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東京都台東区/月曜日も営業!カバンを通じて世界の文化を知る無料ミュージアム「世界のカバン博物館」

デヤブロウ街歩きWebライター(東京都台東区)

 この記事では浅草・駒形橋近くにある「世界のカバン博物館」をご紹介!
 ここは良質なビジネスバッグやスーツケースのブランドを複数持つエース(株)が運営する博物館で、同社の創業者に関する「新川柳作(しんかわ・りゅうさく)記念館」と併設されています。
 美術的&資料的価値の高い古今東西のカバンやスーツケースが一挙展示されており、無料で見学していいのかと困惑するほどの満足度!多くの博物館や美術館が定休の月曜日に入れることも地味ながらメリットで、皮革製品&ものづくりの街・浅草らしい博物館です。

◆カバンから世界を知ってほしいという創業者の思い

 「世界のカバン博物館」を運営するエース(株)は、新川柳作氏により前身の個人商店が1940年に創業し、その後1963年に現在の社名になりました。

 社是は個人商店時代から続く「創意 工夫 努力 正しく」。時代や世相に合わせて様々な事業や活動を展開しています。

 「世界のカバン美術館」開業のきっかけは1958年の欧州視察旅行。新川氏がドイツの皮革製品に関する博物館を見学した際、展示物全体のうちカバン製品がごく僅かだったことでした。

※新川柳作記念館の展示パネルより
※新川柳作記念館の展示パネルより

 その内容に不満を覚えるとともに、「ならば自分が世界中のカバンを集めて、多くの方々に外国の文化や風俗を知ってもらいたい!」と触発され、新川氏は自らコレクション収集を開始。

 1975年にはコレクションを外部公開するため「世界のカバン館」を開館しました。当時の日本では企業内博物館はまだ珍しい存在で、新川氏の取り組みは革新的なものだったそうです。

※新川柳作記念館の展示パネルより
※新川柳作記念館の展示パネルより

 新川氏は2008年に逝去。その後、2010年には創業70周年事業として大幅リニューアルが施され、現在の「世界のカバン博物館」が完成。カバンにかける新川氏の情熱と信念は現在まで伝えられています。

◆1Fに積まれたビンテージカバンをよく見ると…?

 「世界のカバン博物館」のある建物は、駒形に1973年竣工したエース(株)東京店。都営浅草線・浅草駅の出口から直近で、東武伊勢崎線や東京メトロの浅草駅とも程近いのでアクセス性は良好です。

 建物の入口は広々としており、柱に施されたタイル装飾がきらびやか。

 「ゆるキャラ」風にデフォルメされた創業者・新川氏の御姿が。マスコットの「かばンくん」もかわいいですね。

 1Fエントランスロビーに入ると、受付の方から簡単なご案内をいただけました。こちらでは何と、エコバッグや日めくりカレンダーが無料配布とのこと!

 ロビーには言わずと知れた世紀の芸術家、岡本太郎氏の作品「統」もありました。新川氏が岡本太郎氏と家族ぐるみの付き合いだった縁で、ビル竣工時に寄贈されたそうです。

 博物館に向かうエレベーターの横には、主に20世紀初頭〜第二次大戦まで(※一部除く)の世界各国のビンテージカバンが展示されていました。

 世界中を旅してきたであろうカバンの表面や、四隅のダメージ、色々な国のステッカーには目を奪われます。

 展示されているカバンの製造年、製造国などに関するキャプションもありますが、一つだけ詳細が一切「不詳」というものも。このカバンは一体どこから来たのか…?

