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バスケットボール本拠地に大相撲ファン1万人が集結!5年ぶり開催の大相撲沖縄巡業を徹底リポート

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
沖縄巡業の土俵でリラックスした表情を見せる力士たち(写真:すべて筆者撮影)

去る12月21日、沖縄市にて2024年大相撲最後の冬巡業が開催された。普段はBリーグ琉球ゴールデンキングスの本拠地として使われている沖縄アリーナは満員御礼。なんと1万人の来場者を集め、盛況のうちに幕を閉じた。

今回は、そんな沖縄巡業の様子を筆者の目線から徹底リポート。当日の写真と共にお届けする。

巡業も沖縄色に! のんびり流れるうちなータイム

初雪舞う東京から、気温20度の晴れた島へ――。冬の沖縄の青い空は高く澄んで、力士たちを歓迎してくれた。うるま市での巡業以来約5年ぶりの沖縄巡業。会場は、バスケットボールの琉球ゴールデンキングス本拠地「沖縄アリーナ」。Bリーグ強豪チームの本拠地とあって、天井高く広々とした設備がまぶしかった。

開場前の様子。チケットは完売で多くのファンが詰めかけていた
開場前の様子。チケットは完売で多くのファンが詰めかけていた

沖縄らしさは随所に垣間見られた。まずは、伝家の宝刀「うちなータイム」。地方巡業は通常、朝9時頃開場し、午後3時頃打ち出し(終了)のことが多いが、今回はなんとお昼の12時スタート。会場が那覇から高速バスで約40分だったため、前の晩はアリーナ横のホテルに宿泊したのだが、これだけ開始が遅ければ、後泊する那覇のホテルに連泊しても十分間に合っただろう。

会場の外にはキッチンカーがずらり。ポークたまごなど沖縄らしいものもあり、昼過ぎには力士たちも並んでおやつを買っていた
会場の外にはキッチンカーがずらり。ポークたまごなど沖縄らしいものもあり、昼過ぎには力士たちも並んでおやつを買っていた

1万人規模の会場が満員御礼となった今回の巡業。しかし、来ているお客さんは、どこかちょっぴりのんびりモードである。力士にサインや写真撮影をお願いする際でも、大勢が一度にわっと群がることがない。ぽつり、またひとりぽつりとやってきては、少し遠慮気味に声をかけ、対応してもらったらニコニコと帰っていく。ぽかぽかと温かい沖縄の空気は、やはりどこかゆっくりと流れているのだった。

なかいまさんと力士たちの交流

ちなみに、今回筆者は、単行本の監修とコラム執筆をさせていただいているご縁で、マンガ『うっちゃれ五所瓦』(小学館)作者のなかいま強さんの取材に同行した。アマチュア相撲をテーマにした初期作品の続編『うっちゃれ五所瓦 粘り腰編』が、現在『ビッグコミック』で連載中だ。大相撲の世界に舞台を移した今後の作品制作の参考にするため、初めて地方巡業を訪れるなかいまさんをご案内した。

午前中から土俵で汗を流していた力士たち。開場直後はまだ空席が多かった
午前中から土俵で汗を流していた力士たち。開場直後はまだ空席が多かった

支度部屋を訪れ、リラックスモードの力士たちに声をかけて回る。どんなに若い力士でも(22歳の熱海富士でも!)、30年以上前に描かれた『うっちゃれ五所瓦』を知らない者はいない。相撲経験者にとってのバイブルなのだ。琴櫻や大栄翔、翔猿ら埼玉栄高校出身者は「栄の寮に置いてありました!」と異口同音に教えてくれた。少年時代に読んだマンガの作者を前に、興奮を隠せない力士たち。同時に、「こんなにもみんなが知っていてくれてうれしい」と、なかいまさんもニコニコだ。こうして(たまには)皆さんのお役に立てた筆者も、このときばかりは喜ばしい限りであった。

