上流社会の新マナー、コロナ禍で最近よく見かけるチャールズ皇太子の「合掌」。米国では?
7月9日、英国ブリストル市にあるスーパーマーケットの配送センターを訪問したチャールズ皇太子夫妻のニュースが、アメリカでも話題になった。問題は同夫妻ではなく、出迎えたスタッフの男性だ。
男性は皇太子を前にして前後に大きく揺れ、突然後ろに倒れてしまった。倒れた原因は不明だが、貧血だったのかもしれない。男性はしばらくして回復し、皇太子との会話に戻った。
筆者はこのニュースを映像で見て、ほかにも2点注目した。1つは誰もマスクをつけていないこと。ニューヨークではほとんどの人がマスクをつけているから、誰もマスクをつけていない光景は意外だった。そしてもう1つは、チャールズ皇太子と別の女性のスタッフがお互い、合掌のように胸の前で手を合わせて挨拶したことだ。
Supermarket Worker Faints in Front of Prince Charles
皇太子夫妻はこの日、コロナ禍でも休みなく働いてくれているエッセンシャルワーカーの慰労のために訪れていた。
手を合わせる挨拶の仕方は通常、欧米では見られない。しかしコロナ危機になって、握手の代わりにアメリカ人がエルボーバンプやエアーハグを交わし始めたように、チャールズ皇太子は掌を合わせ始めたようだ。メディアでは頻繁に、皇太子のその様子が窺える。
ニューヨーク州のクオモ知事のエルボーバンプ姿
筆者が合掌するチャールズ皇太子の姿を初めて見たのは3月半ばのこと。この時期はまだパンデミックになって間もないころなので、皇太子もつい握手をしようと手を差し出してしまい、思わず「しまった」という愛嬌のあるジェスチャーで場が和やかに。出迎えた男性陣がお辞儀をしているのも興味深い。
米ヴァニティフェアの3月の記事では、チャールズ皇太子が手を合わせている写真を一面に使用し、「感染拡大を予防するため、皇太子は握手の代わりに掌を合わせるナマステというインドの挨拶習慣を取り入れた」とある。
71歳になる皇太子はこの記事から2週間後の3月下旬、新型コロナウィルスに感染、その後回復している。
6月5日の英ザ・テレグラフも「握手の代わりにヒンズー教徒の挨拶、ナマステが新たなエチケット」とし、3月にセレブと対面し手を合わせてお辞儀をした皇太子の様子を報じた。
これら「ナマステ」の表現について、筆者は当初思いつかなかった。インド人だけでなく、タイ人も挨拶で手を合わせる。そして日本人にとっての合掌は、いわんや生活の一部だ。仏壇の前、神社やお寺で、また謝罪や頼みごと、食事の挨拶など、さまざまなシーンで掌を合わせる。
(ちなみにニューヨークに住む筆者の知人のチリ人も、ある日レストランで「もう1杯水が欲しい」とサーバーにお願いする際、手を合わせていた。チリでもそのような習慣があるのか聞いたところ、彼女だけのようで、いつしかその習慣がついたということだった)
参照記事
東洋経済オンラインの記事「日本人が何気なく多用する「合掌」本当の意味」が興味深い。「合掌は元来インド古来の礼法で、仏教を通じて日本に持ち込まれた。日本人にとっての合掌は、目には見えないはたらきへの感謝の体現」とある。
アメリカ人はどうかと言うと、コロナ以前にも筆者が日本人だと知って、おどけて合掌/ナマステをする人はたまにいたが、基本的にはパンデミック以降もそれらをする習慣はない。ある友人に聞いてみたら、合掌のような異国の習慣は神秘的に見えるということだが、実際に習慣として取り入れるまでには至ってない。
トランプ大統領はどうなのかと調べてみたら、日常的な挨拶で合掌/ナマステをしている様子は確認できなかった。しかし3月半ばにホワイトハウスで行った会見で、合掌/ナマステをしていた!ただし実際の挨拶ではなく、ジェスチャーを交えながら説明をしている。
「握手なしで別れるのは何かまだ変な感じだが、インドも日本も握手の習慣がない国はコロナの抑え込みがうまくいっていますね」とトランプ氏。隣は当時アイルランドの首相で現副首相のレオ・バラッカー氏(インド系アイルランド人)。
このエピソードについて触れたインドの英字紙ヒンダスタン・タイムズは「ナマステの持つ本来の意味が何であれ、インドの挨拶の仕方は今や世界のお気に入りになりつつある」とした。
最後にイギリスの話に戻るが、チャールズ皇太子がよく行っていることで上流階級の人々にとっても新たな挨拶のスタンダードとして合掌/ナマステが浸透しつつあるのか気になったので調べたが、エリザベス女王やウィリアムズ王子らがそれらをしている様子は確認できなかった。今のところ、皇太子だけが自発的に行っているようだ。
冒頭のニュース動画では、女性が自ら皇太子に対して合掌/ナマステをしている。今後、欧米のニューノーマル(新たな日常)として、もっと広まっていくのかもしれない。
- 追加しました。
(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止