東京都台東区/可愛いおもちゃ花火から大輪の打ち上げ花火まで自社製造!浅草橋の花火会社「若松屋」
これから夏本番!夏といえば花火!ということで、今回は台東区の浅草橋駅近くにある花火会社「株式会社若松屋東京支店(以後『若松屋』)」様を紹介いたします。
同社は創業より90年近くの歴史を歩む老舗の花火会社であり、主力商品のおもちゃ花火は日本全国の量販店で購入可。もちろん打ち上げ花火についても、国内各地の花火大会で実績数多という超実力派です。
花火の魅力や楽しさとは?コロナ禍の最中に大変だったことは?今後の展望は?…などなど、今回は花火にまつわるアレコレについて営業部・竹内さんへお話を伺いつつ、一般非公開のショールームを見学させて頂いたほか、線香花火の制作体験にも挑戦しました!
◆小さな飴玉から、大輪の尺玉(打ち上げ花火)までマルっと製造販売
若松屋は愛知県の本社と工場、今回訪問させて頂いた東京支店の国内3拠点で事業を展開されています。会社のキャッチコピーは「飴玉から尺玉まで」。指先サイズの小さい飴から、夜空を彩る大輪の花火(尺玉)まで作れることを意味していて、洒落が効いていますね。
若松屋の東京進出は、ちょうど30年前の1994年。当初は江戸川区の小岩エリアに事務所を構え、その後の2002年に現在の浅草橋に移転しました。東京進出のタイミングで、花火以外の玩菓(飴玉やガムを取り入れたおもちゃ)や雑貨を販売開始。
現在の若松屋は、家庭用のおもちゃ花火・打ち上げ花火・玩菓の3軸で事業展開中。おもちゃ花火の日本市場は90〜95%が東京と愛知の計4社で占めており、中でも愛知に本社を置く若松屋が最大のシェアを誇っています。
◆花火業界での存在感は「Amazon」級!
若松屋が持つ大きな「花」の一つは、何と言っても打ち上げ花火!
打ち上げ花火の市場は全国に広がっており、日本煙火協会(日本の花火文化振興や安全強化に取り組む業界団体)所属の約300社が関わっています。日本の各地域ごとに優れた花火会社があるものの、現在の打ち上げ花火は海外製造のものも多く、日本国内での花火製造は縮小傾向とのこと。
そうした中にあって、若松屋では打ち上げ花火の製造・販売だけでなく、花火の輸入商品販売を中心として、日本全国の花火師さんと取引をしながら、花火の販売仲介や卸売も行なっています。言わば花火業界全体のインフラとして日本各地を繋いでいる存在なのです。
また、花火業界は実は「花火を作る職人」と「花火を打ち上げる職人」に分かれているケースもあるとのこと。一方、若松屋は花火の製造職人と打ち上げ職人の両方を有し、日本各地の花火打ち上げに参加・協力しつつ、同時に花火製造も行なっています。
若松屋の愛知工場には、現在6人のスタッフが在籍。打ち上げ花火製造は静電気による爆発リスクがあり、完全機械化が難しいため数多くの手作業を必要とします。若松屋は熟練したスタッフが安全管理を徹底しながら作業しているほか、建物自体にも事故防止・安全徹底の工夫がされています。
◆コロナ期間の辛抱を通じて得た気付きと前進
2020年以降しばらく続いた、新型コロナウイルスの感染拡大。この期間は多くの花火大会が中止になり、若松屋も大きな打撃を受けたそうです。花火の出荷が止まって保管しきれなくなった在庫火薬の処理と、打ち上げ花火の製造技術継承を兼ねて、シークレットで無観客の花火打ち上げを行なったことも。
こうした辛い時期のなか、若松屋をはじめとした花火会社の多くが、様々な工夫とやりくりをして耐え忍びました。その一方、竹内さん曰く、こうしたコロナ禍の中でも大きな収穫があったそうです。
それは、おもちゃ花火の需要が増えたこと。どこにも出かけられないステイホーム期間が続くなか、家庭で楽しめる遊びとして自宅での花火が見直され、家族で楽しむおもちゃ花火セットが通常以上に販売好調となったのです。
竹内さんにとっても若松屋全体にとっても、コロナ禍という長い雌伏の期間は、花火文化のポテンシャルや新しい需要に気付かせてくれる時間でもあったと言います。
コロナ禍が明けて久しい現在も、若松屋は様々な新しい施策を展開中です。その一例がおもちゃ花火商品や玩菓の数々で、様々なニーズや環境性に対応した商品を数多くリリースされおり、その一部を同社のショールームで見させていただきました。
◆「子供向け」「ファミリー向け」だけじゃない、様々なニーズに応える花火製品
こちらが若松屋の東京支店5階にあるショールーム。通常は一般向け非公開のところを、今回の取材に合わせて特別に見学させて頂きました!
