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「新・ガザからの報告」(26)2024年11月8日―後半・ーガザ内のハマス内部から停戦を求める声―

土井敏邦ジャーナリスト
(家族の死/撮影・ガザ住民)

【食べ物を求めて泣く子どもたち】

(Q・近い将来、ガザはどうなると思いますか?以前、あなたは私に、若い世代には2つの選択肢がある、ガザを脱出するか、自殺するかだと言いました。今もそう思いますか?)

 はい、若い世代には他に選択肢はありません。ガザの破壊の光景がどれほど若者たちの気持ちを落ち込ませているか、想像もできないでしょう。

 今、ジャバリア難民キャンプでは、ラファ市やハンユニス市で繰り返された光景をまさに目の当たりにしています。ラファでは、ほとんどの建物が破壊されてしまいました。ハンユニスのほとんどの地区でも同じことが起こっています。多くの地区は完全に破壊され、完全に廃墟と化しています。

 あるのは絶望感です。ガザの再建には数年ではなく、数十年はかかるでしょう。戦争の初期に、周囲の人たちに私はそう言うと、彼らは私を笑いました。信じなかったのです。しかし今、ラファ市やハンユニス市では、1平方キロメートルが完全に破壊されている場所もあります。1平方キロメートルの中に1軒でも立っている家を確認することはできません。

(Q・あなたが言った絶望とフラストレーションについて説明してくれませんか? 中部地域を含む一般市民の心理状況について、もう少し説明してください。

 特に子どもたちは教育を受ける機会がなく、未来もありません。特に若い世代は仕事もなく、夢も将来もありません。このような状況が心理的にどのような影響を与えるのか、説明していただけますか? 幼い子どもたち、若い世代、そしてあなたの両親やあなたのような世代を含む高齢者世代を含めて、説明してくれませんか?)

 残念ながらひどい悲劇です。子供たちは食べ物がありません。時々、家の周りのテントから子どもの叫び声や泣き声が聞こえてきます。夜中、真夜中に子どもたちが泣いているのが聞こえてくるんです。彼らは飢えから、食べ物が欲しいと叫んでいます。そして、時々母親の泣き声も聞こえます。母親もまた、子どもの泣き声を鎮めるための食べ物を見つけられないために泣いています。母親の泣き声がはっきりと聞こえてくるんです。空腹のまま眠っている子どもたちにとって、これは非常にひどい状況です。ほとんどの親は子どもたちに嘘をついています。「これは肉だ、これは鶏肉だ」などと言って、食べ物をだまして与えています。しかしそれは鶏肉でも肉でもありません。賞味期限切れの牛肉の缶詰です。それを油で揚げ、スパイスを加えたものです。

 つまり、親たちは、子供たちを説得するために、肉や魚、おいしい食事を食べさせてあげていると伝えていたのです。

【教育の機会も衣類もない】

 子どもたちは教育を受ける機会を奪われています。教育を受けることができないのです。この1年間、教育の機会を奪われました。そして今、2年目も学校教育も失おうとしています。おそらく3年目、4年目、5年目も逃すことになるでしょう。なぜなら、この戦争が終わった後でも、私たちには学校がないのですから。だから、子供たちが再び教育を受けられるようになるのはいつになるかわかりません。子ども供たちはとてもとてもわいそうです。

 ほとんどの子どもたちは服を持っていません。とくに寒さから身を守るための厚手の服がないのです。ほとんどの子どもたちは薄着のままです。また多くの子どもたちは裸足で、靴もサンダルも持っていません。道路を歩いてみれば、大半の子供たちが靴を履かずに歩いていることがわかるでしょう。

(破壊の跡で茫然とする住民/撮影・ガザ住民)
(破壊の跡で茫然とする住民/撮影・ガザ住民)

【自殺かガザ脱出】

 若者について言えば、若者たちは毎日、黙って自殺しています。国際メディアの「アルジャジーラ」は、イスラエルの戦車を攻撃している若者たち、イスラエル兵に抵抗し殺している若者たちだけを伝えます。しかし自殺する人びと、食糧のない人びと、精神障害を患う人びとについては伝えていない。つまりガザの真の姿のは世界に伝えないのです。そのごく一部だけを見せています。彼らには報道に意図があり、その意図に沿ったメディア・メッセージを流しているのですから。

 この戦争が終わったら、ほとんどの若者がガザから脱出し、ガザの外に移住すると思います。ガザは、この戦争の以前から生活に適した場所ではありませんでした。ガザは広大な廃墟の集まりであり、廃墟の山です。生活に適した場所ではありません。

【老人が孫に食べ物を譲る】

 そして、この戦争の後、ガザのすべての家庭にがん患者が出てくるでしょう。どれほどの量の毒物、化学物質、放射線が土壌や地下水に注入されたか想像もできないからです。そして、この戦争の停戦後、あなた自身がその影響を目にすることになるでしょう。

 高齢者は最低限のニーズさえ満たすことができません。糖尿病や高血圧の治療薬を見つけることができないのです。今、彼らは夜も十分眠ることができません。医療や薬が不足しているからです。もちろん、健康的な食事もできません。私が知っている家族では、その家族の老人たちが、自分の食事を子どもや孫たちに与えようとします。彼らは空腹のまま眠ることを選び、自分の分の食事を孫や子どもたちに与えることを選びます。彼らがもっと食事を必要としているのだと言います。自分たちは数週間、数か月、数年後に死ぬだろう。つまり墓の縁に立っている。

しかし、子供たちは身体を大きくするため、食料を必要としていますから。孫たちが空腹のために叫んだり悲鳴をあげたりしないように、自分たちの食事を分け与えるのです。これがガザ地区の高齢者の状況です。

【ハマス内部から停戦を求める声】

(Q・絶望とフラストレーションについてお話いただけましたが、ガザ地区中部含めた一般民衆の心理状況について、もう少し詳しく説明していただけますか?