◆カバンの歴史と、カバン作りを縦横にからめた展示

 エレベーターから7Fに上がった先が「世界のカバン博物館」です。

 部屋の中央には大きな円筒状のパーテーションがあり、柔らかい円周状の導線が作られています。インテリアや照明も全体的に落ち着いた印象。

 入口からすぐ左には、台湾製の木馬ならぬ「革馬」が!体重の軽い子供ならそのまま乗れそうなガッシリ感です。

 なお、ヨーロッパのカバンブランド(メーカー)は、元をたどると馬具製造メーカーが多かったとのこと。乗馬や馬車から自動車へと交通手段が変化するなかで馬具の需要が減り、馬具メーカーの革職人が代わりにカバン制作などへ移っていった歴史を、この馬は伝えています。

 右側の円筒部分には、様々な素材や質感の革・布を使ったカバン型の飾りが並んでいます。こちらの館内は写真撮影OKなので、インスタ映えスポットになりそうです。

 その隣には「素材のいろいろ」として、珍しい爬虫類や魚類の加工皮革(エキゾチックレザー)を展示。革の裏面に説明書きが書いてあるので、そっとめくってみましょう。

 左側壁面はカバンの誕生〜発展の歴史を紹介するパネルになっていました。カバンが文明の発展やファッション、日常の普段使いから富・権力の誇示まで、さまざまな形で人類史に関わっていることが、事細かに示してあります。

 パネルの下には、同じ内容が英語で記載されています。インバウンド向けのホスピタリティもばっちりですね。

 円筒部分のさらに内側は、カバン製品の部品や製造を解説するコーナー。

 ビジネスバッグやスーツケースの製造工程、カバンの種類とパーツの名称、さまざまな形の部品、豆知識などをワンフロアで楽しめます。

 エース(株)が販売する日本製ラゲージブランド「プロテカ」のスーツケースを細かく分解して並べた展示は、けっこうなインパクト。スーツケース完成後の微調整は機械化・自動化が難しく、現在も職人さんの手作業だそうです。また、エース(株)は独自の品質管理研究所を持っており、見た目や性能が優れているだけでなく、過酷な衝撃テストや耐久試験を経て品質保証しています。

 形も色もよりどりみどりなキャスター・ファスナー・ロックなどが並ぶ壁面は、クラフトワークを趣味や仕事にしている人なら感性に「刺さる」でしょう。学研などの科学図鑑や「○○のしくみ」「○○のひみつ」といった学習本が好きな人には、特に楽しめるコーナーです。

◆高級・カジュアル・個性的!さまざまな世界のカバンに会える

 創業者・新川柳作氏の所蔵品が並ぶ「世界のカバンコレクション」コーナーは圧巻!収集した地域別に分類された、膨大なカバンやスーツケースが一挙ディスプレイされています。

 カバンの一つひとつに製造国・時期・素材・用途・特徴・当時の世相などが書かれたキャプションがあり、知識欲の赴くまま、いくらでも読んでいられそう。カバン自体だけでなく、その背景にある知識や文化も集めて体系化した、新川氏の深い観察眼がうかがえます。

 ヨーロッパのカバンは、優れた技術で丁寧に作られた皮革製、またはキャンバス生地製などが多い印象でした。

 旅行やビジネス用途のものが多く、欧州内の国ごとに細かい違いがあるので、それを確かめるのも楽しさのひとつ。スタイリッシュで高級なカバンが多めで、仕事や旅行でこういうカバンを使う姿には憧れてしまいます。

 一方、アメリカ合衆国のカバンは欧州と近い印象ながらも、空前の好景気で工業大国となった20世紀初頭のギラギラ感や、合理的思考が反映されたデザインが強い個性として伝わってきます。

 ギターケースや宇宙開発関連など、アメリカンカルチャーが非常に色濃いものも。

 対してアジア・アフリカ・中南米などのカバンは、少数民族の伝統的な生活と文化に根ざしたものがメイン。ラクダなど家畜の毛による色とりどりの織物や、ヒキガエルやセンザンコウといった非常に珍しい皮革のカバンもあります。

 その土地の人々に愛用されてきた手触りや暖かみを感じる品々ですが、貧困や戦火、安い工業製品の流入などで、こうした工芸文化の多くが岐路に立たされており、その保護が課題にもなっています。

 日本のカバンは江戸時代から近現代まで展示されていました。日本のカバン文化は明治維新以降、西洋文化を貪欲に取り込んで発展し、その後も大正文化や高度経済成長など時代の節目ごとに躍進してきました。そして現在、カバン文化の最先端に立っているのが、浅草や台東区全体の皮革工芸産業です。

 江戸時代以前の長持(ながもち)と大正時代のキャビンなども。こちらは公家であり政治家の西園寺公望氏が使用していたという品で、氏の功績や威厳を匂わせるようなドッシリした存在感を漂わせています。

 なんと、ウナギやアナゴの革を使ったハンドバッグ&財布という珍品も!第二次大戦中に牛馬が軍部に回された時の代用品とのことで、戦時下の切実な生活事情を反映して作られたものですが、カバンを作った後で「中身」をどう処理していたのか気になりますね。やはり蒲焼きとか…?