若松屋が現在販売しているおもちゃ花火、各地の花火大会で使用される打ち上げ花火の見本、花火に関する取り組み事例のパネル、花火とともに販売中の玩菓などがズラリと陳列。その内容の充実ぶりは、さながら花火のミニ博物館のようです。
コロナ禍を契機に生まれた新製品として、竹内さんが自信作に挙げたのが、こちらのエコパッケージ花火。
一般的におもちゃ花火といえばイメージしやすいのが、キラキラと飾り付けを多用した大ぶりのパッケージ。それに対して、こちらのエコパッケージはSDGsに基づいて設計・製造されており、ビニールを使わずに環境配慮素材オンリーとすることで廃棄物削減に努めています。
このエコパッケージは①ゴミが少ないだけでなく、②パッケージから花火を取り出しやすく、③コンパクトな梱包により多くの花火を入れることができ、④梱包が小さいぶん流通コストも減らせると複数のメリットがある優れもの!環境配慮製品と言えば「でもお高いんでしょう?」というものも珍しくないなか、このエコパッケージは製造元・流通・小売・消費者の誰にとってもオトクなのです。
付け加えると⑤デザイン自体もスマートなので、和服を着ながらカバンからスッと取り出してもベストマッチ。
また、若松屋では定番の華やかな花火セットだけでなく、新しい用途や遊び方、客層、ニーズに対応した商品も売り出し中です。
こちらの商品はInstagramなどのいわゆる「SNS映え」を主眼に置いた商品。若松屋の調査によると、おもちゃ花火のニーズは夏だけでなく、秋に入った9〜10月でも意外と高いとのこと。そのため、夕暮れが早まる秋季を念頭に、日没時のマジックアワー(空が濃い青色になり、幻想的で綺麗な写真を撮りやすい時間)での大人の花火遊びを見込んでいます。
その他、今までのファミリー向け、子供向けという所から一歩踏み出し、大人向けの高級花火セットなども販売中。幅広い顧客ニーズに合わせた商品開発を行っています。
また、こちらのショールームではおもちゃ花火に加えて打ち上げ花火の筒・玉見本も展示されていました。
大小様々なサイズの玉が並べて展示されており、熱海の花火大会で使われる二尺玉(20号玉)や、長岡の大会で使われる三尺玉(30号玉)は迫力のビッグサイズ!
一方、隅田川花火大会では川幅が狭いため最大でも5号にサイズが限られるそうですが、このことが逆に「打ち上げ現場近くで間近に見られる」という、隅田川ならではの楽しさにも繋がっているそうです。
飴玉やガムを玩具と組み合わせた玩菓類の展示もあり。これらは「おもしろい!」をコンセプトに子供が遊んでいる姿を想像して作られているそうで、「Happy yum-yum(ハッピーヤムヤム)」という独自ブランドも展開されています。
◆線香花火の紙巻き工程に悪戦苦闘!
