けやき坂46(ひらがなけやき)の初舞台「あゆみ」、この神演出を見逃してはいけない
けやき坂46(ひらがなけやき)の初舞台となる「あゆみ」が、渋谷のAiiA 2.5 Theater Tokyoで4月20日に開幕しました。この上演は5月6日まで続き、合計20公演という、ライブと比較すると、舞台だから当然なのですが、比較的長丁場のステージです。主催は「2.5次元ミュージカル」を仕掛けるネルケプランニングです。
ひらがなけやきは、ステージという意味では、武道館を3日間3万人埋めるほどのグループですし、演技という意味では2017年の年末にNetflixでの配信も話題になった「Re:Mind」という連続ドラマ全12話+スピンオフ特別編もこなしているグループです。
しかし、それでも舞台となると、それはまた話が変わります。しかも、この「あゆみ」がどういう舞台なのかの事前情報がなかなかに理解しにくいものでした。ちょっと整理しておきます。
- 舞台の内容、目には見えない時間の道を歩くあゆみという女性の人生
- けやき坂46のメンバー20人は、チームハーモニカ・チームカスタネットに分かれる
- 各チーム10人全員であゆみ1役を演じる、変則的なWキャスト
1人の女性の人生を演じるということ以外は、まるでわからないことだらけです。10人で1人の女性を演じるのもわからないし、チームハーモニカとチームカスタネットという名前もわからない。
しかし、わからないことだらけなおかげで、どうやら普通の舞台ではないことだけはわかりましたので、これ以上事前情報を取ることはやめて、舞台当日を迎えました。
劇場に入り、ユニークな舞台装置が目に入り、そして10人が一度に登場して開演すると、そこから舞台はポリフォニーとループが緊張感を保ち、90分が一気に流れていきました。
全員が主役を演じ、同時に主役を彩る人物を演じ、静かな短いフレーズが重層的に重なって、チルアウトに向かっていきました。1人の人という光が輝いている時間がそこにはあったのです。
そして気づいてみれば、舞台に関して、事前にあんなにわからないと思ったことが、実際の舞台を見終わってみると、まさにそうあるべきでしかないことだらけであったことにびっくりしたのです。
観劇のツイートをしながら、初舞台のアイドルグループと舞台の演目と舞台装置とキャスティングが見事にかみ合っているのを確認して、この見事な構成を考えた演出家のすごさにうなり続けていました。ひらがなちゃんたちに、この演目をやらせようと考えたのは、誰なんでしょう?、ホント教えて欲しい。
舞台といってもいろいろとありますが、一般的な舞台を見る醍醐味というのはこんな感じでしょう。
- キャストは1つの役を演じる
- 長いセリフまわし
- 場面転換とそれに応じたキャストの出入り
- セットと小道具
- 物語を堪能する
これらの要素、初舞台のアイドルグループにはつらいことばかりです。そう考えて、この「あゆみ」の舞台を照らし合わせてみると、上の要素を全部逆転させているのです。
- キャストは全員1つの役を演じる
- 短いセリフをつなぎ合わせる
- 場面転換は基本的になく、キャスト全員はずっと舞台上にいる
- セットも小道具も1つだけ
- 物語らしい物語はない
そして、これらの要素は彼女たちが普段やってるライブに近いものです。
また、10人で1人の役を演じるという変則的なキャスト(それもWキャスト)は、実際の舞台では90分ほぼ切れ目のなく続く、めまぐるしく変わる役という形で表現されていました。役が固定しない、お芝居に切れ目がない、セリフも時として断片的になる、これは普通の役者には難易度の高いものです。
しかし、普段2時間を超えるようなライブを、しかも複雑なフォーメーションと振付と歌でこなしているアイドルグループである彼女たちにとっては、一般的なお芝居よりも、むしろ取り組みやすい課題だったのではないかと考えられます。
そして、袖にはけることなく、ずっと舞台上にいることは、同じ温度の緊張感を維持できるでしょうし、なによりも近くにいることでお互いにお互いをすぐにフォローできる状態も同時に維持できているのです。
舞台初体験のアイドルのデメリットを全部メリットに変換したというのは、こういうことなのです。さらに、1つしかないセットと小道具は、演技以外の要素を極限まで減らして、演技に集中させることを導いてもいるのです。
このシンプルでありながら考え抜かれた演出と構成はホントにすごい。
あ、そうそう。なぜ、チームハーモニカ・チームカスタネットという名前なのかは、舞台開始1秒でわかります。これもなかなかににくい演出でありました。
舞台を見ていない人にどこまで伝わるかわかりませんが、演出と構成と同様に舞台を見てしまえば一瞬でわかることなのですが、この「あゆみ」という舞台は、同じ曲同じセットリストであっても同じライブというのがないように、毎回毎回違う印象を観客に与えるはずです。しかも、繰り返しますが、この舞台はWキャストなのです。
そして、この演出と構成があるからこそ、この「あゆみ」はどちらのチームも見たくなるし、何度も見たくなるのです。ひらがなけやきと以前にドラマ Re:Mindで共演した宮川一朗太さんも2日連続で、それぞれのチームの舞台に足を運んでいます。
そして、このすばらしい舞台なんですが、チケット争奪戦であきらめてはいませんか?っていうのが、いちばん言いたいことだったりします。チケットはたぶんまだ取れます。FC会員であれば、EMTGのチケットトレードで取れますし、どうやら当日券もほぼ毎日毎公演あるみたいです。
私はすでにチームカスタネットもチームハーモニカもどちらも見ています。そして、できればそれぞれもう1回見たい。というか、こんなすばらしい舞台に空席なんてあってはいけないのですよ。
開幕前にかかれたひらがなけやきのメンバーの1人、影山優佳さんのブログにはこんなことが書かれていました。
「あゆみ」は、この言葉通りの舞台でした。アイドルでしょ?、初舞台でしょ?というバイアスをとりのぞいて見るべきものが、この「あゆみ」にはあります。
1人の女性の人生を描いているので、むしろ子供もいるぐらいの年齢の人たちの方が、これまでの自分の人生と照らし合わせることができるだけ、より一層この舞台を味わえます。
もう一度言いましょう。2018年春の東京で、なにか1つすばらしい時間を過ごしたいなら、ぜひこの舞台を見てください。そして、そこにはなぜ今アイドルなのか?という答えも含まれているはずです。
(写真はすべて著者撮影)