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居酒屋は子連れ客の入店を許すべきか?

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

子連れ居酒屋

昨年末に気になる記事を読みました。

それは<子連れ居酒屋「反対」は70% しかしニーズは高まっている>という記事です。

内容は、子連れ客が居酒屋に訪れるのはどうかというものでした。

酒ありたばこありで深夜営業が基本の、大人の癒しの場“居酒屋”。ここが今、子供と一緒に夕食を楽しめる家族団らんの場となっており、お子様歓迎の看板のある居酒屋チェーンも増加。しかし、アンケートによると「子連れで居酒屋」への「反対」は70.4%、「賛成」は29.6%となった(セブンズクラブ会員〈全国の10~80代の男性・女性470名が回答、実施期間2017年10月13~18日〉)。

出典:子連れ居酒屋「反対」は70% しかしニーズは高まっている

タイトル通り、反対は70.4%と大多数を占め、「毎日頑張って働いている大人がやっと肩の荷をおろして楽しめる場所で、子供の泣き声や叱られる声を聞きたくない!」などの意見が聞かれたということです。

状況によって意見が異なる

子連れ客に関して、私はこれまで以下のような記事を書いてきました。

子供がいるか子供がいないか、さらには、子供がいても、子連れで訪れるか子連れで訪れないかなど、状況やポリシーによって、この件に対する感じ方はだいぶ違ってくると思います。

子連れ客が居酒屋へ訪れることは、主観的もしくは感情的になりがちな問題なので、当記事では段階的に考えてみたいです。

業態として適切か

居酒屋はその名前通り、酒類とそれに伴う料理を提供する飲食店です。つまり、お酒を飲むことが前提となっている業態なので、当然のことながら、主にお酒を飲める年齢以上の方を対象としています。

お酒を飲みさえしなければ、子供が訪れても問題ないように思えますが、本質的な観点から考えると問題があります。

例えば、ノンアルコールビールはアルコールが入っていないので、アルコールが飲める年齢に達していなくても、法律的には購入したり飲んだりすることに問題はありません。

しかし、ノンアルコールビールはそもそもビールの代替品として開発されたものであり、ビールを飲む人を想定して作られているので、アルコールが飲める年齢を対象にしている飲食店がほとんどです。

これと同じように、居酒屋は本来お酒が飲める人を対象としている業態であるだけに、お酒を飲まないとしても、お酒が飲めない年齢の人が居酒屋に訪れることは好ましいとは言えません。

善いか悪いか、もしくは、親切か不親切かではなく、業態としてのあり方の問題となります。

自己矛盾をはらむ

居酒屋は子連れで訪れるべきではありませんが、冒頭で紹介した記事のように、子連れを容認している居酒屋では、小さい子供を同伴して訪れることができます。

飲食店は季節や天候、経済の状況や流行に大きく左右される業態であり、かつ、その時にその空間を売らなければならないハコモノであるだけに、できるだけ多くの客を取り込みたいという考えがあります。

お酒を飲む人だけをターゲットにしてしまうと、居酒屋は、お酒を飲めない、もしくは飲まない人を取りこぼしてしまいます。そして、それを回避しようとして、お酒を飲む人以外もターゲットにすると、今度は自己矛盾をはらんだ業態になってしまうのです。

冒頭の件に関しては、子連れ客を容認した居酒屋が自己矛盾をはらんでいるので問題が起きていると言ってもよいでしょう。

本来の客への対応

では、自己矛盾をはらんだ居酒屋は、どうすればよいのでしょうか。

それは、お酒を楽しむために訪れた本来の客を十分に尊重しつつ、本来のターゲットではない子連れ客にも気を遣わなければなりません。

まず前者について説明しますが、これは明白なことしょう。

例えば、客単価が何万円にも上るファインダイニングは、特別なデート、記念日やお祝い、接待など、大切な時に大人が会食する業態です。従って、子供用のメニューは用意されていませんし、子供の叫び声が大人の会話を遮ったり、親が子供を世話する姿が雰囲気を壊したりすることがあってはなりません。空間も値段に含まれているだけに、当然のことです。

もしも客単価を維持しつつ、子連れ客も取りこぼしたくないのであれば、個室を設けて子連れ客は個室でだけ利用を可能にしたり、週に1回もしくは月に1回など年齢制限を設けないキッズデーを企画したりと、工夫しなければなりません。

今回の居酒屋も同様です。居酒屋の店内では通常、子供が泣いたり走り回ったりすることが想定されていないだけに、もしも居酒屋が子連れ客を許可するのであれば、子連れ客を別の階や別のエリアに案内したり、時間帯を制限したりして、本来のターゲットを尊重する必要があります。

子連れ客への気遣い

続いて後者です。

本来のターゲットではない子連れ客に対しても、気を遣う必要があります。

居酒屋が自ら子供を連れてきてもよいと容認しているのであれば、子連れ客が快適に過ごせる空間を提供するべきであるということです。

美しくても危険であったり、洒落ていても壊れ易かったりするものを置いてはならず、安全性に配慮しつつ、コンセプトに合致した美観を構築しなければなりません。授乳したりオムツを替えたりする場所を用意したり、ベビーカーの置き場所を確保したりする必要もあるでしょう。

子連れ客を容認するのであれば、小さい子供がいることによって起きることは想像しておかなければなりません。少し触っただけですぐに壊れたり、ぶつかったら大きな怪我をしたり、食事や排泄などの生理的欲求を満たせなかったりする環境ではいけないのです。

こういったことを考えないで気軽に子連れを容認すると、子連れ客が不満を持ってしまいます。

全てをターゲットにできない

ここまで段階的に考えてきましたが、飲食店は基本的に全ての客をターゲットにすることは難しいです。

ファストフードであれば食通は見向きもしませんし、ファインダイニングであれば食に興味がない方は一生訪れることもないかも知れません。賑やかなバルであればプロポーズには選ばれにくいですし、高層階からの夜景に感動するレストランであれば普段使いで訪れることは少ないでしょう。

飲食店は参入障壁が低いこともあって競争が激しいので、経営が簡単ではありません。流行は日に日に変わっていき、景気が少しでも悪くなれば外食は真っ先に削られてしまうので、新しい飲食店は開業してから、2年で半分、5年で2割しか生き残れないと言われています。

そのような状況で、全ての人をターゲットにするのは難しく、かつ、多くの飲食店が全ての人をターゲットにしてしまえば、逆に個性を殺してしまうことにもなるのです。

従って、無理をして八方美人になったりせず、それぞれの飲食店がしっかりと矜持を持ち、本来のターゲットに向けて最高のサービスと料理を提供するのが最もよいことではないかと私は考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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