自民党総裁選、気になる出馬表とスケジュール、そして選挙戦の展開は
永田町の多くの予想に反して、安倍総理が健康問題から辞職を表明しました。7年8ヶ月という長い政権がいよいよ終わりを迎えることになりますが、永田町はもう既に総裁選ムードに切り替わっています。本来は来年9月の予定だった総裁選が一気に前倒しされることになりますが、実質的に次の総理を決める総裁選の出馬表とスケジュール、そして総裁選の選挙における注目ポイントを今わかっている範囲の情報の中で、解説したいと思います。
実質的な総理選出である総裁選のプロセスは
まずは総裁選のスケジュールをみていきましょう。総裁選の日程は二階幹事長に一任されており、具体的には9月1日の自民党総務会において、総裁選をどのように行うのかが決定されると報じられています。既に共同通信が「自民総裁選、党員・党友票を省略して実施」と報じているように、総理の体調不良という状況を鑑みれば、国会議員と都道府県連各3票による投票で決定する方法もやむを得ないでしょう。しかしながら、総理は記者会見の中で、新しい総理が決まるまでの間は引き続き執務にあたることを表明したほか、記者の「いつまでは(新総理を)待てるのか」という質問に対しても「新しい総裁を選ぶまでは大丈夫」「政策論争をできるだけの時間はある」とわざわざ言及したことからも、筆者は党員・党友票を加えた本来の総裁選を行う方向でまとまるとみています。また、地方票に強いと言われている石破茂元幹事長は、「地方党員も交えた通常の総裁選挙の形で行うべき」との認識を示していることから、「本来の総裁選実施」を軸に、総裁選候補者の選挙戦略も絡んだ駆け引きが1日までは行われそうです。
国会議員と都道府県連による投票となった場合でも、コロナ禍において総裁選を普段通り実施できるかは不透明です。街頭演説や屋内施設に集客しての公開討論会は三密を形成するなどの理由から実施が困難でしょう。そうなると、インターネットやマスメディアを中心とした選挙戦の展開が中心になると思われます。通例、総裁選の告示から投票までは約2週間ですが、仮に総裁選の告示が9月7日までに行われれば、9月中に総裁の選出、臨時国会の召集、内閣総辞職、首班指名選挙、組閣ならびに自民党役員人事までを終わらせることがギリギリできるかもしれません。言い換えれば、自民党役員の任期が9月30日までであることを鑑みて、この党役員任期満了から逆算したギリギリのスケジュールでの組み立てを狙うことになるでしょう。
気になる総裁選の出馬表
まず、現時点で出馬への意欲を示しており、かつ派閥などの状況から推薦議員20名の確保がほぼ確実なのは、石破派の石破茂元幹事長、岸田派の岸田文雄政調会長、麻生派の河野太郎防衛大臣(五十音順)の3名でしょう。加えて、出馬の意向があると言われているのは、野田聖子元総務大臣と下村博文党選対委員長です。野田氏は以前から推薦議員20名の確保が課題といわれていますが、その意欲は永田町でもよく知られており、今回も20人の推薦議員確保に全力で動くでしょう。下村博文党選対委員長は首相出身派閥である細田派ですが、首相の意向が明らかではない中で、派閥の動きに左右されることが想定されます。このほか、菅義偉官房長官や西村康稔経済再生担当大臣などの声も上がっていますが、現時点では出馬の意欲や推薦人の確保について情報が錯綜しています。
また、今回の総裁選で選出される自民党総裁の任期は、安倍総裁の残余期間である1年程度です。従って、安倍総裁「3期9年」のうち約8年での交代、野球で言えば9回裏ノーアウトからの投手交代のようなものですから、クローザーとしての役割だけを担う総裁という意味では、副総理である麻生太郎氏の再登板という説も噂されています。仮にこの1年程度の総裁任期を、「実質的な選挙管理内閣」と位置づけるのであれば、冒険をしないクローザータイプの総裁選出で今の試合を終えて、コロナ対策をきちんと行った上で任期満了前に再度総裁選を実施し、来たる衆院総選挙を迎えるという選択肢も現実的にはあるでしょう。 安倍総理が今日の会見でも述べていたコロナ対策の継続は、これまで安倍政権に関わっていなかった目新しいメンバーで担当するには重たい案件でもあり、経済施策や東京五輪の開催可否といった問題のほか、米国大統領選や米中対立激化などの外部環境の目まぐるしい変化に対応できるだけの内閣を早期に構築できる人材は限られるかも知れません。
街頭演説のない総裁選でどう戦う
自民党総裁選といえば、総裁候補を街宣車に上げて行う街頭演説の絵を思い浮かべる人も多いでしょう。5人が立候補した2012年の自民党総裁選では、日本列島を横断するようなスケジュールで、連日のように街頭演説会や公開討論会が行われました。一政党の党首(総裁)を選ぶ選挙とはいえ、国会の議席から鑑みれば実質的な我が国の総理を選ぶ選挙ともいえるため、大々的なイベントとして連日のようにマスメディアも報道するなど注目と関心の集まる選挙戦になることは間違いありません。
ただし、今回の総裁選はコロナ禍の真っ最中に実施することになります。幸い、第二波は収束傾向とも言われていますが、未だに一部の都道府県は独自に緊急事態宣言を出しているほか、日に数百人の新規陽性者が確認されている現状では、三密を形成する街頭演説会や公開討論会の実施は非現実的でしょう。そうすると、総裁選自体も「withコロナ」で戦う必要が出てきます。安倍総理も今日の記者会見で「第二波が収まりかけている中で、このタイミングしかない」と述べたように、コロナの状況を注視しながらの総裁選となることから、本来の総裁選が行われるにしても、これまでの総裁選を踏襲する地方票の掘り起こし戦略とは別の戦略を考えなければなりません。
筆者が最も関心をもっているのは、総裁選においてどの候補者がマスメディアやインターネットといったメディア戦略をどれだけ短期間に構築し、他の候補者を圧倒するメディア・ジャックを実現できるかという点です。例えば、河野防衛大臣はtwitterでの発信が非常に長けており、その発信力やキャラクターに根強いファンも多くいます。石破元幹事長は従来から地方票を得意としていることから、地方紙・地方テレビ局を含めた取材応対などを丁寧にすることができれば、これまでの同じだけの票を掘り起こすことができるかも知れません。岸田政調会長は、これまでいわゆる「次期総理にふさわしい」投票やメディアの露出では、石破・河野両氏に後塵を拝してきましたが、総裁選という全国民が注目するイベントの中で、支持議員のネットワークを活用したメディア露出などを行うことができれば、認知度を高めることも可能でしょう。
いずれにせよ、総裁に求められるのは我が国をリードするリーダーシップであることに異論を唱える人は少ないでしょう。コロナ禍という異常事態において、自らがリーダーシップを兼ね備えているということを総裁選でどのように魅せるか、9月の総裁選はそこに注目したいと思います。