 これは私の予想ですが、今のような混沌とした状況です。今、人びとは苦しんでいます。将来、この「時限爆弾」は、何らかの形で爆発するでしょう。おそらく、より過激な武装勢力が現れ、自爆攻撃を試みるでしょう。他に選択肢がないからです。つまり、イスラエルにとっては、「時限爆弾」を抱えているようなものです。イスラエルにとっても、非常に危険です。ここまでパレスチナ人が追い詰められたら、何かが起こるのではないかと、とても心配です。イスラエルはパレスチナ人をとことん追い詰めました。彼らは何らかの方法で爆発するでしょう。あなたはどう思いますか?)

 ええ、あなたは完全に正しいです。そして、私たちは同じ恐怖を抱いています。突然、何か重大なことが起こるかもしれません。状況は非常に微妙です。おそらく人々はハマスに対して何らかの行動を起こすでしょう。おそらく住民はハマスに対して暴動を起こすかもしれません。ハマス内部で反乱を起こす動きが現れるかもしれません。

 以前に、私はハマス内部でいくつかの声が聞こえ始めたとあなたに伝えました。ガザのハマス内部からこの戦争を止めるよう海外のハマスの指導者たちに求めています。この指導者たちは現在、ドーハ、イスタンブール、クアラルンプール、アルジェなどの豪華なホテルに住んでいます。ガザのハマスのメンバーの中には、この戦争をどんな犠牲を払ってでも止めるよう、指導者たちに求めている者もいるのです。なぜなら、このままでは彼らはすべてを失うことになるからです。

 この戦争の最終結果において、海外のハマス指導者たちが敗者であることを宣言しなければなりません。さもなければ、ガザのハマスのメンバーはすべてを失うことになるでしょう。戦争だけでなく、ガザ地区でのハマスの存在、パレスチナ人の大義すべてを失うことになるでしょう。

 重要なことを思い出さなければなりません。

 ハマスがガザを統治していた間、ハマスにはサラフィスト(注・イスラム原理派の中でも、ウルトラ過激派。彼らは、イスラム教の預言者、ムハンマドの時代、つまり、7世紀の初期イスラム世界に回帰することを目標としている)と呼ばれる敵がいました。サラフィスト思想を信奉する過激派、超過激派グループです。ご存知のように、サラフィスト思想はISISやアルカイダと重なっています。

 一部のニュースによると、それらのグループは現在、ガザで再編成を行っているようです。一部での噂で、私は確信が持てませんし、それが単なる噂なのか、事実なのかも断言できませんが、ハマスの一部のメンバーに対して、ガザ地区南部のハンユニス市で、それらのグループの武装勢力、つまりサラフィストグループが実際に攻撃を開始したようです。ですから、私たちは何が起こるのか分かりません。

 

 また、もう一つ重要なことがあります。今、内紛で毎日人が死んでいます。この「静かな戦争」について誰も話していません。この内紛がどこまで広がるのか、私たちは知りません。ある日、目を覚ましたら、道路が封鎖され、デイルバラ町やヌセイラート難民キャンプに侵攻している集団を目にするかもしれません。何が起こるのか、私たちにはわかりません。私たちは非常に大きな混沌の中に生きています。

【イスラエル軍の呼びかけ】

 ハマスはとても弱体化しています。以前のような支配力を持ち得ません。また、イスラエル軍はガザ地区内で心理戦による危機を作り出そうとしています。例えば、時折、住民の上にビラを投げ落とします。最近では一昨日のことです。ガザ地区中部のマガジ難民キャンプの上にビラを投げ落としました。

そのビラには、「イスラエル人人質の情報をもたらす者には、高額な報酬が支払われる。その情報提供者と家族は、イスラエル内の安全な場所に避難させ、その後、彼らが望むヨーロッパの国に亡命できる」と書いてあります。

また、「ハマスがあなた方を大きな危険にさらしている。だからハマスに抵抗するように」と呼びかけています。

 また「ハマスは食料を地下に隠している。彼らは1日に3回、肉や冷凍魚を食べている。一方、あなたは子どもに食べさせる米をスプーン1杯分も手に入れることができない」と書いています。

さらに喫煙者をターゲットにしたチラシもあります。

「この戦争が始まる前はたばこ1本が1シェケルでしたが、今では1本200シェケルもします。この戦争を終わらせ、以前のように1本1シェケルでたばこを吸いたいなら、私たちに協力してください。イスラエル人の人質がいる場所に私たちを通報してください」と。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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