身や家族はどうですか?どうやって生き延びているのですか?)

 私たちはオリーブ油に完全に頼っています。オリーブ油に塩を加えて、パンと一緒に食べます。家には小麦粉が少しあります。それで妻がパンを作っています。私がパンを焼きます。もちろんオーブンでパンを焼くためのガスがないので、薪の火を使ってパンを焼いています。

 オリーブ油の他にマカロニもあります。子供たちのためにマカロニをよく料理しています。時々トマトペーストを加えていましたが、昨日は家からトマトペーストがなくなってしまいました。

 今日は朝、水だけでマカロニを茹で、ザータル(中東のふりかけ)を少し加えて、マカロニに風味を付けました。私たちは子どもたちに、おいしくない食べ物を食べさせるしかないのです。

【北部と南部で違う飢饉の理由】

(Q・ガザ地区の中部と南部の状況について教えてください。以前よりも人びとの生活はかなり悪化していると思われますが。ガザ地区南東の入口「ケロムシャローム」検問所から来る食料のトラックの供給状況はどうですか?)

 ガザ地区を2つに分けて考えましょう。

 ご存知のように、ガザ地区は北部とそれから南側、南部があります。今、私たちは2つの飢饉を抱えています。ガザ北部の飢饉と南部の飢饉です。

 北部の飢饉はイスラエルの封鎖によるもので、イスラエルが全面的に責任を負っています。北部へのトラックの通行を許可せず、北部への食料の流入を制限しているためです。イスラエルは人々への物資の流入を一切許可していません。

 ガザ地区南部では、イスラエルは「ケレムシャロム」を通じてトラックの通行を1日あたり一定量許可しています。毎日何十台ものトラックが通過しています。

 ガザには2種類のトラックがやってきます。1つ目は国際支援物資です。UNRWA、世界食糧計画、マーシー・コーポレーション、セーブ・チルドレンなどです。ユニセフなどもそうです。

 2つ目はガザにやってくる商業用のトラックです。つまり商品です。これらの商品は、ヨルダン川西岸やイスラエル国内から、場合によってはヨルダンから輸入されていますが、ほとんどはヨルダン川西岸から輸入されています。輸入品の80%はヨルダン川西岸から、残りの20%がイスラエルとヨルダンからです。

 これは完全に商業活動で、それらのトラックは特定の商人たちのために来ています。商人はその品物を買うために金を払っています。ガザの市場で売るためにです。

 今、問題は、南部での飢饉に対する責任の所在です。それは3つの部分に分けられます。

 1つ目は、ギャング窃盗団がこれらのトラックの一部を襲撃し、略奪していることです。

 2つ目に、独占を行っている商人たちがいます。彼らは膨大な量の商品を店の中に保管していますが、一方で市場には少しずつ商品を流していきます。市場に出す商品の量はごくわずかです。つまり、彼らは膨大な量の商品を店の中に保管している一方で、市場に出す量はごくわずかなのです。私たちのアラビア語では、彼らは商品を「水滴を一滴一滴落としている」と表現しています。つまり、水の一滴のようにわずかずつ市場に回しているのです。しかし商人の店に行ってみると、店の中は商品でいっぱいです。彼らは独占販売を行う商人たち、ギャングたちです。

 3番目はハマスです。ハマスは率直に言って、支援物資のトラックであろうと商業トラックであろうと、両方のトラックを何台か誘拐しています。彼らはトラックを奪って、それを2つの用途に利用しています。

 1つは地下の戦闘員に食料を与えるため、もう1つは彼ら自身の商人を通じて商品を販売するためです。ハマス提携し協力している商人、つまりハマスと相互にビジネスを行っている商人です。これらの商人を通じてこれらの商品を販売することで、彼らは利益を得ているのです。そうやってハマスは給料や費用を支払うために現金を得ているのです。

 はっきり言いますが、私は根拠のないことを言っているのではなく、はっきりとした証拠に基づいて話しているのです。ハマスの武装勢力がトラックを止め、自分たちの地域に誘導していることは誰もが知っています。彼らはトラックを誘拐し、地下の武装勢力を食わせるためにトラックの物資を地下に運び込んだり、ハマスの仲介業者を通じてトラックを売却し、現金を得ているのです。彼らは銀行口座に数十億ドルを持っているが、その数十億は数字、デジタル形式でしかない。現金が手元にはないんです。

 だから、現金を得るために、彼らはそれらのトラック、封印されたトラックを売ろうとしている。なぜなら、先ほども申し上げたように、ハマスは給料を支払うために、現金が緊急に必要だからです。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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