千葉ジェッツ、天皇杯3連覇。終盤の冷静さと判断力の成長によって勝ち取った頂点
4Qまでの40分間で同点になること7回、延長の5分間では8度リードするチームが変わった。そんな激戦の決着は、残り2.6秒で富樫勇樹が左ウイングから決めた3Pシュート。「最後入るか入らないかは別にして、打つ気持があるかどうかが僕は大事だと思います。そのメンタリティを持つ選手に託したかったというところです」と語る大野篤史コーチの期待に、富樫はしっかり応えたのである。
準々決勝の川崎ブレイブサンダース戦、千葉は残り59秒で10点リードしながら、残り22秒に2点差まで詰め寄られた。インバウンドパスを積極的にもらう意識の希薄さから、ターンオーバーを連発したことが最大の原因。しかし、準決勝のアルバルク東京戦、決勝の栃木戦の終盤は川崎戦を反省し、ゲームクロックと得点差をしっかり把握しながらも、積極的にプレーする姿勢を維持し続けていた。
【アルバルク東京戦4Q残り1分7秒〜試合終了】
75対79と4点のビハインドで迎えたオフェンスで、ギャビン・エドワーズがショットクロック残り4秒でポジション争いのところでファウルをもらった。フリースロー成功が1本に終わったとはいえ、時計が57.3秒で止まった状態で1ポゼッション差に詰め寄る。直後のディフェンスでは、ピック&ロールのうまい田中大貴にボールを渡らないように対応し、馬場雄大にボールを持たせた。
その結果、「すべてのポゼッションに大きな意味がある。目の前のポゼッションにとにかく集中した」と振り返るアキ・チェンバースが馬場のクロスオーバードリブルに対し、素早い手の動きからスティールに成功。「あれは非常に大きかった」と話したマイケル・パーカーがトランジションでフィニッシュし、千葉は残り30.7秒で1点差に詰め寄る。
タイムアウトをコールしたA東京は、時間を最大限使い切るためにエンドラインからのインバウンドを選択。安藤誓哉がトップの位置でボールをコントロールした状態は、12月12日に栃木を倒した時とほぼ同じ。その時の安藤はドリブルからそのままジャンプシュートを決めていたが、ショットクロックが残り5秒を切ったところからのドライブに対し、「キックアウトはない」と読んだパーカーがヘルプから見事なブロックショット。そこからの速攻で走ったパーカーは、残り0.5秒にティップでゴールにねじ込み、千葉が劇的な逆転勝利を手にした。
【栃木ブレックス戦4Q残り6分4秒〜4Q終了】
延長の5分間を含めたラスト11分間で犯したターンオーバーは、4Q終了寸前に富樫がドライブした際、ジェフ・ギブスにボールを叩かれて失った1本のみ。オフェンスの遂行力ということでは、うまく行かなかったシーンがどちらかといえば多かった。西村文男の3Pシュートでリードを6点に広げた後、4分21秒間無得点に終わって追いつかれたことでも明らか。それでも、ビッグゲームにおける終盤の戦い方ということを考えれば、ショットクロックが10秒以上残った状態での早打ちが2回しかないことでも、千葉は辛抱強く戦っていた。
ディフェンスに目を向ければ、富樫がミスマッチで攻めてきた遠藤祐亮のシュートをブロック。チェンバースが速攻で渡邉裕規からアンスポーツマンライクファウルをもらう前、ポストアップからアタックしようとしたジェフ・ギブスに対し、石井講祐のヘルプがターンオーバーと言っていいようなミスショットを誘発させていた。
【栃木ブレックス戦延長残り1分28秒〜試合終了】
ベンチワークということでは、大野コーチが残り1分28秒にタイムアウトを取ったことも印象に残っている。土壇場まで残しておきたい流れだったが、成功率の低いライアン・ロシターがフリースローを打つ前のタイムアウトは、11月7日に対戦した際にも1度あり、1本外すという結果があった。2本とも決まれば3点ビハインドとなるところでミスが続いたことは、“大事なフリースローだ”と考えさせるような時間を作った効果という気がする。アメリカンフットボールでよく見られるシーン、残り数秒で決まれば逆転勝利というフィールドゴールを蹴る寸前に、緊張でミスを誘発させたいディフェンス側がタイムアウトをコールするのと似ていた。ロシターは延長で4本のフリースローを成功させたが、いずれもファウルされた後、余計な間がないいつものリズムで打って決めたもの。より緊張感の高まる残り16.1秒に2本とも決めてリードを奪い返していたことからすれば、大野コーチのマインドゲームは絶好のタイミングだったのかもしれない。
残り28秒のタイムアウト明けに栃木がショットクロックが14秒になるフロントコートからオフェンスを開始したところも、一種の駆け引きだと思えた。バックコートからのインバウンドで24秒間をしっかり使って逆転のシュートを決められれば、千葉が攻める時間を極力少なくすることができる。しかし、1点差で負けている以上、シュートが入らなかった場合にファウルゲームに持ち込み、試合を長引かせることを想定した安齋竜三コーチの判断は適切。その一方で、「あっちかなと思っていました。決めれば守れるという思いを持っていたのかなと」と石井が話したように、千葉からすればA東京戦同様ラストポゼッションの機会を得ることになる。
ロシターのフリースローで逆転されたとはいえ、16.1秒はラストショットで逆転するには十分な時間。インバウンドパスをもらった富樫は、エドワーズでやると見せかけ、パーカーとのハイピックを選択する。残り6秒でスクリーンを掛け直すと、「意思疎通ができていなかった。自分がどっちつかずになってしまったので、結果ノーマークみたいな感じになってしまった」と悔やむ遠藤の対応が遅れた瞬間、富樫はパーカーにマッチアップしていた竹内公輔との間にスペースができたことを見逃さなかった。
「もしかしたらトラップで2人来るかなという想像をしていたので、自分がシュートを打つか打たないかの判断は正直なところしていなかった。目の前が、ほんの少しのスペースでしたけど、開いた気がしたので、時間、リバウンドのチャンスを含めてちょっと早めに打ちたかったというのがあった」と語った富樫の3Pシュートによって、千葉は3連覇を成し遂げたのである。
一昨年と昨年の決勝で千葉は試合の途中で大差をつけたが、今回は最後の最後まで勝負の行方がわからない一戦を制しての頂点。土壇場までもつれるビッグゲームで立て続けに勝ったこと、それも決して冷静さを失うことなく、クロックマネージメントをしっかりできていた。チームとして成長していることは、石井とキャプテンを務める小野龍猛の言葉が象徴している。
「残り1分を切ってからの点差と、それを考えての対応ですごくいいプレーを選択できたと思うので、今後の接戦で勝ち切るという意味では、自信じゃないですけど、いい経験になったと思います」(石井)
「めちゃくちゃその部分で成長したと思いますね。ショットクロックのところは、いい判断がみんなできているなと。(大野さんになって)もう3年目、そういったところのゲーム感もあるんじゃないかな。あれはうまくならないとダメでしょ。最後打たせないようにマネージメントをして、(自分たちのシュートが)外れてもリバウンドを取れるくらいの時間でできていたので、そこはよかったなと思います。そういった部分や我慢強さの成長はあると思います」(小野)
B1制覇との二冠を目指す千葉の戦いは、16日の栃木戦からスタート。先はまだまだ長いといえ、過去2シーズンの経験を生かせるか否かが、成功を手にするために欠かせない要素になるだろう。