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「2往復すれば朝になる!」 距離わずか20kmの津軽鉄道で一晩かけて運転された夜行列車。

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

青森県の津軽鉄道はストーブ列車で有名なローカル線。

でも、それは冬のお話で、夏の間はストーブ列車の車両はお休み状態。

もったいないなあと思っていたら、3月に津軽鉄道の社長さんから、「夏に何か面白いイベントをやりましょう。」と筆者のNPOにお話をいただきました。

ということで企画したのが今回の夜行列車。

一晩中列車の中で揺られて過ごすあの夜行列車が8月4日の深夜から5日の早朝にかけて運転されました。

津軽鉄道の本社がある五所川原は立佞武多(たちねぷた)で有名なところ。

8月4日から始まるこの立佞武多のお祭り期間中、五所川原市内はホテルはどこも満室で宿泊施設が不足します。そこで列車を丸ごとホテルにしてしまおうというのが津軽鉄道の澤田社長さんのお考えでしたが、筆者はせっかくストーブ列車の客車があるのだから、その客車を使って列車を走らせましょう。ただ止まっているだけじゃ面白くありませんから、やっぱり走らないと、ということで夜行列車を運転するという話になりました。

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昭和20年代に作られた国鉄の古い客車。

昭和50年代に津軽鉄道が国鉄から譲り受けて今でも大切に使われています。

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その旧型の客車を使った夜行列車ですから列車名はもちろん「津軽」。

昭和の時代に上野から奥羽本線経由で青森を結んでいた急行列車の再現です。

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今回はツアー形式での募集でしたが、列車がホームに入線すると参加された62名の方々がホームで色めき立ちます。

ちなみに参加料金は一人18000円!

現地集合、現地解散ですからもちろん青森までの交通費はそれぞれ別途かかります。

そんな「高額商品」にもかかわらず62名様にご参加いただきまして2両編成の客車はほぼ満席状態で出発しました。

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今回は筆者のNPOの支援で客車の車内灯を白熱灯色に変更しての運転ですので昭和の時代の雰囲気満点の旅です。

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▲発車前の夜行列車の車内

ストーブ列車に使用する客車です。もちろん夏ですから火は焚きませんが、ストーブはそのまま設置されています。

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▲出発前に参加者に御挨拶する津軽鉄道の澤田長二郎社長さん。

今年80歳になられる現役バリバリの経営者です。

今回の企画の特徴は立佞武多への参加

このツアーの特徴は希望者は立佞武多に曳き手として参加できること。

津軽鉄道さんが窓口となって五所川原市が募集する立佞武多の曳き手として登録した希望者18名が夜行列車の発車前、午後7時ごろから2時間ほどお祭りに参加しました。

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町中を練り歩く立佞武多。

青森県内ではこの時期各地でねぶた祭りが開催されていますが、ここ五所川原は縦型の「ねぷた」で、高さ10mを超えビルの5階建てに匹敵する大型のもの。見あげるだけで圧巻です。

この立佞武多に曳き手として参加できるのですから鉄道にしか興味がないような「熱烈な鉄道ファン」の皆さんにとっても人生初の体験で、皆さん大感激でした。

津軽鉄道をお目当てにやってきた皆さんが、たまたま立佞武多を見ることになったのです。これは五所川原市にとってはおそらく意外なことでしょうが、筆者としては五所川原市にとっての新規顧客の開拓であると感じています。なぜなら、津軽鉄道が無ければ五所川原市に来なかった人たちが来てくれて、祭りに参加してくれているのですから。

津軽鉄道サポーターズクラブのご協力

さて、今回の夜行列車企画は津軽鉄道サポーターズクラブの皆様方にもご協力いただきました。

終点の津軽中里駅で機関車の付け替えをする関係上1時間以上の長時間停車を取りましたが、その時間に地元の皆様方がラーメンのサービスをしてくれました。

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▲夜中の12時から1時までラーメンのサービスをしていただいた婦人会の皆様方。

ご協力いただきましてありがとうございました。

実は青森県はカップラーメンの消費量が日本一のラーメン王国ということで、青森県でしか売っていないようなラーメンを各種揃えていただきましたが、そういえば昔の夜行列車は途中駅で長時間停車があって、その停車時間中にホームの立ち食いそばをすすった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

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冷房のない車両ですが、こんな感じで窓を開けて食べるラーメンは格別でしょうね。

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▲津軽鉄道サポーターズクラブの高瀬英人代表です。

立佞武多に参加した後に駆けつけていただいてご参加の皆様方に御挨拶。

午前2時まで一往復一緒にご乗車いただきました。

鉄道に対する愛がある高瀬さんをはじめとする地域の皆様方に支えられているということがよく分かります。

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▲車内では津軽鉄道の車掌さんがオリジナルグッズの販売に深夜まで熱心でした。

ローカル鉄道にとってグッズ販売は貴重な収入源でもあります。

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▲思い思いに昭和の夜行列車を楽しむ参加者の方々。

今回は4人掛けのボックスシートを2人で使用するツアー設定でしたので、ゆったりとお過ごしいただけたと思います。

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▲正しい夜行列車の寝かた。

夜が更けてくると、車内のあちらこちらでこんな姿が見られました。(笑)

夜行列車運転ダイヤ

今回の夜行列車の運転時刻です。

第一行程 津軽五所川原22:30発 → 津軽中里23:20着

第二行程 津軽中里1:00発 → 津軽五所川原1:58着

第三行程 津軽五所川原2:30発 → 津軽中里3:20着

第四行程 津軽中里5:00発 → 津軽五所川原5:58着

一般の列車というのは目的地へ行くために乗る移動手段です。

これに対して観光列車というのは乗ることそのものが目的の体験型列車です。

昭和の時代は夜行列車は寝ている間に移動して朝になったら目的地に到着する便利な列車でした。

今の時代は新幹線も飛行機も高速バスもありますから、本来の意味での夜行列車の役割はすでに終了していると判断されています。

でも、「夜行列車に乗ってみたい。」という需要はあるはずです。

つまり、体験型の観光列車としての夜行列車ですから、別にどこへも行かなくたって、行ったり来たりして朝になる列車があっても良いのではないでしょうか。

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▲今回の参加者に配られた硬券指定席券

マニア心をくすぐる仕組みが各所にちりばめられています。

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▲朝日を浴びて走る夜行列車の最終行程(2枚とも撮影:松田安弘氏)

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▲今回の夜行列車でお手伝いいただきましたいすみ鉄道応援団の皆様方。(右端筆者、筆者の隣は津軽鉄道の澤田社長さん)

いすみ鉄道応援団の皆様が遠く千葉県から駆け付けてくれました。

鉄道会社の応援に垣根はないということですね。

写真には写っておりませんが、他にもボランティアで東京から参加していただきました仲間がいます。

ご協力いただきました皆様本当にありがとうございました。

そしてお疲れ様でした。

次回はおそらく12月。

どうぞご期待ください。

なお、この夜行列車を地元の東奥日報さんが記事にしてくださいましたのでご紹介させていただきます。

立佞武多の後…レトロな夜行列車に揺られ車中泊/津軽鉄道が新企画/宿泊施設不足への対応も狙う

どうぞご参照ください。

※本文中使用しました写真は注記のある松田安弘さん撮影のもの以外はすべて筆者の撮影です。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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