Yahoo!ニュース

終了は来年5月?スペイン2度目の非常事態宣言の深刻度

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
軍事用語「戒厳令」を避けて「夜間外出禁止」と政府は苦しい言い換え(写真:ロイター/アフロ)

25日18時24分、スペインで再び非常事態宣言が出された。状況は深刻だ。21日には、欧州で初めて累積感染者数が100万人を超えた国となったばかり。

最新の感染状況を見てみよう。

感染拡大具合は日本の20倍から30倍

保健省による25日現在のデータによると、累積感染者数は104万6132人、同死者数は3万4752人。日本と比較すると、感染者数で約11倍、死者数で約20倍。それでいてスペインの人口は日本の約4割なのである。

10万人当たりの直近1週間の新規感染者数を比較すると、例えば首都マドリッドは209.46人で東京は7.65人。約27倍の違いがある。都道府県別で最も多い沖縄県は17.14人で、スペインの自治州別で最も多いナバーラ州は558.53人で約32倍の違いがある。

ちなみに「感染率が低く安全」とみなされて、今回非常事態宣言の対象から外されたカナリア諸島でさえ沖縄県の約2.5倍である。

大まかに言って、スペインの感染拡大具合(ペース)は“日本の20倍から30倍”と言える。

23時外出禁止でこの国の飲食は壊滅

こんな状況で出された非常事態宣言はどんな内容か? 柱は2つ。

1つは夜間外出禁止。

政府決定は23時から翌6時までだが、これは各自治体の判断で1時間前倒しまたは後ろ倒しにできる。例えば、バルセロナのあるカタルーニャ(10万人当たりの直近1週間の新規感染者数223.61人)では1時間前倒しされ、22時から翌6時までとなっている。

外出禁止はいわゆる深夜営業のディスコなど「夜の街」以外の一般のレストランやバー、カフェにも壊滅的な打撃を与えるだろう。

というのも、この国の平均的な夕食の時間は21時であり、夕食が18時の日本で言えば、23時というのは“夜の8時”に相当する。しかも、“夜の8時”に帰宅済みでないといけないとなると、”7時過ぎ”には帰り支度である。

加えて、飲食店でのマスク着用の強化もマイナスに働くだろう。

この国では8月中旬から屋内屋外を問わず、ソーシャルディスタンスを守っているか否かを問わず、マスク着用が強制されているが、このルールはどんどん厳しくなっていき、屋外のテラス席でも喫煙が禁止(喫煙中マスクを外すから)されたのに続き、飲み食いしている間以外でのマスク着用が義務となった。

これはつまり、“マスクを外し一口飲んだり食ったりした後マスクを着け直せ”ということである。そうしないと罰金で、23時までに帰宅できないとさらに罰金。

あなたならそこまでして外食しますか? 私ならノーだ。

前回と比較。制限は緩いが期間が長い

非常事態宣言の柱のもう1つは、移動制限。

判断は自治体に任されているが、市単位、県単位、州単位で、その中での移動は自由だが、外に出ることはできない。例外は、必要不可欠な理由(仕事、学業、医療)だけで、それぞれ越境を正当化する証明書がいる。

これに対し、前回(3月)の非常事態宣言時には、必要不可欠な活動以外は家から出ること自体が許されなかった。開いているのは役所、金融機関、スーパー、薬局、病院だけ。買い物や銀行へ行く時でも家から1km以上、1時間以上の遠出は禁止されていた。

それから比べれば今回の非常事態宣言はずい分緩い。日中は自由に出歩け、店や飲食店も開いているのだから。

ただ問題は、政府は来年5月まで、なんと半年間も非常事態宣言を自動延長しようとしている点。前回は2週間ごとに国会で延長の是非を議論していたが、今回はその手間を省こうというのだ。

非常事態ではある。

だが、議会の信を問わず民主的な手続を踏まない強引なやり方に、野党から批判の声が出ているのは当然だろう。

基本的人権(移動や行動の自由)を合法的に制限できるコロナ禍は、独裁に利用されかねない。その一つの例である。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

木村浩嗣の最近の記事