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ラーメンが好きすぎて替え玉13玉の過去。200キロ超の巨漢・臥牙丸が語る引退後の日々

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:ロイター/アフロ

11月に現役を引退した、元小結・臥牙丸のインタビュー後編。ここでは、日本での文化の違いによる面白話や、巨漢力士ならではの豪快エピソード、さらには今後の日本での活動について話を伺った。

(前編はこちら

ガガちゃん仰天エピソードの数々

――日本に来て、言葉はどう覚えましたか。

「僕は人が好きだったから、コミュニケーションをどうしてもとりたくて、しつこくてもいいから兄弟子にも声をかけて話して、あとは気楽にしゃべれる酒の席で覚えていった。字はいまも読めないから、勉強したらよかったな。当時、おかみさんが、いろいろな本を持ってきてくれたんですが、強くなりたいのと話せるようになりたいという気持ちしかなかったので、いま思うと残念でした。読み書きは大事なんですよ…騙されそうだから、絶対書類とかには何にもサインしないんです」

――それは賢明です(笑)。日本の文化などで、好きなことはありますか。

「日本のジョークが大好き。松本人志さんとか、頭の回転が速いし、いろんな言葉からいろんなジョークが生まれるのがすごいなと思っています。すべらない話はよく見ます。引き出すのも話すのも、みんな上手。言葉の天才だと思います」

――逆に、日本がジョージアと似ている点は何かありますか。

「ジョージアも、日本のように歴史の古い国なので、物事一つ一つを全部大事にしているところは似ていて感動しました。それでも日本独特なのは、例えば先輩後輩の関係、尊敬の心。それで自分も強くなれるのが素晴らしいなと思っています。特に、先輩後輩の文化はジョージアにはなくて、でもそれのおかげで立派な日本が生まれている。いまはちょっとずつ『平和』とか『パワハラ』とかでその形が崩れてきているけど、日本はこの文化で立派な国になっているんだから、このままでいいのにって思います」

――日本に来て驚いたことはありますか。

「みんなどうやって覚えているんだろうってくらい、道が全部似ていること。新弟子の頃、道に迷ってやっと部屋に着いたら、親方が『迷子になったら探すのが大変だから、一人で出歩くのはもう禁止』って。心配してくれたんですが、道に迷ったって言わなきゃよかった!って思いました(笑)」

――たしかに、慣れるまで難しいですよね。

「あと、買い物に行ったら、チーズめっちゃあるし、安い!って驚いたんです。うれしくて5~6個くらい買って帰って、食べてみたら豆腐だった(笑)。豆腐っていうもの自体、知らなかったんですよ。このチーズ、味ないなあと思いながら食べていて、自分のことが嫌になった。みんなも”No cheese! No!” って叫んでいましたね(笑)」

――見た目はたしかにチーズにも見えるかも…。あと、関取はラーメンが好きと伺いましたが。

「親方が熊本出身で、僕が前相撲のとき、九州場所の宿舎が熊本なんですが、親方のお父さんがやっているラーメン屋さんに連れて行ってもらったら、めっちゃハマったんです。そのとき体重は145kgだったけど、ラーメン食いすぎて東京戻ったときには160kgくらいになっていた。そこからずっとラーメン大好きです。お酒を飲んで、朝帰りで替え玉13玉いきました。3回に1回くらいはスープ足してくれていた。いまも食べようと思えばいくらでも食べられるけど、ダイエットしているから食べません」

今後の活動――日本への恩返しがしたい

――引退して、いまはダイエットしているんですか。

「はい、先月20日から。なぜかというと服もサイズがないし、もう力士じゃないのにって、急に自分の体がすごく嫌になったから。先月は206kgで、そこから193kgまで下げたんですけど、それでもまだめちゃくちゃある。病院にもちゃんと行って、最初は1日1000kcalとか、1日1食のダイエットを頑張りました。最初はすごくつらかったけど、もう慣れました。ご飯をオートミールに変える、脂っぽいものを食べない、サラダを添えるとか。いままで絶対歩きたくなくて、自転車かタクシーにすぐ乗っていたけど、いまは膝も歩きやすくなったので、少しずつ生活しやすくなってきています。着たいものを着られる日を楽しみにしたいです」

ダイエット中だという現在の食事。オートミールや魚、豆腐、野菜類など、かなりヘルシー(写真提供:本人)
ダイエット中だという現在の食事。オートミールや魚、豆腐、野菜類など、かなりヘルシー(写真提供:本人)

――引退後も日本に残ろうと思ったのはなぜですか。

「断髪式もいつかしたいし、いままでお世話になった人、かわいがってくれた人たちへの思いが大きくて、相撲をやめたからってすぐ帰ることは考えられなかったんです。自分のできることがあれば、みんなのそばで過ごしたいし、日本のことも、日本人も好きなので、帰る気持ちにはならない。帰るのは一番簡単なことなんですよ。毎日飛行機飛んでいますから(笑)。34歳で初めて社会人になって、ゼロから学ばなきゃいけないけど、なるべく日本にいられるように頑張りたい」

――どんなお仕事をしてみたいですか。大相撲中継の解説なんか、ピッタリなのでは。

「解説は、字が読めないからできないけど、バラエティー番組とかには出たいです。でも、ファンと近くにいたいから、YouTubeもやってみようかなと思って、詳しい人に編集の仕方を聞いています。あとは、コロナが落ち着いたらですが、日本相撲振興財団経由で、京都で外国人観光客向けに相撲を見せるイベントなんかもやりたいです」

――夢が広がりますね。日本に残って活動していくというのも、日本人として本当にうれしい限りです。これからも応援しています。

「ありがとうございます。自分の大人の人生は、日本に育ててもらいました。いままで応援してくれた皆さんもいるので、その縁を大事につなげたい。自分が楽しいことも、お客さんに喜んでもらうことも好きだったので、これからもそうやって生きていけたらいいなと思っています」

筆者(写真右・身長173cm)と比べても、ガガちゃんの大きさは一目瞭然。お忙しいなかありがとうございました(取材協力:Riverside Ryogoku)
筆者(写真右・身長173cm)と比べても、ガガちゃんの大きさは一目瞭然。お忙しいなかありがとうございました(取材協力:Riverside Ryogoku)

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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