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【夫婦別姓議論】女性にも 継がなきゃならない 姓がある

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(写真:アフロ)

選択的夫婦別姓に興味を持って調べていたところ、「実家の名前を継承したい姉妹の会」(略称:姉妹の会)の存在を知りました。

「姉妹の会」では、実家の名前を継承したいと願う女性たちのために、あらゆる方策を検討するよう国に求めています。方策の一つに、夫婦の氏を統一しなくても結婚できるようにする制度があると考えているそうです。

いわゆる選択的夫婦別姓制度に賛成の人は少なくありませんが、もし制度ができたら自分が別姓にするという人はそれほど多くはありません。自分は別姓にする予定はないけれど選べる制度なら無いより有る方が良いんじゃない?とか、隣家の夫婦が別姓にするのは別に構わない、という軽い賛同の人が大半だと思います。では、実際に制度ができたら利用したいと思っているのはどういう人たちでしょうか?

B家の名前は途絶えてしまいます。
B家の名前は途絶えてしまいます。

ほとんどの場合、結婚で女性が改姓するので、例えば上にある図のようなケースではB家の名前は途絶えてしまいます。現状で、花子さんや桜子さんが実家の名前を継ぎたいと思ったら、相手の男性に改姓してもらわなくてはなりません。しかし、姓Aの健太さんが改姓したら、A家の名前が途絶える可能性が高くなります。

姓Cの一郎さんが改姓したら、C家の名前は二郎さんが受け継ぐかもしれませんが、改姓する男性は珍しいので、一郎さんが世間の無理解に苦しんだり、一郎さんの親が心配したり悲しんだりするかもしれません。

もし、夫婦双方の名前を残せる制度ができれば、花子さんや桜子さんはその制度を利用することにより、男性に改姓してもらわなくても結婚できるようになります。

「姉妹の会」によると、実際に別姓で結婚できる制度ができたら自分は別姓にするという女性には、男兄弟がいない人の割合がとても高いそうです。つまり、一人娘、二人姉妹、三姉妹など、跡継ぎ娘的な立場の女性たちが切実に制度を求めているのです。

世間では、選択的夫婦別姓制度は主に働く女性のためと思われているようなので、世間の認識と現実の当事者像との間にズレがあることになります。最近は働く女性が増えたこともあり、「働いているから」という理由が前面に出がちですが、名前が理由で結婚できない、結婚で改姓したことで日々死ぬほど苦しい、という「働く女性」に、よくよく話を聞いてみると、実は姉妹の長女さんだったなどというケースが多々ありました。しかし、本人もそのこと(自分が跡継ぎ娘的な立場だから名前にこだわる)に気がついていない場合も多く、「実家の名前継承のため」=「悪いこと」という感覚の人もいるようでした。

名前を変えずに結婚できる制度が長年実現しないので、事実婚という方法で目の前の問題を解決していく方々が多くいます。とりわけ共働きの場合は事実婚のハードルが低くなるようです。事実婚では周囲に祝福してもらえない人や主婦など、ある意味、保守的な環境の人ほど困っていると感じました。

「姉妹の会」では、実家の名前を継承したいと願う女性たちの声を国会議員に届ける活動をしていて、ウェブサイトでは当事者の方々の声を集めています。このサイトでは、親の名前を継ぎたいと思うことは悪くないんだよ、自然なことなんだよ、というメッセージも発信しています。一人で悩んでいる当事者を勇気付けたり、こういう悩みを抱えている人たちもいるのだと世間に知ってもらう一助になれば幸いです、と「姉妹の会」事務局の女性が話してくれました。

この会は「姉妹の会」という名称ですが、一人娘さんや、男性(女の子しかいない家の父親、一人娘さんとお付き合いをしている男性など)の声も集めています。

「実家の名前を継承したい姉妹の会」

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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