今回は竹内さんのご厚意により、線香花火の制作体験もさせて頂きました。
まずは線香花火の土台になる包紙を、火薬のポケットを作りつつ、指先でこより状に細長く整形する練習から。竹内さんが作るこよりはピッシリとスマートになるのですが、私がやるとフニャフニャに…
何回か練習をして、多少の形が整えられるようになったところで、こよりの先端に少量の火薬を巻き込んで線香花火を作るステージへ。
火薬がこぼれないよう、こよりが千切れないよう、ピシッと伸びるように神経と根気を注いでクリクリとまとめていきます。
完成したものがこちら!竹内さん制作のもの(一番左のもの)と比較するとピッシリ感は全く及ばず、不恰好ですが何とか多少は線香花火らしくなりました。
ショールームを出て1階に行き、屋外で火を付けてみます。
自分で作ったばかりの線香花火からシュワっと火の花が飛び、儚くも鮮やかに花開く時の感激はなかなかのもの。
外見こそスマートさに欠けるマイ線香花火でしたが、火花が様々に変化しながら燃える様子が、手前味噌ながら綺麗でした。
その他、手持ちのスパーク花火とすすき花火もチャレンジ。個人的に20数年ぶりに花火を触ったこともあり、とても良い体験をさせて頂きました。
なお、5月下旬に開催されていた台東区南部のものづくりイベント「モノマチ2024」では若松屋も出展されており、花火の展示に加えて花火制作体験も開催されていました。
竹内さん曰く、お客さんの多くが私同様に苦労しながら線香花火を作っていたものの、中には初見で竹内さんに負けないくらいピシッと整った線香花火を仕上げてみせた小学生の子もいたとか。意外なところに、未来の天才花火職人がいるのかも知れませんね。
◆未来へ花火文化を届けるための様々なアクション
取材を通じて印象的だったこととして、若松屋は日本の花火文化を次世代に伝えるべく、花火の製造・販売に加えて様々な社会活動も行なっています。
例えば、若手の花火師の育成や、日本各地の花火大会支援などを通じて、日本の花火文化の発展に寄与しています。地域社会との連携を深め、地元の祭りやイベントへの参加も積極的に行っているとのこと。
また、コロナ禍以降は東京の豊洲公園や、名古屋・福岡など日本各地で花火教室を開催。教室を通じて子どもたちに花火作りや安全な遊び方を教え、花火の歴史や文化について周知を広めています。
加えて、安全に花火が遊べる場所をマップ上で検索できるアプリ「Hanabi-Navi(ハナビナビ)」の開発・提供など、その活動は単なる花火屋さんには留まらず多角的。そこには、打ち上げ花火に加えておもちゃ花火のPRや振興も進めたいという、深い思いがあるそうです。
一方、竹内さんは今後の取り組み強化が求められることとして、コロナ禍が明けて再び急増するようになった外国人観光客(インバウンド)への対応を挙げていました。
海外のお客様にも日本の花火文化を広めることが必要ですが、そもそも海外には日本のように手で持って遊ぶおもちゃ花火の文化がほとんど無いとのこと。
若松屋はこれまでにも北海道・洞爺湖など、外国人にも人気の観光地での花火イベントを通じて花火を紹介する試みを行ってきましたが、さらに効果的な方法を模索しています。
また、身近な課題がもう一つ。台東区では条例により、区が管理する公園などの公共空間では花火遊びができないそうです(※道路上や私有地はOK)。個人的には、このことが最も意外に感じられました。
台東区は若松屋のような優れた花火会社が拠点を持ち、隅田川花火大会などで江戸〜東京の花火文化にも深く関わる地域。無論、条例やルールは何らかの必要性があって作られるものですが、今後の花火文化振興を考えると一抹の寂しさを覚えてしまいます。
こうした思いは若松屋全体で共有しており、台東区役所などへ働きかけを継続されているそうで、条例の見直し・緩和に向けた話し合いや周知が進むことを願うばかりです。
◆今年の隅田川花火大会の見どころは?
以上、今回は浅草橋の花火会社、株式会社若松屋東京支店の営業部・竹内様にインタビューお答え頂きました。日本の花火と東京の夏を盛り上げるために様々な活動をされている姿勢には、日本のものづくり文化の奥深さに通ずる所を強く感じられました。
今夏は日本全国でも東京都内でも、前年に増して花火大会は復活傾向。前年より再開した隅田川花火大会は、今年は支障なければ7月27日(土)に開催予定です。最後に、その魅力を竹内さんに伺いました。
空に咲く大輪の花に歓声を上げながら、その花火が見られなかった年月の重みと、再び花火が上がり続けるであろう今後の年月に思い馳せてみても良いかも知れませんね。