ロシア軍がイスラム国空爆にテルミット焼夷弾を使用か
11月末にシリアのイスラム国の本拠地ラッカで夜間に「多数の光」が確認され、現地からはロシア軍によって「白リン弾」が使用されたと騒がれています。実は11月中旬にもイドリブで同様の攻撃が報告されています。しかしこれは本当に白リン弾なのでしょうか?
というのも、シリアでは3年前にも白リン弾騒ぎがあったのですが、その正体は白リン弾ではなく航空機用のロシア製クラスター・テルミット焼夷爆弾「RBK-250 ZAB-2.5」であることが判明しています。今回も同じものが使用された可能性が高く、幾つか根拠を例示してみます。
- ラッカはイスラム国の勢力範囲の奥深くにあり空爆か巡航ミサイルでしか攻撃できない。
- クラスター型の白リンを搭載した航空機用の爆弾や巡航ミサイルはどの国にも存在しない。
- 榴弾砲の白リン煙幕弾や多連装ロケットのテルミット焼夷ロケット弾はラッカに届かない。
この時点で白リン弾である可能性は著しく低くなります。ラッカを攻撃できる兵器でクラスター型の白リンを投射する手段そのものが無いのです。榴弾砲の白リン煙幕弾や多連装ロケットのテルミット焼夷ロケット弾には空中で拡散するクラスター型のものがあり、夜間に使用すると「多数の光」となって見えます。しかしこれは届きません。
次に実際に撮影された映像の光点を数えてみます。夜間なので光が滲んで不正確ですが、纏まった一群に約50発ありました。
実はロシア製クラスター・テルミット焼夷爆弾「RBK-250 ZAB-2.5」には内蔵された子弾の数が48発あります。光が滲んでいて数え間違いや重なっている部分もあるとすると、写真からの計測では50発前後で断定はできませんが、「RBK-250 ZAB-2.5」である可能性が高いのではないでしょうか。2012年から2013年にシリアで多数確認された焼夷兵器は撃ち尽くしたのか2014年以降はほとんど確認されてきませんでしたが、最近になってロシアから再供給があったのか使用例が増え始めています。
そしてクラスター・テルミット焼夷爆弾「RBK-250 ZAB-2.5」は攻撃用に設計された焼夷兵器であり、アメリカ軍やイスラエル軍が過去に使用した白リン弾(榴弾砲から発射される煙幕用のM825A1)よりも遥かに殺傷力が高く問題とされるべき物です。M825A1は特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の付属議定書3に指定される焼夷兵器の定義に該当しませんが、「RBK-250 ZAB-2.5」は明確に焼夷兵器に該当します。
しかし過去に白リン弾ばかりが有名となってしまい「多数の光」を発する兵器は何でも白リン弾扱いされてしまう事例が増えた結果、強力なテルミット焼夷弾やナパーム弾が問題視されずに使われてもいない白リン弾が騒がれるという、本末転倒な事になってしまっています。
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