福岡大附属大濠・湧川裕斗:積み重なった悔しさを糧にウィンターカップの頂点を目指す
福岡大附属大濠の湧川裕斗は、試合中にほとんど表情を変えず、淡々にプレーし続けるガードだ。チームとして日本一を目標としながら、福岡市が会場となっていたインターハイの準決勝で美濃加茂に競り負けて頂点に立てなかった後も、感情を露わにするよりも悔しさを内に秘めていた。
インターハイで優勝できなかったことに加え、湧川にとっては非常に悔しい思いをしたことが他にもある。それは、U18FIBAアジアに出場する日本代表メンバーに選ばれかったことだ。U18日清食品トップリーグ2024での湧川は、アメリカのアスリートがよく使う英語のフレーズが思い浮かぶようなプレーをしていた。
"Have a chip on your shoulder.”
訳すと挑戦的な態度を取るという意味になるのだが、これはあくまでも湧川の心に秘めたもの。そのメンタリティを自身のプレーで示したいという思いがあることは、リーグ戦序盤で口にした言葉からでも明らかだ。
「落ちたっていうのが悔しくて、やっぱり個人としては日本代表になることが目標なので、日清では言葉が少し悪いかもしれませんが、(メンバーに)入った選手をぶっ倒す気持で挑んでいます」
現在B1の三遠ネオフェニックスでプレーする兄の颯斗は、U18FIBAアジアカップ、U19FIBAワールドカップに出場した。また、2021年にはウインターカップの頂点に立っている。そんな兄は、湧川にとって尊敬しながらも負けたくないという存在だ。
身長が181cmと兄よりも13cm低いこともあり、プレースタイル自体は大きな違いがある。兄はドライブやディフェンスなど身体能力を生かしたプレーが強みなのに対し、湧川はラインの数メートル離れた距離からでも3Pを決められるシュート力が最大の武器。しかし、インターハイやトップリーグでは、兄のようにボールをプッシュして一気に得点を奪いにいくシーンも増えている。
「自分は3Pが得意で、そこを止めてくるチームも増えてきたので、そこでドライブもできるようになるようになろうと(片峯)先生にアドバイスいただいた。そこは練習や試合で意識してやっるようにしているので、少し自信を持ってやるようにしています」
フィニッシュの際に幅の大きいユーロステップを駆使することや、滞空時間を最大限に活かしたリバースレイアップは、兄と似ていると感じさせる。最大の武器であるシュート力に加え、ドライブにより磨きをかけることができれば、湧川は相手にとって非常に厄介なガードになれる。
ただし、トップリーグのラスト2試合、開志国際戦と藤枝明誠戦での湧川は、ボールのないところでも厳しいマークに直面。3Pショット打てる機会だけでなく、ボールを持つこと自体も減少し、ゲームメイクもさせてもらえずにリズムをつかめなかった。湧川はこう反省する。
「開志(国際)戦は本当に何もできず、今日(藤枝明誠戦)はそこを改善しようとオフボール・スクリーンにしてもらうとか工夫したんですけど、まだ(ディフェンスを)振り切れない部分がありました。(これからの練習で)そこを突き詰めていかなければいけないと思います」
今年の福岡大附属大濠には、FIBAアジアカップ予選の日本代表合宿に参加しているビッグマンの渡邉伶音(204cm)がいる。また、U18FIBAアジアなどで国際経験を積んだ高田将吾も主力選手だ。
しかし、湧川がここぞという局面で勝負強さをできるかは、福岡大附属大濠のウインターカップにおける命運を左右する要素と言ってもいい。その理由は、ショットを決める能力がチームNo.1であり、2021年に頂点に立ったときの岩下准平のようなパフォーマンスを発揮できる可能性を秘めているからだ。
ライバルの福岡第一に敗れた昨年の決勝も含め、この1年で非常に悔しい思いを3度も経験してきた湧川。12月29日に東京体育館で最高の結果を出すためには、以前から課題と話しているリーダーシップ、直近の2試合で明らかになったボールをもらえない状況に直面した時のカウンターパンチとなるプレーをできるかがカギになるだろう。