 エース(株)が手がけた大阪万博のバッグや、1953年の映画「君の名は(前前前世な某アニメ映画ではありません)」で女優・岸恵子が使ったバッグもありました。カバン一つとっても、日本の文化や世相、イベントが多角的にうかがい知れます。

 国内外の著名人から寄贈されたカバンのコーナーには、プロレスラー・アントニオ猪木やフィギュアスケート選手・羽生結弦、読売ジャイアンツ終身名誉監督・長嶋茂雄の名前も!なんともそうそうたる顔ぶれです。

 展示の最後は(一社)日本皮革産業連合会の啓発キャンペーン「実は、革ってサステナブル。」のコーナー。このキャンペーンは昨年秋に上野公園で開催された台東区主催イベント「台東ファッションZAKKA祭2023」でも展示されていました。

 カバンや靴など工芸品に用いられる動物の皮革は、食肉用の家畜から採取して余さず活用し、製品寿命も他素材より長いので廃棄ロスが少なく、環境に優しい製品です。ヴィーガニズムなど「動物の命」に関わるさまざまな価値観が社会に併存するようになった現在、こうしたPRの取り組みは大事ですね。

◆見学後は8Fラウンジへ

 「世界のカバン博物館」を見学後は、エレベーターで8Fラウンジスペースへ。この階は広々としており、ベンチや椅子・テーブルもあるので、休憩にうってつけです。

 この時は、エース(株)の日本製スーツケースブランド「PROTECA(プロテカ)」が誕生から20周年となった企画展を開催中でした。

 安全・機能性・デザインすべて高水準なスーツケースを、実際に引っ張って感覚を確かめられる体験スペースも。試してみると、石畳の上を転がしても静かで滑らか。安物スーツケースのようにガタガタ揺れて音を立てることは全くありませんでした。欲しい…!

 そこに併設されているのが創業者・新川柳作氏の記念館。

 新川氏の生い立ちから成長、エース(株)の創業と発展、コレクション収集、国際的な繋がり、晩年までを紹介しています。

 展示内容からは新川氏が強い信念と情熱の人であったこと、著名人を含む国内外のさまざまな方々に支えられ愛されていたことが伝わってきます。「世界のカバン博物館」に比すると部屋面積はコンパクトながら、こちらも見応えありです。

 ラウンジの大窓から見る外の風景は、なかなかに爽快。道路反対側のビルに阻まれて隅田川はあまり見えませんが、東京スカイツリーの頭と青空を眺められます。

 「世界のカバン博物館」は無料とは思えないくらいの展示ボリュームで、来場者を飽きさせない穴場ミュージアムです。ものづくり製品の代表でもあるカバンから日本や世界各国の文化を知ることができますので、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

世界のカバン博物館(新川柳作記念館と併設)
【住所】東京都台東区駒形1−8−10 エース(株)東京店7・8F
【最寄駅】都営浅草線・浅草駅A1出口から徒歩1分
【開館時間】平日・土曜日/10:00〜16:30(※最終入場は16:00)
【定休日】日曜日・祝日(※年末年始休および不定休あり)
【料金】無料
【電話番号】03−3847−5680
【リンク】公式ホームページ

街歩きWebライター(東京都台東区)

カフェ・居酒屋探し、博物館・美術館見学、銭湯巡りや寺社探訪など、都心部の街歩きが大好き!特に都内で暮らし始めた頃に住んでいた浅草近辺、博物館・美術館が沢山ある上野界隈など、台東区内を月に2~3回は散策しています。東京23区でも面積最小ながら、歴史と見所が詰まった台東区の魅力を積極的に発掘・発信していきます!

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