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大阪市の「市立学校活性化条例」が「学校減らし条例」に!?

幸田泉ジャーナリスト、作家
休日に小学校の運動場で地元住民がソフトボールの練習=大阪市生野区、筆者撮影

 現在、開会中の大阪市議会に大阪市立学校活性化条例の「改正案」が上程されている。小学校の学級数は12~24が適正規模であるとし、「教育委員会は適正規模にするよう努めなければならない」と定める条文を加える改正案だ。全学年が2学級そろわない、1学年1学級しかない小規模な小学校は、条例によって統廃合される。

 現在、大阪市内には289の市立小学校があり、11学級以下は84校。3割の小学校が統廃合の対象となる。

 条例改正によって学校再編を進めやすくするのは、2020年1月15日、市長と教育委員の協議機関「大阪市総合教育会議」で方針が決まったばかり。その改正案が2月7日に開会した市議会で可決される可能性もあり、統廃合対象の小学校がある地元からは「条例改正は寝耳に水。今月の市議会で結論を出そうとするのは、あまりに拙速で強引だ」と声が挙がっている。

■大阪市生野区西部の小学校は大ピンチ

 条例改正の動きに反応し、大阪市生野区の地元住民で作る「生野区の学校統廃合を考える会」は2月4日、市議会に「地域、保護者の合意を尊重し、強引な手法をとらないことを求める陳情書」と6554筆の署名を提出した。

 大阪市生野区は特に西部地域で学校の小規模化が進行してきた。西部地域には現在12の小学校があるが、「学級数の適正規模は12~24」をあてはめると、12学級以上があるのは1校しかなく、この1校も将来的には学級数が減少すると推計されている。

 2010年2月に大阪市学校適正配置審議会が出した答申は、今後、11学級以下になることが見込まれる小学校も「適正化」の対象としており、生野区西部地域では12校すべてが統廃合の対象だ。

 生野区役所と市教委事務局は2016年2月、「生野区西部地域学校再編整備計画」を策定し、翌月、区の広報紙で公表。12小学校を四つにする大規模な統廃合計画だった。「生野区の学校統廃合を考える会」の室谷雄二事務局長は「いきなり区の広報紙に載って驚いた。小学校は子供たちの学習の場であるだけでなく、地域コミュニティの核であり、災害時は避難場所にもなる。簡単に3分の1に減らしていいのか」と憤る。この再編整備計画を巡り、2018年3月、大阪市議会に白紙撤回を求める陳情をする際、生野区の連合振興町会長らが集まって「生野区の学校統廃合を考える会」が結成された。

 

小学校の図書室で英会話講座を開催=大阪市生野区、筆者撮影
小学校の図書室で英会話講座を開催=大阪市生野区、筆者撮影

 生野区は小学校で生涯学習の講座やスポーツも盛んに行われており、学校が無くなるのは地元住民の活動にダメージが大きい。

 生野区選出の武直樹市議(無所属)は「行政側は2014年ごろから地元に説明してきたと言うが、全く形だけのアリバイ作りのようなことしかしていない。再編整備計画を作るプロセスに住民はほとんどかかわっていない。反発があるのは当たり前だ」と指摘する。武市議は地元住民と行政の間をつなごうと努力したが、「行政側は住民意見に聞く耳を持っているようで、実のところ計画は1ミリも変えようとしない。住民の合意形成どころか、生野区内では統廃合に容認派か反対派かで分断が進むという不幸な結果を招いてしまった」と話す。

■老若男女が集まる「地域の拠点」としての小学校

小学校の体育館を使いバスケットボールの試合=大阪市生野区、筆者撮影
小学校の体育館を使いバスケットボールの試合=大阪市生野区、筆者撮影

 2月中旬土曜日の大阪市立舎利寺小学校(大阪市生野区勝山南)。午前中の図書室では中高年が集まる英会話教室が開かれ、一方、体育館では大人と子供が入り混じってバスケットボールの試合が行われていた。午後になると、運動場で幼稚園児から大人まで参加してソフトボールの練習が始まった。

 「生野区の学校統廃合を考える会」の代表で、舎利寺連合振興町会の猪股康利会長は「みんな舎利寺小学校を拠点として集っている。こうした活動があるから、地域の連帯も強くなるし、みんなで子供たちに係わり、育てていこうというコンセンサスができ上っていく」と言い、自身も通学児童の見守りや、地元企業などの協力を得て子供食堂の運営を行っているという。

 舎利寺小学校の児童数は約200人、学年によっては30人未満の単学級もある。再編整備計画では、クラス替えできない単学級や児童数が少ない教室は「人間関係が固定化し、多様な意見を聞く機会がなく、切磋琢磨できない」とされている。

 猪股会長は「小規模校には子供たちがしっかり見えて、きめ細かい指導ができる良さがある。小規模校の児童が不幸なのか、区長や教育委員会にはこの学校現場を見てほしい」と訴える。

 大阪市立学校活性化条例の目的には「学校が児童並びに保護者及び地域住民の意向を斟酌し、教職員が能力を十分に発揮することにより、学校が児童等の活気あふれる場となるようその運営を行い……」と書かれてある。

 地元の合意なしに小学校の統廃合を進めようとする条例改正は、この目的に反していないだろうか。

 

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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