他競技との融合 沖縄文化との融合

土俵に目を移すと、まず目に飛び込んできたのは、見慣れた吊り屋根ではなく四方に設置された巨大なモニターだ。中にはさらに小さめのモニターが隠れており、1階席のお客さんも下から見上げることができるようになっている。稽古や取組の際、力士たちの表情が鮮明に見えるだけでなく、生観戦しながらスロー映像を見ることまでできて非常に画期的である。吊り屋根があるとなかなか難しいかもしれないが、本場所でもモニターを設置できたら、野球やバスケットボールのように、物言いの最中に流れるスロー映像を見ながら盛り上がれるだろう。なかなか面白そうである。

土俵の上の巨大モニター。中にもさらにモニターがある
土俵の上の巨大モニター。中にもさらにモニターがある

土俵上は、地元の子どもたちと関取衆の稽古、相撲甚句や髪結い実演、初っ切りなどと花相撲の演目が続いていく。

地元の子どもと触れ合う琴櫻(写真左)と豊昇龍
地元の子どもと触れ合う琴櫻(写真左)と豊昇龍

初めて巡業を観戦したなかいまさんの感想は「ひとつひとつの演目が、思ったよりもしっかり長くて面白いね」。櫓太鼓の打ち分けでは、それぞれの太鼓の意味や打たれる場面の違い、髪結い実演では、髷が崩れないような結い方や床山が使う櫛の種類などを、アナウンス担当の行司が説明してくれるのだが、どれも初めて聞けばポンと膝を打つ興味深いものである。ただ見るだけでなく、そういった解説をなかいまさんが面白がって聞いてくれていたことが、筆者には新鮮でうれしく思った。

相撲の禁じ手を面白おかしく紹介する「初っ切り」
相撲の禁じ手を面白おかしく紹介する「初っ切り」

幕内上位の力士は、トーナメント形式で取組を実施。その前には、巨大モニターと暗転した照明を駆使したクールな演出もあり、バスケットボール文化の洗礼を受けた。演出の一部で三線の軽快な音色が流れた瞬間、お客さんたちが自然にカチャーシー(沖縄民謡に合わせた踊り)を踊り出す光景は、まさに沖縄ならでは!幕内力士の迫力の取組を、お客さんたちも最後まで存分に楽しんでいた。

行司さんも上機嫌 地方巡業の意義

沖縄の赤土を使った、普段より赤い土俵を後にし、なかいまさんとも年の瀬の挨拶を交わした翌日。偶然、一部の力士・関係者らと同じ飛行機で帰ることになっていた筆者は、空港のレストランで二人の行司さんに遭遇した。先の番付発表で、立行司・式守伊之助に昇格した木村庄太郎さんと、三役格行司の木村寿之介さんだ。出発ロビーで搭乗を待つ力士たちは、冬巡業最後の日程を終えてちょっぴりお疲れの様子で各自スマートフォンとにらめっこしていたが、お二人は打って変わって上機嫌だ。「1万人以上のお客さんの歓声のなかで土俵に立つと気合が入るね」と、今回の巡業の盛況ぶりを喜んでいたのだ。

特に、バスケットボール好きの庄太郎さん改め伊之助親方。「沖縄アリーナは恒例にしたらいいし、今度は千葉ジェッツや宇都宮ブレックスの本拠地でもやったらいいよね」と鼻息が荒い。ニコニコ優しい笑顔で相槌を打つ寿之介さんも「やっぱり満員のお客さんが入る場所でできるのはうれしいし、何より力士が気合入っているのを見ると面白いね」と笑う。明るいお二人の話を聞きながら、筆者はほくほくと温かい巡業の余韻に浸った後、いつもより少しずっしりとした空の旅で帰路に就いた。

本場所とはまた違った楽しみがある地方巡業。力士たちの体の負担を一番に考慮しつつ、本場所に来られない地方のファンのための大切な興行として、これからも続いていってほしい。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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